BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

<the view from Changmin>

 

 

 

 

別れた恋人が僕に会いたがっていると同僚から聞いた夜、会社帰りのスーパーでユノとバッタリ遭遇して一緒に帰宅した

夕飯も一緒に済ませて明日の映画の話をしていたら、今夜も泊まらないかと言われた

 

そこで、別れた恋人の一件を打ち明けた

 

食後の穏やかなひと時をぶち壊すような事をしたのは申し訳なかったけれど、僕にとっては一刻も早く解決したい事で、そうでもしないと映画をゆっくり見るなんてできないと思った

 

せっかくユノと恋人気分を味わえるいい機会なのだから

 

事の次第を全て話すと、ユノは思った通り不安そうで、僕が彼女と会ってはっきりさせたいと話すと必死で引き留めてきて、仕舞いには語気を強めて「行くな」と言った

一瞬、ユノの男の部分を感じてドキッとした

 

結局、僕は彼女と会わない事になって、その代わり電話で話をつけさせてもらう事にした

そうでもしないとユノも一緒について来るなんて言い出すのだから困ったものだ

 

そしてその晩、ユノは自分の部屋に戻り、僕は決戦に備えて気持ちを整えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユノが帰宅し一人になると、彼女の連絡先の書かれたメモを手にソファに腰を下ろした

別れて新生活をスタートさせた時点で、彼女の連絡先は全て処分していた

 

大きく深呼吸をすると、慎重に、間違えのないように、書かれた番号を順に押して行った

暫くすると呼び出し音が聞こえて、自分の心臓の音がこめかみに響いているのを感じた

 

番号を非通知設定にしていたからもしかしたら出てくれないかもと思っていたけれど、意外にも早く彼女は電話に出てくれた

 

 

『.....もしもし?』

 

 

久々に聞く彼女の声は、まるで初めて聞く人の声のように思えた

 

 

「あ...もしもし」

 

『チャン...ミン?』

 

「うん」

 

『嘘でしょ?』

 

「本当だよ」

 

『・・・』

 

 

絶句している彼女の気持ちが分かるだけに、少し胸が痛い

でもこの山を乗り越えれば、ユノとの幸せな明日が待っている

 

 

「手短に話すよ」

 

『ねぇ、元気?』

 

「あぁ...うん、元気

君は...声だけ聞く分には元気そうだね」

 

 

素直に思ったままの事を言ったら、彼女は鼻で笑った

 

 

『元気じゃないって言ったって、慰めには来てくれないんでしょ?』

 

「...ごめん」

 

『謝られても辛い

あ、手短に済ませるんだっけ?』

 

 

きっと話したい事が沢山あるのだろう

今までどうしていたのかとか、自分の事とか

でもそんな隙を与えてしまったら余計に期待させてしまう

 

 

同僚の彼女に僕の事で連絡をするのはやめて欲しい旨と、僕はもう会うつもりはない旨を彼女に正直に伝えた

僅かばかりでも期待をしていたらしい彼女はかなり粘ったけれど、僕も頑として譲らなかった

 

 

『ねぇ、好きな人でもできたの?』

 

「それに答える義務はないよね」

 

『って事はいるのね

最初からそう言ってくれれば良かったのに』

 

「はぁ...嘘だと思われると思って言わなかった

 

好きな人?うん、付き合ってる人がいるよ

今回の事もその人に全部話して、それで電話してる」

 

 

再び電話の向こうで沈黙

自分の事が新恋人に筒抜けだと知ったら、もうそれ以上何も言えないだろう

 

 

暫くすると、鼻を啜る音が聞こえてきて、彼女が泣いているのが分かった

でもだからと言って優しい言葉を掛けられない

 

 

『何か惨めだけど、自業自得なのかな...私があたなを振ったんだもんね』

 

「まぁね」

 

『ごめんね、もうあの子にもメールはしないから、そう伝えておいて、それから...

