みなさんこんにちはー!
2023、新年度ですね。
わたしも1つ新しい仕事が始まりました。
日本農業新聞で新連載!
世界農業遺産GIAHSの月イチ旅エッセイスタートです。
小谷あゆみの世界農業遺産リポート!
写真と動画で紹介する「未来へ続く農の道」。
世界農業遺産(GIAHS)とは、国連の食糧農業機関(
世界的に重要な伝統的農林業システムのことです。
ユネスコ(U.N.E.S.C.O.)の世界遺産には、
歴史的な文化遺産と自然遺産がありますが、
世界農業遺産は、食料生産をし続けて、今も未来へも続く
持続可能な農業生産の仕組みを評価するものです。
現在、世界で24ヶ国74地域、日本では13地域が認定。
第1回は和歌山県「みなべ・田辺の梅システム」。
日本一の梅生産と最高品質の紀州備長炭を生み出した里山と生き物と人の共生
早春の和歌山、みなべ・田辺地域を訪ねてまず驚くのは、あっちの山、こっちの斜面に白く浮かび上がる満開の梅の花です。
中でもみなべ町の南部梅林は、丘の上から海が見渡せる絶景で、開花シーズンには3万人が訪れます。
「お客さんに『こんなきつい坂やったんか。どうやって収獲するん』と
驚いてもらえると、先祖の苦労が報われます」と語るのは、
地元の梅農家による運営組織「梅の里観梅協会」の田中康弘会長。
花を眺め、歴史に思いを馳せて食べる梅干し、それはそれはウメーというわけです。
この地が世界農業遺産に認定されたのは2015年。
礫質で急傾斜の多い山地で耕作に適さず、昔は大変貧しい地域でした。
そこで、斜面にウバメガシなどの薪炭林を残しつつ、梅を植えて開墾したのが江戸時代。
田辺市の田辺梅林。
みなべ町と田辺市の2ヶ所が、ジアス認定地域です。
やがて一次加工する技術が確立され、主力品種「南高」の開発とブランドが広まり、
高品質な梅干し産地に成長しました。
現在は、地域の就労人口の6割が梅産業に関わり、生産量3.5万トン、
国内の5割以上を占める日本一の梅の里に発展したのです。
梅の授粉に欠かせないミツバチを育む薪炭林には、「択伐」という技術が受け継がれています。
「炭焼きの原点は、山仕事」と語るのは紀州備長炭を生産する原正昭さん(52歳)。
山全体の生態系を捉えないと、良い炭作りはできません。
「択伐」とは:切った株の細い枝の芽を残す伐採法で、後継樹の成長を促します。
持続的に木が切り出せる上、切り株を残すため山の崩落防止にもなります。
化石燃料のない時代、炭は重要なエネルギーだったため
炭焼きは一つの産業として地域に収入をもたらしました。
ところが!
原さん曰く「200年以上前、江戸時代の後期に、効率を追い過ぎて
山の木を伐採し過ぎたために、山から木がなくなった」。
その反省から生まれたのが「択伐」。
木を根元から切り、切り株も取り除いてしまうと、新しい苗木を植えるところから
始めなけれななりません。材木になるまでに30-40年かかります。
でも、択伐だと切り株を残すので、その脇から新芽が生えてきます。休眠打破!!
いわゆる「蘖(ひこばえ)」ですね。
残った切り株の根っこから栄養をとり、スムーズに育つので
15年ほどで材木に成長します。2~3倍の速さで成長が進むというわけ。
これを「萌芽更新」とよびます。
しかし、タイミングを逃し、樹齢を重ねた木は、萌芽更新のパワーが残っていないため、
択伐をしても次の若い新芽が出てこないそうです。(なんだか人間に似ていますね。)
この切り株の残し方、切る位置、切る時期、様々なことを総合的に判断しないと、
萌芽更新はうまく進まないと言うわけです。
同時に、山に生える木の生態系をよく知り、技術やコツを学んでいくと、
普通、30~40年かかる木が、15年ごとに更新できます。
すると生産量は2~3倍にアップします。
その結果、安定的にいい木材から高品質の炭を生産し続けることができる。
品質も安定。
収入も安心。
山は健全。
これが持続可能な林業、製炭業というわけ。
一般的に、木を植えると言うのは、孫のためって言いますよね。
子どもじゃなくて孫のため。
25歳の人が苗木から木を植えると、その木が成長するのは30-40年後、
その本人は60歳ぐらいになり、昔で言うと、子どもも結婚して孫が生まれている頃。
ところが!
