そこは

私が住む町で一番大きい公園でした。


コーヒーを片手にベンチに座り、

私は
せっかくだからと
仕事の相談を持ちかけました。




このときもまだ、

私のなかであなたは

職場の頼れるお兄さんでしかなかったのです。






もういなくなってしまうあなたに

少しでも仕事の話を聞いてもらいたい、

そうしてアドバイスをもらいたいと、

私は必死だったのです。



あなたは
私の周りの人たちのことを思い出しながら、

どの方法を選択することが一番いいのか、

一緒に考えてくれましたね。



簡単に答えが出るものではないことは
私もよく分かってる。

だからこそ

そうやって
一緒に考えてくれることが嬉しくて、

知ってもらうことで
とても安心できました。






コーヒーがなくなり

いつの間にか日付が変わっていたけれど、

私たちの会話は途切れることなく、
夢中で話し込んでいました。




まだ遠くで鳴る雷の音を時折気にしながら。





深夜でも電灯が明るく私たちを照らし、

犬の散歩などで人通りもある公園。





ところが、

0時半を回ったときに事件は起こりました。








ぶかぶかのトレーナーを着たひとりの青年が
私たちに近づいて来たのです。

年齢は20歳くらいでしょうか。



「ねぇねぇ俺の歌聞かないかい?」

体を動かしながら
ラップ調で陽気に話しかけてきました。



色んな方法で小銭を稼いでいる人が、

この国にはたくさんいます。





私は
会話を遮られた苛立たしさが
すぐ顔に出てしまいましたが、

あなたはこんな人にまで

「いいえ、結構です。」
「今話し合ってるから」と

あくまでも優しく、
丁寧にお断りしていましたよね。



でもその内


だんだんとラップ調から普通の話し方に、
そして声のトーンが落ちてきた。




何だか空気が変わったと感じ取ったその瞬間…




彼はトレーナーの裾をまくり上げ、

隠していた2本の長いナイフを両手に構えて
あなたに詰め寄り、

羽交い締めにしたのです。







あのときの驚きと恐怖を







私は忘れることができない。