BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

定時までの1時間は、集中力が途切れがちだった

打ち合わせで出た課題を一つずつ見直さなくてはならないのに、それがなかなか捗らない

 

 

なんでこんなに気が散るんだ?

 

 

気持ちが浮き足立っているような感覚で、今朝の隣人とのやりとりが原因だと...正確には、これから俺が隣人と再び顔を会わせようとしていることが原因だと自覚していた

 

 

そうやって集中できないまま時間ばかりが気になってようやく定時を迎えると、中途半端な進捗もそのままに、上司に声を掛けて職場を後にした

 

途中ですれ違った後輩が、定時退社の俺に驚いて声を掛けてきた

 

 

「チョン先輩、こんなに早くどうしたんすか?

まだ定時じゃないっすか」

 

「うん、まぁ、ちょっと急用があって」

 

「そうっすか...

お疲れ様でーす」

 

「あぁ、お先」

 

 

...そうだよな、普段は俺の方が遅く退社しているのに、今日はまさかの定時退社だ

でも、俺だって別に仕事の鬼というわけじゃない

たまにはそういうことがあってもいいだろう

 

 

 

 

 

 

 

自宅の最寄駅に着くと、駅前のスーパーに夕飯の調達に立ち寄った

まだ早い時間のせいか、惣菜類はそれほど値引きにはなっていなかった

いつもは破格で買えるのに今日は定価のままが殆どで、それが逆に新鮮だった

 

適当に何種類かの惣菜を選ぶとレジに向かい会計を済ませた

お酒も...と一瞬頭に浮かんだけれど、考えたら相手は体調不良なのだからそんなものは不要だ

 

 

スーパーから自宅アパートまでは徒歩10分

利便性で選んだ今の住まいはかなり気に入っている

1LDKの角部屋、日当たりも良好、お陰で家賃は決して安くはないが、それでも満足だ

難点は隣人問題だけで、まぁそれはどこへ行っても必ずついて回る問題だろう

 

 

 

アパートに着くと、隣人の部屋の前で一瞬立ち止まって中の様子を窺ってみた

当然、廊下まで何か聞こえてくるはずもなく、そうしている自分に笑ってしまった

 

 

俺は何をやっているんだ?

 

 

とりあえず自分の部屋に戻り、部屋着に着替え、買った惣菜類を持って部屋を出た

隣人の部屋の前に立つと、インターホンを押す前に軽くシミュレーションをしてみた

 

もし隣人が一緒に食べられそうなら、そのまま部屋にあがらせてもらおうか...

もし体調が回復しないようなら、惣菜だけ渡して帰ろうか...

 

こんな風にお節介を焼く自分に少し驚きながらも少しワクワクしていて、少年みたいな気持ちでインターホンを押してみた

 

 

 

 

...反応がない

 

 

 

 

試しにもう1度押してみる

 

 

 

 

...やはり反応がない

 

 

 

 

まさか不在なのだろうか?

予想していたように、あの直後に外出してしまったのか?

 

買った惣菜を見下ろしながらどうしようかと途方に暮れていると、部屋の中からガタガタと音が聞こえてきた

「いる」と分かったその瞬間、心臓がドッドッと鼓動を速めて、ゴクリと唾を飲み込んだ

 

 

ガチャガチャと音がして玄関ドアが開くと、朝とは違うラフな服装の隣人が顔を出した

そして俺の顔を見ると、少し照れ臭そうに会釈をした

 

 

「あ...今朝はすみませんでした

お仕事の方は大丈夫でしたか?」

 

「あぁ、はい、全く問題ないです

それより体調はどうですか?」

 

「えぇ、薬も飲んだのでかなり良くなりました

お気遣いありがとうございます」

 

「そうでしたか...顔色も良さそうですし、安心しました

仕事中もずっと気になっていたんです」

 

 

すると隣人は、俺の顔をじっと見つめて不思議そうな表情になった

 

 

「あの...

