6月6日、今朝の日本農業新聞の一面
家畜伝染病予防法の基準改正を受けた放牧への制限が、どどーんと大きく取り上げられていました。

見出しはこんな感じ。

農水省検討 放牧に畜舎設置義務 

伝染病予防へ 乏しい根拠、負担増懸念 

https://www.agrinews.co.jp/p51000.html

中部地方で2年前、野生イノシシを介して発生した「豚熱」。
(前は「豚コレラ(CSF)」と呼ばれていましたが、国内での名称を今年2月「豚熱」へ変更)
この豚熱の感染拡大の影響が非常に大きく、その予防策として今回、
「家畜伝染病予防法」の基準が改定されます。
 
養豚場で最初に感染が発生したのは2018年9月。
その後、発生養豚場は8県、野生イノシシからの発見は、15県、
隣県もあわせるといま、
豚熱は現在、24都府県が「大臣指定地域」になっているという
いわば緊急事態です。
47都道府県の半分が該当するのですから、国全体の問題として法を改正しようというわけです。
しかし問題は、最初の発生が2018年の9月(岐阜県の養豚場で発覚)
豚熱には有効なワクチンがあるのですが(絶対ではないにせよ)
(このワクチンを豚に接種しても、その豚肉は人の健康に問題なく食べられます)
予防でワクチンを打つと、豚の市場価値が下がる、特に輸出が制限されるなどの影響を恐れて、
決定までに1年以上の時間をかけている間に、中部地方のみならず、関東や北陸、関西にも
どんどん感染が拡大したという問題が根底にあります。
NHKニュースより
 
大臣指定地域とは(農水省資料) 
家畜伝染病の病原体が野生動物に感染したことが確認された場合に、
確認された家畜伝染病の性質及び同病に感染する動物の分布状況を総合的に検討し、
家畜での発生リスクが高まっていると判断した場合、
農林水産省告示で示す地域であり、
当該地域に所在する農場はそのリスクの高まりに応じて追加的に防疫措置を講じる必要がある。
 
豚に関しては、日本全国の半分が非常事態下という中で、
養豚農家が続けられるよう、生産意欲を失うことのないよう、
引き続き、有効な対策、措置、補償などの議論を要望しつつも、
このブログで今回、取り上げるのは、
豚・イノシシに対する基準から派生して、
牛・ヤギ・ヒツジの新しい改訂をどう読み取るべきか、
ということに特化して述べることをお許しください。
 

 

 

image
 
2010年に口蹄疫という大きな感染症が宮崎県で発生し、
ウシとブタ合わせて8万7千頭が殺処分されるという悲劇み見舞われました。
口蹄疫は空気感染するため、
近隣の牧場で口蹄疫が発生してもなお、牛を放牧したいという農家は、
まずいません。
(誰よりも農家自身が自分の家畜に感染させたくないのですから)
ただし、近隣って具体的にどこまでOKでどこからNGか、という距離については具体的に示して欲しいでしょう。
 
この資料でいいのかはわかりませんが、10キロ圏内というのが一般的でしょうか。

 
それを踏まえて、
以下の改正案の2ヶ所についてよく読んで疑問を明らかに、質問しようと呼びかけたいです。
 

 

 

 

9 放牧制限の準備 放牧の停止又は制限があった場合に備え、
家畜を飼養できる畜舎の確保又は出荷若しくは移動のための準備措置を講ずるこ と。
 
まとめていますので参照に。
 
⇒【牛】口蹄疫の場合、空気伝播により感染が拡大するため、畜舎 での隔離、出荷や移動の準備を行うことは有効と考えられるた め、反映する。
 
家畜を飼養できる畜舎の確保って、一体どれぐらいの設備ですか?
準備する費用はどうなりますか?

大規模など畜舎設備の投資ができる農業経営体はいいけれど、

老夫婦であと5年10年自分たちの代だけがんばろうとしているような家族経営の場合、

なにか特例措置や補償はないですか?

 

防疫は重要ですが、その前に営農(農業の継続)ありきです。

家畜衛生の専門家が必要だという対策と、

その運用が実現可能かどうか、

実際の経営上からの実現性は、生産者、もしくは生産者サイドにしかわかりません。

 

その改定をうちの経営に当てはめたら、こんな問題点が出てくるけど、

どう考えますか?

