自分らしく働きたい

多様な個性を活かす農福連携

 

 農業と福祉を合わせて働く場をつくる「農福連携」に注目が集まっています。この取り組みを訪ねて青森県十和田市に行ってきました。

「農工園千里平」は1987(昭和62)年に社会福祉法人として始まり、現在は畜産部門を設けて、和牛139頭を繁殖、育成しています。牛の世話をするのは39人の利用者さん。

8人の職員もついています。まず驚いたのは毎日1時間のブラッシング!スキンシップで人も牛も心が落ち着き、双方によい効果があるそうです。

 

 最もにぎやかなのは朝と夕方。牛舎からパドックへの牛の出し入れです。担当の牛を一頭ずつ引くのですが、体重500kgもある牛たちの大移動ですから、利用者と職員、何十人もが集まって、「クララはいりまーす」、「次、ゆきなでーす」などと声をかけ合いながら行進します。まるで市場のようなにぎわいで、これほど活気にあふれた牧場は見たことがありません。さらに牛舎では、竹ぼうきを持って掃除する人や、牧草を運ぶ人など、みんな積極的に働いていました。

 

 こうした丁寧な生産管理が実を結び、去年8月、3頭の牛が青森県畜産共進会でチャンピオンに輝きました。おめでとうございます!誰だって自分らしく働きたいのは同じです。農工園はもともと、農家だった理事長の坂本さん夫妻のお子さんに障害があったことがきっかけでした。働く場が見つからないわが子の居場所として、知人にもらった一頭の子牛から畜産経営が始まったのです。

 

 畜産には様々な作業工程があります。ぜんぶを一人でこなせなくても、仲間と得意分野を分かちあえば、雇用も生まれ、経営も成り立つことを農工園が証明してみせたのです。足の不自由な人は手を使う仕事を、観察が得意な人は発情行動を見つけるなど、それぞれの個性が活きていました。自分の役割があり、担当の牛に責任を持つことで、意欲の向上にもなります。本来、農の場とは、こうした多様な存在を包み込み、誰もが活躍できる居場所なのだと、いきいき働くみなさんに教わりました。

 

農工園の写真2枚

1)イキイキ働く農工園千里平のみなさん。牛の世話は主に男子。

2)牛に自分と同じ名前を付けてブラッシングするリュウセイくん。

 

畜産に生きる人達から学んだこと

 

 さて、本コラムの連載120回を機に最終回を迎えることになりました。

長い間ありがとうございました。そもそもわたしと畜産との出会いは2005年、当時CSグリーンチャンネルで中央畜産会が制作していた「畜産!特産!ごちそう産!」という番組リポーターに起用されたのが始まりです。

北海道から九州・沖縄まで、牛、豚、鶏、羊、山羊と、数々の牧場を訪ねました。 

 その延長で始まったのがこのコラムで、番組から数えるとあっという間の14年でした。

「おいしいにはワケがある」というタイトルは、私自身が感動した、畜産物のウラ側にある生産者の思いや物語を伝えたかったからです。

 

 畜産は米や野菜などの農家と違い、生産と消費の間で「顔の見える関係」が築きにくいですが、

この見えにくい関係を結ぶ架け橋となるような発信ができれば、見えない心の距離を縮めることができるのではないか。

映像、文章、写真やSNSなど、あらゆる方法で伝えることで、お互いがもっと近づき、食に対する親しみや感謝、リスペクトが生まれるのではないかという思いがありました。

 

 「地産地消」に変わる新しい動きとして、「友産友消」という考え方があります。

生産者も消費者も友達のように手をつないで、互いが得をする取引すれば、関係は長続きします。

 畜産物は値段が付けられる前に、生き物であり、命です。米も野菜もそうですが、家畜はとりわけ命が目に見える食べものです。そのことが、都市の食卓ではどうにも忘れられているように思えてなりません。

 

 私にはこの大きな溝が、都市と産地の両方を(産地だけではなく、双方を)疲弊させている気がしてなりません。

外国の畜産物が入ってくる時代に、何気なく外国産を選ぶこと、つまり国産を選ばないことが何をもたらすのか。

日本人の(個人はもちろん企業の)生き方が問われています。

 

 それが、今世界中で問われている「SDGs」(持続可能な開発目標)の、サステイナブルな生産と消費の関係です。

 

 生産者がつくるのは、畜産物だけではありません。

先祖から受け継いだ土地を家畜とともに耕し、命を育んでいるのです。

そうした営みを代々続ける「家畜よし、自分よし、世間よし」という「三方よし」の生産者にたくさんお会いしました。

皆さんから学んだのは、経営哲学を通して日本人という生き方でした。

ごくごく一部ですが生産者へ感謝をこめて、写真をご紹介します。長い間ご愛読いただき、ありがとうございました。

 

 

1)福島県田村市で8頭の牛に名前を付けて家族のように育てる国馬ヨウ子さん

2)ヤギと牛のチーズで数々受賞し、「日本チーズ生産者の会」を設立した栃木県那須町「今牧場」の高橋雄幸さん

 

3)牛が山を耕す山地酪農で牛と人を育てる岩手県岩泉町「なかほら牧場」の中洞正さん

 

4)米農家との連携で牧場じゅうに稲わらを積み上げる長野県東御市の峯村このみさん

 

5)国産チーズと農福連携の先駆者、新得町「共働学舎新得農場」の宮嶋望さん

 

6)香川県三木町の広野正則さんと北海道湧別町のレイクランドファームの久保隆幸さん

ともに酪農教育ファーム認証牧場

 

ありがとうございました

 

 

ベジアナ・畜産アナ 小谷あゆみ