NHKの女性アナウンサーの声が変わった
元日の夕方、１６時１０分、突如起こった能登半島の大地震。
NHKのアナウンサーの呼びかけがXで波紋を呼んでいる。
東京の拙宅でも普通じゃない長い揺れが続き、思わずテレビを付けたら、
地震ニュース速報から、津波警報に切り替わり、
たちまちアナウンスが尋常じゃないテンションになった。
逃げてください、いますぐ高いところに逃げてください。
とりわけ、
「東日本大震災のときを思い出してください」というフレーズ。
あのときの津波での逃げ遅れの反省がある。
一度、波が引いて時間をおいてから大津波が来たという一連の動きを思い出させた。
いまは非常事態なんだ、
緊迫感が伝わってきて、聞いているだけでこちらまで動揺した。
避難を促すために強い口調なのは理解するが、
だんだんその女性アナウンサー自身が高揚しているのも感じられてきた頃、
発災から１０分か１５分後ぐらいだっただろうか、
緊迫感あるテンションから、
落ち着いたトーンに切り替わった。
別の人に入れ替わったのかなと、思った。
前半は、アナウンサーから逸脱した声としゃべり方で、
後半からは、緊迫感はあるがアナウンサーっぽい声になった。
途中から別の人に交代したのかな。。。と思ったので、
そのことについて誰かつぶやいていないかなと、
昨日から気になっていて、今日、Xで検索したのだが、
声の主が変わったという言及は見つけられなかった。
ほとんどのつびやきは、
昨日のあの声はNHK（東京）のアナウンサー山内泉さんであること、
災害対応としてよかったと称賛する声であった。
しかしXの中にも、途中から「声が変わった」、「優しい声の人に変わった」
「前半はおばさんの声で、途中からやさしいお姉さんの声になった」（失礼ながら）
というつぶやきもあり、
声の主が変わったとつぶやく人も、少ないけれど複数見かけたので、
人が変わったと感じるぐらい、途中で変化があったのは、事実である。
声の主は、同じ人だったのだろうか。
だとすれば、
同じアナウンサーだけど、デスクか上司に何かアドバイスされて、
もう少し落ち着いた口調で伝えるように変わったのだろうか。
（もし今後ドキュメントするなら、あの切り替えにどんな背景があったかも
教えてほしいと思う。
明らかに声のトーンや感じが変わったから）。
緊迫感を通り越して、ちょっと興奮しているようになっていたから、
「いったん深呼吸して」など、上司やデスクの一言があった気がするのだけど。。。
真相はまだわからない。
さて、あの非常事態のアナウンスについて今一度考えてみたい。
命を守ることば NHKハンドブック
大きな災害が起きても、人はすぐ避難モードに行動を移せない。
これを、社会心理学や災害心理学では、
「正常性バイアス」「日常性バイアス」と呼ぶ。
大変な事態だ、でも、あれ、ちょっと待って、うちじゃないんじゃないの、とか、
まっすぐ避難勧告を受け入れられず、平常運転を続けようとする力が働く。
これが、緊急避難の妨げになる。
ということを、３１１の津波でわたしたちはいやというほど反省した。
この反省を受けて、NHKでは防災のアナウンスのマニュアルが作られた。
「命を守る呼びかけ」という冊子。
「東日本大震災を思い出してください！」その時、ことばで命を守れるか。NHKアナウンサーたちの10年
の記事より抜粋、加筆。
地震や津波、豪雨など、さまざまな災害に則して、100パターン以上が載っている。
作成したのはアナウンサーたちで、
感情に訴え、人を動かし、災害から多くの命を救うとための「アナウンス」を模索してきました。
そのときの反省には
命を守るためのことばを見つけられなかった
という思いがあるという。
「どんな事態でも冷静沈着に」ということを当たり前の使命としてきたアナウンサーゆえの
「放送で命を守る」という問い。
なぜあのとき、もっと強く呼びかけなかったのか。
なぜもっと人を動かすことばを発することができなかったのか。
命を守るためのことばを見つけられなかった。
冷静、沈着なアナウンスメントに感じた限界。（これは尋常じゃない）
