BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会社からの帰り、弁当の入った袋を下げて街灯に照らされながら家路を急ぐ

さすがに22時を過ぎると、道行く人の姿もまばらだ

 

今日は久々に遅くまで残業をした

先週は定時上がりにしていたりで、すっかり業務が溜まってしまっていたのだ

それもこれも、全てチャンミンの存在の余波だった

 

 

アパートに着くと、チャンミンの部屋のカーテンの隙間から光が洩れていて、既に帰宅しているのが分かった

それを見た瞬間になぜかホッとしている自分がいて、不思議な気がした

玄関を開けた向こうにいるわけでもないし、おかえりと声を掛けてもらえるわけでもない

それでも、帰るとすぐそばにチャンミンがいる、そう思うだけで気持ちが温かくなる

 

部屋の前で止まって鍵を開けていると、どこからともなくカレーのいい匂いがしてきて口の中にじわっと唾液が出た

どうやらチャンミンの部屋の換気扇から漂ってきているようだ

 

カレーか...しばらく食べてないな

それに比べて俺は...

 

思わず手にぶら提げた弁当を見下ろしてしまった

 

 

今朝、思いがけず駅でチャンミンと一緒になって、そこでようやく自分の気持ちに気付いた

目の前に立つ男の横顔を眺めながら、自分が興味本位で好意を抱いているのではなく、その存在そのものに強く惹かれているのだと分かった

振り回されても構わないから、この男のそばにいたい、と

 

30歳を過ぎて、まさか自分がこんな風に同性に恋をするだなんて事が信じられない

でも、それは現実であって、今の自分なのだ

 

 

弁当をレンジで温めていざ食べようとしたら、インターホンが鳴った

こんな時間に何だろう?と一瞬思ってからすぐに、もしかして..と期待が膨らんで、出てみると案の定、そこにいたのはチャンミンだった

 

ただし予想外だったのは、手に鍋を持っていることだった

 

 

「えっと...こんばんは」

 

「こんばんは、夜分にすみません」

 

「いや、今さっき帰ったばかりだから」

 

「ですよね、そう思って来たんです」

 

「もしかして、待ってたの?」

 

「そうです、と言ったら気持ち悪いですか?

 

あ、これ、カレー作りました

冷めてから冷蔵庫に入れておけば、明後日までは大丈夫ですよ」

 

 

そう言って鍋をズイっと俺の前に差し出した

 

 

「あ、ありがとう

わざわざ作ってくれたの?」

 

「そうですよ

だってユノさん、外食ばかりで栄養バランスが偏ってそうだったから

これ、野菜たっぷり入れてありますけど、サラダも一緒に摂ってくださいね

じゃあ、僕はこれで」

 

 

そう言って立ち去ろうとしたから、思わず呼び止めた

何か用があるわけではないけれど、咄嗟に引き留めたいと思ってしまった

 

 

「何ですか?

まさか、カレーが好きじゃないとか言わないですよね」

 

「まさか、カレーは大好きだよ、ありがとう

 

呼び止めたのはそういうんじゃなくて...何て言うか、その、ゆうべのこととか...」

 

「あぁ...僕が気にしてると思ってますか?

大丈夫です、気にしてませんから

じゃあ、失礼します」

 

「あ、ちょ、ちょっと待って!!」

 

 

思わず靴下のまま玄関を降りて廊下に出ていた

振り返ったチャンミンが、驚きのあまり目を見開いて俺を見ている

カレー鍋を抱えたまま靴も履かずに廊下に立っている姿はさぞかし滑稽だろう

 

 

「あ...良かったら、何か飲んで行かない?

俺、これから夕飯なんだよね、だから...」

 

「いえ、やめときます

時間がある時にまた誘ってください

それじゃあ、おやすみなさい」

 

「あ...」

 

 

ペコリと頭を軽く下げるとそのまま自分の部屋に入ってしまって、取り残された俺は手にしたカレー鍋を虚しく見つめてからふっと笑った

 

 

やっぱりチャンミンはツンデレだ

 

 

誘いには乗らなかったものの、俺のためにカレーを仕込み、俺が帰るのを待っていてくれた

その時の心境を思うと、たとえツンデレだろうとチャンミンが可愛くて堪らない

ニヤニヤしたまま部屋に入ると、鍋をテーブルの上にそのまま置いて、それを眺めながら少しぬるくなった弁当を食べた

 

そしてふと、蓋の部分に何か貼ってあるのに気付いて触れてみたら、それは小さな紙きれだった

小さく折り畳んであって、テープで軽く留めてあるだけだった

広げて見ると、そこには小さくてキレイな字が並んでいた

 

 

『僕の連絡先をお伝えしておきます

いつも在宅のタイミングでしか話すチャンスがないので』

 

 

そしてメッセージの下に、メールアドレスが書かれてあった

すかさずスマホを開くと、そのアドレスを登録してしばらく眺めていた

これでいつでも連絡が取れる

 

思えば、もっと早くそうするべきだったのだろう

チャンミンとこれから互いの部屋を行き来することになると分かった時点で、いや、知り合った時点で連絡先を交換しておけば良かった

そうすれば、いちいち在宅かどうかを確認しながら部屋を訪れるという手間はいらなかった

 

せっかくこうして教えてくれたのだから、メールでも送っておくか...