15年周期だと、1人の人が同じ木を3回切れるということです。
25歳、40歳、55歳、とかね。
賢いですね~~~~。
うなるしかない。
そういうわけで「択伐」が持続可能な農林業システムとして評価されている所以なのです。
貴重な紀州備長炭の小炭で七輪
昔は、山の各地に炭窯があり、木を運ぶのではなく、人が山々の炭焼き小屋を渡り歩いたそうです。
「山渡世」と呼びます。
確かに今でこそ軽トラがあり、切り出した木を荷台に積んで、炭窯のある小屋まで運びますが、
昔は人力しかないですよね。
一般に炭は、元の木材の3分の1の体積になるんだとか。
大きな木材を運ぶより、縮んだ炭を運ぶ方がエネルギー効率がいい。(当然CO2排出も少ない。)
材木を大掛かりに運ぶより、人が山を渡り歩いて、行く先々で木を切り、そばにある炭焼き小屋に
しばらく寝泊りする方が労働力もエネルギーもうまく使えるというわけ。
賢いですねーー。
いまでいう単身赴任か~。
「山渡世」という言い方がまたかっこいいじゃないですか。
人が山を渡り歩く感じがうまく表れています。
話を聞いてわたしが思わず、「遊牧民みたいですねー」と言うと、
原さんは、「そうか、なるほどなー」と笑っておられました。
行く先々にある資源を活かして恵みを生み出し、ある程度分け前を頂いたら、また次の場所へ移り、
15年ぐらいたって、そろそろあの辺も豊かになっている頃かな~と思ったらまた巡回する。
山は生きている。山は一つの大きな生命体で、
生える木はそれぞれの細胞のように働いている。
そこに人が時々手を加えて、分け前を頂きながら、活性化の手助けになっている。
日本人は農耕民族だというけれど、実は7割は森林、山岳地帯です。
取材や調査で山間部の集落を訪ねると、山の斜面にへばりつくように建つ家々を見て、
日本人は山岳民族だなと思わされることがあります。
山を活かすことがもっと求められているなと思いました。
この地域は昔から、梅と炭の兼業が多かったそう。
ほかの地域で炭焼きが廃れて行く中で、
「山があり、梅が栄えたおかげで、炭焼きも残った」と、
里山を活かす農業と林業の繋がりを語ってくれました。
なんと、そんな原さんのもとへ、30代の女性が弟子として修業中です。
お名前は、あゆみさん。地元、みなべ町の出身です。
外に暮らした経験もあるそうですが、世界を回って地元を見たときに、
山を活かし、炭を生み出す、この仕組みに感動して炭焼き職人になりたいと思ったそうです。
サスティナブル~~~!!
ウバメガシをはじめ、カシやナラの木は固くで引き締まり、良質な備長炭になるそう
並べ方が整然として美しく、トヨタの整理術を思い出しました。
やはり、いい仕事をするには、整理整頓からー。ととのうーー。
産地と消費者を結ぶ新たな試みが始まっています。
梅干しの製造・販売で120年続く岩本食品の岩本智良さんは、地域活性化策として昨年から始めた
「梅収穫ワーケーション」に希望を抱きます。
都市部から130人余りが滞在・援農した交流は
「化学反応を起こし、地域の農家にやる気と活力をもたらした」と、今年も受け入れ準備に追われます。
南部梅林の公園茶屋の糸川昭三さん。
梅システムマイスターの資格もとり、この地が梅で栄えた歴史を伝える語り部。
今回お会いした皆さんに共通していたのは、地域への愛と情熱。
それが自身の使命感や仕事へのプライドとなっていました。
満開を迎えた南部梅林(和歌山県みなべ町で、2月撮影)
活気ある農家の先輩たちに憧れて、郵便局員から梅農家になった
田辺市の北川翔大さん(32歳)は就農5年目。
4Hクラブの会長も務めます。
若い農家では食育や若者向けの梅の消費に取り組み、いまのおススメは、
梅ラッシー!
梅酒に牛乳を合わせるととろんとした飲料になり、食育で試飲してもらうと
みんながおかわりするほど人気なのだとか。
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/130600/130651/dayori/index_d/fil/agrijohou92.pdf
北川さんの言葉に、世界農業遺産に認められた理由が表れていました。
「先祖が創り上げ400年続いてきた梅の技術を未来へ繋ぐ1ピースでありたい」。
(田辺市、北川さんの梅林にて2月撮影)
梅システムとは
礫質斜面で高品質な梅を生産。全て梅林にせず残したウバメガシなど広葉樹の薪炭林は、
水源涵養(かんよう)や崩落防止の機能を持ち、「紀州備長炭」を生産。
梅の授粉には、薪炭林に生息するニホンミツバチが活躍する。
下流域では梅加工産業が発展、また水田や畑などの農業も。
自然を活かし、生き物との共生により里山が400年維持された農業システム。
ジアスの逸品
(梅干しの写真と備長炭の写真のキャプション)
完熟後に収穫する南高梅、大粒で果肉が柔らかい。
1000度以上の高温で焼くウバメガシの紀州備長炭は、緻密で硬く火力が長持ち。
撮影=日本農業新聞・染谷臨太郎、福本卓郎
13回シリーズの第1回は、和歌山・みなべ田辺の梅システム。
日本農業新聞の写真部とベジアナのコラボ企画!
YouTube配信も是非じっくりご覧ください〜
クリックしてね。
◎未来に続く農の道~小谷あゆみの世界農業遺産リポート~/
和歌山県「みなべ・田辺の梅システム」小谷あゆみ
国連食糧農業機関(FAO)が認定した、日本にある「世界農業遺産(GIAHS=ジアス)」を農ジャーナリストの小谷あゆみさんが巡り、農業農村の活性化と、持続可能な未来へのヒントを考えます。
(毎月第一月曜日掲載)
ベジアナあゆみ