BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕だって、できる事なら会いたくないです

でも、同僚たちにも迷惑を掛けているし、何らかの形ではっきりさせないととは思うんです」

 

「でも一人で会いに行くのは絶対にダメだ」

 

「ユノは...僕のこと、信用してないんですか?

実際に会ったら気持ちが揺らいでそっちに傾いちゃうとでも思っているんですか?」

 

「絶対に大丈夫ってことはないだろ?」

 

「僕はそんな男じゃありません

でも...そうですね、ユノがそこまで心配するなら、会うのはやめます

ただ、電話するなり直接彼女と話をして納得してもらいます

だったらいいですよね?」

 

「...分かった」

 

 

話が済むと、チャンミンは立ち上がってテーブルの上を片付け始めた

 

 

「あ、手伝うよ」

 

「いえ、ユノはゆっくりしててください

コーヒーでも淹れますか?」

 

「あ、うん...」

 

「ちなみに、今夜はやっぱり自分の部屋で寝ましょう

彼女のこともあるし、できれば今夜、決着をつけたいです」

 

「え、これから電話するの?」

 

「金曜ですし、夜更かしが好きな人だったので多分起きてると思うんで

それに...明日ユノと映画に行くのにモヤモヤを引きずりたくないんです」

 

「チャンミン...」

 

 

愛おしさが込み上げて来て、このまま抱き締めてベッドに押し倒したいと思った

でも、今のチャンミンはやるべき事と対峙しようとしているから、きっとそんな気分じゃないのも分かっている

 

テーブルを拭く手を上からぎゅっと握り締めると、俺の方を見て優しく微笑んだ

 

 

 

 

 

 

コーヒーを一杯飲んで明日の話をしてから、約束通り自分の部屋に戻った

 

きっと俺が出て行った直後にでも彼女に電話を掛けているに違いない

どんなやり取りが交わされているのかとても気になるけれど、それはチャンミン自身の口から必要であれば話してくれるはずで、こちらからは催促しないでおこうと決めた

 

 

俺と知り合う前の、俺の知らない二人の時間

結果的に別れてしまったものの、幸せな時間もたくさんあっただろう

 

慈しみ合い、支え合い、許し合い...

 

それなのに、破局したことで憎しみや恨みに変わってしまうのは悲し過ぎる

傷付いたのはチャンミンの方だと言うのに...

 

 

起きていると余計なことを考えてしまいそうで、さっさとシャワーを浴びてベッドに入った

もう決着は済んだのだろうか、こじれてはいないだろうか

明日は笑顔で会えるだろうか...

 

 

 

 

 

 

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身支度を整えていたらインターフォンが鳴って、モニターにチャンミンが映っていた

テーブルの上の財布を掴むと急いで玄関に行き、靴を履いてドアを開けた

 

 

「おはよう、チャンミン」

 

「おはようございます

ドタバタ音が外まで聞こえてましたよ」

 

「そう?気のせいじゃない?」

 

「ですかね...

じゃあ、行きますか」

 

 

 

 

 

映画館は、いつもの駅から電車に乗って20分、この辺りでは一番大きな街にある

予定では、映画を見てからランチをして、時間があれば適当にブラブラして、夕飯は家でゆっくり食べようという流れになっていた

 

チャンミンからは、まだ昨日の話題は出てこない

 

夜の間に別れた恋人に電話をしているはずだから、ひとまず向こうから話してくれるのを待つしかない

もしかしたらランチの時か、または帰宅してから話すつもりなのかもしれない

 

 

「あ、チケット発券して来ますね」

 

「あぁ」

 

 

映画館に着くと、チャンミンは入口に並ぶ発券機に小走りで向かった

そしてチケットを手に戻って来ると、その手から一枚受け取った

 

 

「飲み物買いますよね?」

 

「うん、あとポップコーンも」

 

「ですよね」

 

 

売店でジュースとポップコーンを買うと、開場の時間まで待ってから中に入った

チケットに書かれた番号の座席を探しながら周りを見回すと、人はまばらだった

 

 

「さすがに土曜の朝一は空いてますね...」

 

「うん、そうだね

封切られたばかりなのに、まるで人気がない作品みたい」

 

「そういうわけじゃないでしょう

休日ですからね、皆ゆっくり寝てるんじゃないですか」

 

 

 

座席に座ると間もなく、場内の照明が暗くなり新作映画の予告が始まった

最後にこうして誰かと並んで観たのはいつだろう?