内心では嬉しくて、そしてドキドキしていた

 

 

『こんばんは

チョン・ユンホです

アドレス登録しました』

 

 

ちょっと事務的だったかなと思いつつ、他に思い浮かばなかった

そして返事はすぐに来た

 

 

『こんばんは

メモに気付いてもらえて良かったです

あのまま火にかけられていたらと心配していました

これからもどうぞ宜しくお願い致します』

 

 

確かに、気付けたから良かったものの、あのまま冷蔵庫にしまっていたり、火にかけていたらメモのことなど気付くことはなかっただろう

チャンミンも口頭で言えば済むものを、随分と変なところにメモを貼ったものだと思った

 

結局この日、メールのやりとりはそれ以上は続かずに終わった

本当はもっと会話を続けたかったけれど、時間も遅いし迷惑になるのはイヤだった

そもそも、チャンミンに対して想いが膨らんで来ているのを知られたくはなかった

 

求められれば応じる、そのくらいにしておきたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその晩、変な夢を見た

 

 

ぼんやりとした視界の中で見えているのは、誰かも分からない人物の白い背中で、その背中を見下ろしている俺は、なぜか前後に揺れていて...

 

 

どうやら俺は、その誰かにバックで挿入しているようだった

 

 

白い背中を見下ろしながら、少し骨ばった腰を両手でしっかり抱えて勢い良く突く

奥まで突く度に全身に稲妻のような快感が走り、目の前の人物は規則的に甘い声を漏らす

その声がたまらなく色っぽくて、もっと奥へ、もっと奥へとひたすら突き続ける

 

そしていよいよクライマックスとなった時、俺は自分のを引き抜き目の前の背中めがけて夢中で全てを解き放った

 

肩を大きく上下させながら、妖しく背中を光らせたその人物がそっと俺の方に顔を向けると...

 

 

「チャンミン?なんで...」

 

 

それは紛れもなくチャンミンだった

真っ赤な顔で、うっとりとした視線を俺に向けてふわりと微笑む

 

 

「俺は...チャンミンを抱いていたの?」

 

「どうしたの、ユノさん?

いつもこうしてるじゃないですか

 

今日も、凄く良かったです

僕、ユノさんのが大好き」

 

「え...嘘だろ?

まだそこまでいってないよな、俺たち」

 

「何を言ってるんですか、もう毎晩じゃないですか

ふふ..僕のここも、すっかりユノさん仕様になっちゃいました」

 

 

そう言って、俺が今の今まで埋めていた部分に触れていた

 

 

「いつの間に...俺たちそうなってたの?」

 

「ねえ、もう一回して、まだできるでしょ?」

 

 

そう言いながら、チャンミンが俺に尻を突き出してきた

こちらを向く顔は、あの時の、俺を誘っていた時の顔だった

 

 

「いや、ちょっと待って、もう一回って無理だよ、そんな...」

 

「いいじゃないですか、ほら、早く挿れて、ねえ」

 

 

だから...

 

無理だって...

 

ダメだよ...

 

 

 

....と、突然頭のそばでスマホのアラームが振動して飛び起きた

 

 

「なんだ、夢か」

 

 

ホッとしたと同時に、今見た夢が自分の深層心理なのかと思って冷や汗が出た

自分がどれだけチャンミンを欲しているのかがこれで良く分かってしまった

 

一方的に自分が勝手に見た夢とはいえ、やっぱり何となく気まずくて、今朝は駅で会わないようにと急いで支度をすると、朝食も摂らずに慌てて部屋を出た

そして無事にチャンミンとは遭遇せずに電車に乗ることができた

 

なんだかいつも逃げてばかりだな...

 

一応付き合っているのに、チャンミンのことが好きだと自覚したのに、なぜ逃げてしまうのか

それはきっと、チャンミンの気持ちをはっきり聞かない限り解消しないことだろう

 

 

平日は時間の都合をつけるのが難しいから、やはり週末か

今週末、また食事にでも誘ってみよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※