読書感想「夜が明ける」 | 大TOKYOしみじみ散歩日記

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お独り様となった50路男の、ぶらぶらノンビリンの東京物語

映画・マンガ・小説・芝居・テレビに動物
そして大切な母ちゃんとの想い出も時おり混ぜ合わせて

書き留めてゆきたいなと、思います


『夜が明ける』(2021)


高校で出会った男2人
(俺)と(アキ)の肉体と精神の変遷
親友たちは連み、励まし励まされ
やがて其々の道で苦汁を舐め、傷つきのたうち
自らを哀れみ世間を憎み、自らの殻を作り上げて死を待つ生活を繰り返す

もしそこに夜明け前の光明が差すとしたら
それは奇跡と呼べるのだろうか

…という話です
分からんわ o(`ω´ )o!

う〜ん
読みやすい
自分より歳下の作家が書いた文章は前回読んだ「うつくしい人」が初めてで、続けての西加奈子さんなんだけど、そちらに比べると
非常に読みやすい

単行本400頁の大作
前後編に分かれていて、前半は2人が高校時代に体験する夢の甘さと現実の酷しさ。後編はこれでもかと降り掛かる無体なまでの災難の繰り返し

実は青春期を語る前編は128頁で、後編の社会生活に出てからの苦労話に大半が費やされていますが
個人的には前後編に分けた真意が掴みにくいと感じました

敢えて深読みすれば前編は比較的リアルに見かける育児放棄・虐待・差別・破綻が描かれますが
後編はどこか作り話めいた展開も多く、フィクションとしての読み応えに文章が傾いているような気がしました

殊に(アキ)の辿る人生はハードボイルドかと思うほどに劇的で、クライマックスに繋げてゆきますが
これは賛否が分かれる所だなと感じます

読み終えた第一印象は、ダイナミック
面白く読ませるな、というのが浮かびました

ただ、西さん本人も自覚され読者の多くが読み取り感銘している世の理不尽に対する憤りについては
齢間もなく58歳の身からすると
若い人には(もっと世間を裏読みしろ)と申し上げたいし、私と同世代の人には(なぜもっと世間の理不尽や不正義に怒らない)と申し上げたい

何の為に映画があり、小説があり、芝居があるのかを改めて考えるべきではないか

人が作った仮想空間で得点を挙げて冒険者になった気でいたり
勇気・努力・勝利などという子供でも無理だと理解しているモットーを売り込むマンガやアニメを楽しむならまだしも、実人生で卑小化して成し遂げた気になっている昨今の日本人に
この小説はハードなのでしょう

励ましの小説というスタイルをとりながら
実は傍観者への苛立ちや憤りも含んだ
大切でダイナミックな一冊です

ただ一点の不満は
世の中の理不尽の中に(宗教)が描かれなかった事
「助けて」という当たり前の声に群がる悪意が宗教に姿を変えている事実を知らない作者ではない筈ですから、此処が最大の弱味かな


よくやるイメージキャストですが(アキ)と(俺)や若い人は思い浮かびません
大人の登場人物を何人か
アキの母親〜浅野ゆう子
俺の父親〜中井貴一
俺の母親〜黒木瞳
中島さん〜佐藤浩市
東国伸子〜黒木華
麻生〜岡田将生
咲口さん〜宮崎美子
押見チカ〜名取裕子
林〜青木崇高
ウズ〜小日向文世
オードリー〜天海祐希
アキ・マケライネン〜アキ・カウリスマキ
ロッテン・ニミエ〜カティ・オウティネン

※アキ・カウリスマキは映画監督ですが、ピタリなので特別出演(^_^)