しかも恋人と一緒に映画館なんて、もう記憶にすら残っていない

 

ポップコーンをつまみながら新作映画の予告を眺めていると、ふと視線を感じた

右側を見たら、チャンミンがじっとこちらを見ていて、俺と目が合うと嬉しそうに微笑んだ

 

それを見て、ゆうべの件はちゃんと解決したんだな、と悟った

そうでなければこんな穏やかな笑顔を見せるわけがなく、不安そうな顔をするはずだ

 

椅子の肘掛けの上から手を伸ばしてチャンミンの左手に指を絡めると、チャンミンも力強く握り返してくれて、そのまま映画が終わるまでずっと手を繋いだままだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ面白かった!!!」

 

「本当に?」

 

「嘘なんて言わないですよ

本当に面白かったんですから

 

途中、ちょっとじ~んと来ちゃってヤバかったです」

 

「あ、俺も」

 

 

場内が明るくなってお客さんがバラバラと出て行くのを眺めながら、まだ手を繋いだままなのに気付いて慌てて手を離すと誤魔化すように伸びをした

 

 

「今日は誘ってくれてありがとうございました

映画館なんて久し振りだし、凄く楽しかったです」

 

「お礼なんていいよ、これはデートなんだから」

 

「あ、そうでしたね

じゃあ、ランチに行きますか?」

 

「うん、もう腹ペコだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画館からすぐの所にあるイタリアンでランチを済ませると、そのまま真っ直ぐ家路に着いた

途中、駅前のスーパーで夕飯の買い出しをしてからアパートに着くと、今回は自分の部屋には戻らずチャンミンの部屋に上がった

 

 

「何か飲みますか?

コーヒーでも、お酒でもいいですよ」

 

「うん...」

 

「僕はビールにしますけど、ユノはコーヒーの方がいいですか?」

 

「そうしようかな

あ、コーヒーだったら自分で淹れるよ」

 

「あ、僕がやります

ユノはソファで座っててください」

 

 

チャンミンに制されて渋々ソファに腰を下ろすと、再び例の件が気になって来た

てっきりランチの時に話してくれるのかと思っていたら映画の話で終わってしまい、その後もずっと話題には上がらなかった

そろそろ話してくれないと、俺の方から訊いてしまいたくなる

 

 

「お待たせしました、はい、コーヒー」

 

「ありがとう」

 

 

チャンミンは隣に座ると、すぐに缶ビールのプルタブをプシュっと開けて、そして一気にグビグビと缶を傾けて飲んだ

恐らく半分くらいは飲み干したのではないだろうか

 

 

「あ、チャンミン...そんな一気に飲んじゃって大丈夫?」

 

「これくらい水みたいなものです」

 

「そ、そう?」

 

「ずっと気になってるんでしょう?

ゆうべ、僕がうまく話せたのかどうか

ユノ、顔に出ちゃうから」

 

「あぁ、まぁ、そうだね...

そりゃあ気になるよ、だって好きな人のことなんだから」

 

「ですよね...

結論から言います」

 

 

缶ビールをローテーブルの上にそっと置くと、真面目な顔で真っ直ぐ俺を見た

思わず姿勢を正してゴクリと唾を飲み込んだ

 

 

「彼女には、ちゃんと納得してもらえました

だから会社を辞めるとか、そういう心配はもうありません」

 

「そう...なんだ」

 

 

大丈夫だろうと思ってはいたものの、こうして実際にチャンミンの口から聞かない限りはやはり不安で、だから今、ようやく心からホッとした

 

 

「別れを切り出したのは向こうだし、それで僕に今更未練があると言われても困るとはっきり伝えました」

 

「それですぐに納得してくれたの?」

 

「最初はなんだかんだ言って、僕に会えるように持って行こうとしてましたよ

でも、好きな人がいるって、お付き合いしてる人がいるから無理だと言ったんです」

 

「え...そんなことまで言ったの?」

 

「だって事実ですし

僕には僕の新しい人生が始まっているからって伝えたら、泣き出しちゃって...

でも、ようやくそれで諦めがついたみたいです」

 

「まぁ、仕方ないよね」

 

 

チャンミンにとって、俺との交際は人生の新しいスタート、そう思ってくれていることが堪らなく嬉しかった

 

 

「チャンミン...抱き締めていい?」

 

「今ですか?」

 

「うん、だって、凄く嬉しいこと言ってくれたの、気付いてない?」

 

「まだお酒飲んでる最中だし、一瞬だけですよ」

 

 

そう言って俺の方に体を預けてくれたから、両腕で思い切りぎゅっと抱き締めた

それから頬にキスをして、唇にキスをして...

 

 

「んっ...それ以上はダメです」

 

「なんで?」

 

「もっと...したくなっちゃうから...」

 

 

そう言ってキスから逃がれるように俯いた顔は、お酒のせいなのか、恥ずかしさなのか、真っ赤に染まっていた

 

 

「いいじゃん、もっとしたいなら、しよ?」

 

「えっ...ちょっ...ユノっ!?!?」

 

 

そのままソファに押し倒すと、頭を両腕で固定するようにして挟み、唇に吸い付いた

ビールの一気飲みでほろ酔いになったチャンミンは呆気なく陥落し、求められるがままにその生温い舌を伸ばして俺の口内を掻き回した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※