もしかして、わざわざ心配して立ち寄ってくださったんですか?」

 

「え?あぁ、はい

それで...ついでにと言ってはなんですけど、夕飯を買って来たんです

もし良かったら、一緒にいかがですか?」

 

「え、夕飯?」

 

「あ、いや、無理にとは言わないので

気紛れで買ってきただけなので、必要ないようでしたら持って帰ります」

 

 

隣人は視線を落として何か考えている様子で、俺はそれを見ながらドキドキしていた

伏せた睫毛が思いの外長く、こんな風に同性の顔に見惚れるなんて初めてのことだった

 

 

それはほんの数秒の出来事で、すぐに隣人は視線を上げると優しく微笑んだ

 

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

 

「そうですか、良かった...」

 

「汚い部屋ですけど、どうぞ...」

 

 

そう言ってドアを押さえて俺を招き入れてくれた

隣人の脇を通る際、その距離の近さに一瞬ドキッとして、どうして同性相手にこんな風に感じるんだろうと戸惑う自分がいた

 

 

部屋に通されると、ダイニングテーブルに惣菜の入った袋を置いてからリビングのローテーブルを見た

今朝、あそこには女性の写真が飾られていたのに、今はそこに何もなかった

飾れそうな場所はないかと見回してみたけれど、やはりどこにも見当たらない

 

 

...寝室にでも移動したのかな

 

 

なぜそれが気になるのか自分でも分からないけれど、写真の行方が気になって仕方がなかった

恐らくその女性は隣人の大切な人で、もしかしたら今日もここへ来ていたかもしれない

 

 

「わ、こんなに色々と買ってきてくださったんですか?

お忙しいのに本当に申し訳ないです」

 

 

隣人が惣菜の入った袋を覗き込んで嬉しそうな声を上げた

スーパーの惣菜と一目で分かるのに、そんな風に喜んでくれるのが嬉しかった

 

 

「いや、こちらこそ、スーパーの惣菜なんかで申し訳ないです

でも俺、料理とか苦手なので出来合いのものを買うしかなくて」

 

「いえいえ、スーパーでも十分美味しそうですよ

このままだと何ですから、お皿に移し替えますね」

 

「そのままでも構いませんよ

言ってくれれば俺が温めますから」

 

「でも、お皿によそった方がもっと美味しそうに見えるじゃないですか

せっかくですから美味しくいただきましょう」

 

 

そう言って惣菜を台所へ持っていくと、食器棚からお皿や器を取り出し手際よく移し替え、電子レンジで温めている間にテーブルに箸や取り皿を並べてくれた

その手際の良さに思わず見惚れてしまった

同じ男として、自分の不出来に少し恥ずかしくもなった

 

 

「お待たせしました、どうぞ掛けてください」

 

 

促されるままに隣人の向かいに座ると、スーパーで買ったとは思えない程美しく盛り付けられた惣菜にただただ感心するしかなかった

 

 

「お料理、お好きなんですか?」

 

「僕ですか?

そうですね、食べることが好きなので、作るのも好きです」

 

「そうですか、いいですね

俺はそういうの本当に苦手で」

 

 

隣人は俺の言葉に何か返そうとして、すぐに口を閉じた

それから申し訳なさそうに上目遣いで俺を見た

 

 

「えっと...

すみません、朝、お名前を聞いたかもしれないんですけど、もう一度お伺いしてもいいですか?」

 

「え?あ、チョンです

チョン・ユンホと言います」

 

「失礼しました、チョンさん

僕はシム・チャンミンと言います」

 

「あぁ、そうでした、シムさんですね

俺も改めて聞けて良かったです

これからもどうぞ宜しくお願いします」

 

「こちらこそ宜しくお願い致します

お隣に親切な方がいてホッとしました...

情けない話、引っ越してきたばかりで本当にここは不案内なので、実は心細かったんです」

 

「そうでしたか

何でも頼ってください、できる限りお力になりますよ」

 

 

そう言うと、シムさんは肩の力が抜けたような優しい笑顔を見せた

そしてその笑顔に、俺は年甲斐もなくときめきを感じていることに気付いた

 

 

相手が自分と歳の近そうな男だと分かっていながら、その笑顔から目が離せなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※