映画感想「みかんの丘」 | 大TOKYOしみじみ散歩日記

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お独り様となった50路男の、ぶらぶらノンビリンの東京物語

映画・マンガ・小説・芝居・テレビに動物
そして大切な母ちゃんとの想い出も時おり混ぜ合わせて

書き留めてゆきたいなと、思います


『みかんの丘』

殺し合いは無くならないのか
無くなれば、この映画は作られなかったのではないか

静かな大地でみかんの収穫に勤しむ家族の映画を、見られたのではないか

そんな夢のような空想を見終えて感じました

それほどに切なく、それほどに辛い
作られるべきではない名作なのでした

映画を見るからと背景を知ろうとしても、私達には上辺しか理解できません

これがジョージア(グルジア)
かつては長寿の国として注目された事もありました
80年代の頭に岩波ホールでの連続上映を切っ掛けに、一時期(グルジア映画ブーム)が起きたのですが、90年代に入りパッタリと途絶えたのは独立と紛争が原因だったのかと知りました

地図左上のスフミという地域一帯がアブハジアという民族の居住地域で、ソ連解体によって国として成立したジョージアからの分離独立を強く望んで
紛争という名の殺し合いが始まったそうです

ミカンを栽培していたエストニア人達は

北欧に位置するバルト三国からジョージアへわざわざ出向いて来ました
恐らく、ジョージアからの移民勧誘があったのかもしれません。わざわざアブハジアに集落を用意するというのも、どうなんでしょう……

そして、アブハジアを支持する

チェチェン兵は、此処から送り込まれています

独立をしたジョージアに対するロシアの思惑もあり、アブハジアはチェチェンとロシアの兵に加え
物語に登場する

アハメドのような傭兵も雇い

愛国心という諸刃の剣を掲げたジョージアの軍隊を圧していたのだそうです
だから、物語に登場するジョージア兵の

ニカも若い

そして、そんな紛争地域に残る2人のエストニア人

イヴォとマルゴスにもそれぞれ、この土地を離れ難い理由があったのです

物語は殺し合いからは何も生まれない事を痛烈に伝えてきます
"死"を意識した者だけが生きられる不条理が常識となる大地で

また、私たちは狂気を見せられます

何度も何度も、繰り返し繰り返し
先人たちが訴えてきた事を、私たちはまた新しい作品で見つめなくてはならない

戦争があるから平和があるなら
平和があるから戦争もあるのだと

映画は自虐めいた教訓を伝えます

イヴォがミカン箱を作る時に、缶に入った釘が金槌の震動でポンポンと跳ねるカットがありました

ラストシーンに見事に繋げるイヴォの気持ちです
素晴らしい場面です

作られるべきではない作品ですが
名作です

(2016.9.15より転載)