と質問するのは当然の議論ですよね。

 

 


続いてこちら。

 
26 畜舎外での病原体による汚染防止 
家畜の飼養管理に必要のない物品を畜舎に持ち込まないこ と。
大臣指定地域においては、放牧場、パドック等における舎外飼養を中止
 
⇒【牛】別紙参照。大臣指定地域 においては、衛生管理区域外から の感染防止対策に絞って追加的防疫措置を実施するが、野外飼育 はリスクが高いため、その禁止を反映する。
ちなみに案はこちらまた微妙に変わるので要注意。
 
「大臣指定地域」の説明は上に記しましたが、
舎外飼養を中止するとはいえ、舎内で飼うには畜舎が必要ですよね?
と、上記の9の項目とも重なってきます。
 
読み込めば読み込むほど、出口の見えないラビリンスに迷い込みそうですが、
とにかく、
質問や、問題点を意見しましょう。
 
 
 
 
それはそうと、日本農業新聞の記事であらためて驚いたのは、
放牧の乳牛がじつに23%(30万頭)もいるということ!
酪農家の牧場のうちの2割の牛が放牧なんですよね!
これは決して少なくないですよ!
 
ちなみにこの間、休校で学校給食がなくなり、行き場のなくなった牛乳は全体の1割!
1割の需給バランスであれだけ大変になるのですから、
23%は大きな力です!
(乳量と乳牛の頭数はイコールではないにせよ)
 
そして肉用牛の繁殖雌牛は17%(11万頭)!
 
心強い仲間たちと声を合わせましょう。
 
 
なぜわたしが、放牧経営を支持するかというと、
レジリエンス(災害に強い、回復力、復元力のある)
サスティナブル(持続可能)で健全な営みが、
農業に限らずすべての産業において重要です。
SDGsがまさにそれですね。
小規模でも多様な農業が日本列島のすみずみで営まれ続けることが、
リスクに強い農業、食糧生産、地域の継続になるです。
 
今回のような=放牧(外)は危険、舎内に閉じ込めれば安全という考え方で
思い出のは、東北などの沿岸で問題になった防潮堤です。
 
リスクを避けるために頑丈で巨大な壁をつくることは、自然界との遮断・断絶、シャットアウトです。(しようとしても完璧な断絶はできませんが)。
 
津波と、感染症ウィルス、一緒にはしないまでも、
人は自然界から様々な恵みを得て生きられています。
自然の恵みと脅威は紙一重です。
 
台風、地震、火山、様々な自然災害
 
壁(ハード)をいくら整備しても、
自然界(地球)は人智の及ばない新しい猛威をこちらに送り込んできます。
 
そして、生産者というのは、そういう自然の脅威と常に折り合いを付けながら、恵みをうまく抽出してきた専門家なのです。
 
わたしは棚田マニアで全国やアジアの棚田を歩いていますが、
棚田(ライステラス)が、山の斜面の土砂災害防止や、貯水機能があることは知られています。
農業は食糧生産しながら、国土保全ができる営みなのです。
 
自然共生社会、
人と里山の循環型社会。
 
昔は人が山に入って木を切って炭を焼いてエネルギーにし、
様々な種類の照葉樹林があったことで、木の芽や木の実があったので、
イノシシも鹿も、いまのように里の畑や田んぼを荒らすことはありませんでした。
宮崎駿さんの世界ですね。
人と里山の関係です。
 
長くなりましたが、
人がぜんぶ耕さなくても、
牛やヤギなど家畜は自分で草をみつけて食べてくれます。
草の種を山の斜面にまけば、飼料の自給ができ、それを人間が刈り取る方法もあるけれど、
刈り取らなくても、家畜たちが仕事してくれるなんて、すごい合理的で経済的です。
なので、放牧酪農家は、畜舎で牛を飼う酪農家に比べて、
労働時間も少ないし、エサ代がかからないので、経費も安く済むという事例を
何人もの放牧酪農家から聞いて知っています。

「放牧」は低コストな酪農システム ポイントは「収入」より「支出」

 
いま、農業は人手不足で後継者の居ない問題もありますが、
国のGNPをあげることよりも、収支のバランスをみて、
結果的に農家の手元に利益の残る農業政策しか、この国の生きる道はないと思っています。
 
その一つが放牧なのです。
棚田、田んぼは今のところ、人手がかかります。
せめて、牛や山羊が耕し続けてくれれば、
少なくとも、耕作放棄の荒れ地にはなりません。
 
山が荒れなければ、野生イノシシは、人間界や農場にやってこなくて済むのです。
イノシシは喜んで、人間界にやってくるのでしょうか。
イノシシだって人に嫌われていることはわかっているはずです。
危険もあるのに、それでも里へ降りてくるのは、山ではもはや食べていけないからです。
よね。
罪を憎んで、シシを憎まず。
 
 
合わせて(その1)も読んでね。
 

省令案の内容やパブリックコメントの提出などは下記のサイトをご覧ください。

家畜伝染病予防法施行規則の一部を改正する省令案の意見・情報の募集について

https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public

 

 

 
ベジアナ・本当に合理的で健全な農業のあり方を考えたい あゆみ