 

チャンミン、幸せになってね』

 

 

鼻声になった彼女との電話を終えると、何とも言えない気持ちになった

最初に傷付けられたのは僕で、でもその僕が今は彼女を傷つけた

ようやく彼女の未練を断ち切ることができたけれど、決して清々しいものではなかった

 

 

”幸せになってね”

 

 

彼女の最後の言葉が胸に沁みた

 

 

 

 

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翌日は晴れてユノとの初映画デートを堪能した

 

映画館でユノが手を繋いでくれた時は、まるで女の子のように胸がキュッとなって、これから映画を観るというのにまるで自分とユノの二人しかその場にはいないような気分になった

 

予告編を見ている間も神経は指先に集中してしまって、ただひたすらユノの手の温もりを感じては一人密かにドキドキしていた

そして、ユノも同じ気持ちだったらいい...なんて子供じみた事を考えていた

 

 

 

 

 

万事うまく行っていると思っていた彼女にフラれて絶望した僕は、スマホも変えて、番号も変えて、住む町も変えて新生活をスタートさせた

 

そこで出会った隣人のユノは今時には珍しくとても世話焼きの男で、そのお陰で僕らは恋に落ちた

 

最初は男に恋をするなんて...と自分自身に呆れたし、何を血迷ったのかとも思った

でもユノと関わって行くうちに、性別に関係なく惹かれる時は惹かれるのだと知ったし、実はユノも僕に惹かれたと知った時には素直に嬉しかった

 

そして今では、ユノは僕にとって必要不可欠な存在になっていた

 

 

 

 

 

「チャンミンどした!?」

 

 

夕飯の支度をしていたら、慌てた様子でユノがキッチンに入って来た

いつの間にかぼーっとしていたらしく、キッチンタイマーが鳴りっぱなしだった

 

 

「ん?あっ、ヤバっ」

 

 

急いでガスの火を止めると、タイマーのSTOPボタンを押した

 

 

「何か考え事してたの?」

 

「うん、ちょっと物思いに耽ってて...

ごめんね、タイマーうるさかったでしょ」

 

「いや、タイマーはいいけど、チャンミンの様子の方が心配だったよ

ゆうべの事、引きずってるんじゃない?」

 

 

ユノが心配そうに隣に立って僕の顔を覗き込んだ

こんな風にいつも気に掛けてくれるから、僕はユノの傍にいると安心するし、自然体でいられるのだ

 

 

「いえ、引きずってはいません

ただ、ユノとの出会いを振り返っていました」

 

 

それを聞いたユノの表情がフワッと柔らかくなった

 

 

「俺との出会い?」

 

「はい

僕が失恋から立ち直るためにここに越して来て、それでユノと出会って、今がある

それを思い返して感慨深くなっていました」

 

「そっか...

うん、本当だよな、俺も出会いに感謝してる

あの時にチャンミンが廊下で座り込んでいなかったら介抱する事もなかったし、今こんな風に一緒に夕飯を食べようともしていない」

 

 

そしてユノは僕の腰に手を回すと、体を自分の方にクルリと向けて抱き寄せ、ゆっくりと顔を近付けて僕の唇にチュッと音を立ててキスをした

 

 

「それに、こんな風に可愛い唇にキスなんてできなかった」 

 

 「ユノ...もっとして」

 

「え、いいの?

さっきはダメって言ったのに」

 

「ふふ、気が変わりました

でも、少しだけね」

 

「少しだけ?

もっとしてって言ったのに、少しだけ?

そんなの無理に決まってるじゃん」

 

 

ユノの熱い舌が唇の隙間から入って来て、一気に体が熱くなった

このままここで感情に任せて抱かれてしまってもいいと思うくらい気持ちが昂って、でもそれと相反するように、夕飯の支度の途中だしという思いもあって...

 

 

「ん....っふ....」

 

 

静かなキッチンに響く自分の吐息に我を忘れてしまいそうになった時、どこからかクゥ~...と聞こえた

 

 

自分のお腹が鳴った音だった

 

 

「んふっ!!チャンミンっ!?」

 

 

ユノがパッと顔を離してダイナミックに吹き出すと、三日月の目をして笑い出した

 

 

「相当お腹空いてるね

そりゃあ、こんないい匂いしてる傍にいたらそうなっちゃうよ」

 

「ごめんなさい...

せっかくのムードが台無し」

 

「いいよ、続きは食後にとっておこう

俺も腹が空いて来た、早く仕上げて食べようよ」

 

「はい...」

 

 

恥ずかしさでその場から消えてしまいたかったけれど、ユノに促されて支度を再開した

食い気より色気であって欲しかったのにと、自分で自分が恨めしく思えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※