津波ということばをすぐに使えなかった
（武田真一アナ）
「黒い津波が家や車や畑を飲み込んで行く映像を前に、ことばを失っていました。実際には膨大な量のことばを発していたんですが、映像をひたすら声に置き換えているだけで、あの光景を呆然と眺めていたに等しかった。命を守るためのことばは、見つけられなかった」
NHKのアナが叫んだっていいじゃないか！
そのマニュアルの中には、
「地域に馴染みの地名を入れる」
「地域の過去の災害を例に出す」などが載っている。
NHKが作成し、地域の防災に役立ててもらおうと公開している。
その時、ことばで命を守れるか。NHKアナウンサーたちの１０年
命を守ることばとは？
上記のNHKの記事によると、ポイントが３つに絞られている。
・確実に伝わること
・行動を促すこと
・予断を与えないこと
インフォメーションからコミュニケーションへ。
情報を「伝える」だけから、「説得して訴える」呼びかけへ。
視聴者への「インフォメーション」だけでなく、
視聴者と「コミュニケーション」を図る必要があるという考え方。
「ふだんのニュースは理性で伝える。緊急報道は感性に訴える」
行動を促すには「感性に訴える」しかないというのが、東日本大震災の経験と反省から生まれた実感だった。
ふだん冷静なアナウンサーが叫び始める。だからこそ効果がある。
緊急報道は感性に訴える。
これ、災害時のアナウンスなんだけど、
アナウンスやコミュニケーションの本質をひもといていくと、
緊急時に限らない、人への「伝わる伝え方」なんじゃないか。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000853779.pdf
総務省のサイトに、NHKのキャスター 岩野 吉樹さんが講演したスライドが掲載されています
茨城県大洗町では住民に「避難せよ」と命令口調で呼びかけたことで、
災害を免れたという教訓がある。
非常事態には、こういうストレートな表現が必要だ。
わたしたちは、おだやかに、なごやかに、やさしく、ソフトに、平和に、平等に、
こういうことを美徳とする社会に生きていて、それができる人の方が優秀とされたり、好かれたりする。
平常時はそれでいいのだろう。
けれど、非常事態にもかかわらず、平常バイアスを払拭する力を失っているのは、
平和ボケと呼べるのではないか。
いまも時間を追うごとに、確認された死傷者の数が増えている。
いまは災禍にあるということだ。
それは、能登や石川県だけの話ではないのではないか。
お正月からそんなことを考えいたら、止まらなくなったので自分の頭の中を整理する意味で
ブログに書いてみた。
この記事を読んでみてね。
その時、ことばで命を守れるか。NHKアナウンサーたちの１０年
自分もアナウンサーやってた端くれとして、言葉でものを伝える職業人として
災害をはじめ、変化する社会や事象に対しての、伝え方、
アナウンスから見えてくるコミュニケーション、考えてゆきたい。
そして、こんなことを書くと叱られるだろうか。
個人的には、
よりによって元日に起きた。
というのは、地球からのメッセージだと思えなくもない。
元日のテレビが、民放でさえどのチャンネルも災害報道になっていて、
まさに１３年前を思わせる光景であった。
お正月特番が、片っ端から吹っ飛んだ。
民放はきょうは大方、戻っていたけれど。
災害とメディアというものを考えさせられた。
テレビという公器を、何を伝えるために使うのか。
どのチャンネルも、似たような顔ぶれの芸人のオンパレード、
そんなことのために、テレビを使うんじゃないと、
地球が言っている。
地球でいま何が起きているかを、伝えろと。
近ごろわたしは地域や農業・農村問題を主な取材テーマにしているが、
基本は、自助、共助、公助の優先順位が重要である。
防災に限らず食料安全保障においても。
自己防衛、コミュニティ、そして最後が公の力。
つまり、自分の命は自分の初動にかかっている。
それを促すのがアナウンスの力。
放送で命は救える。
ベジアナあゆみ