災害時 小さい農業の強さ 求められる分散、自立 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏

2018年09月18日

コラム 今よみ~政治・経済・農業

 北海道地震に 遭われた皆さまへ心よりお見舞い申し上げます。農作物被害に加えて、全道停電による大量の生乳廃棄や牛の乳房炎など酪農の被害は甚大で、影響の長期化が予想されています。地震そのものだけでなく、電力会社の巨大システムによる停電は、東日本大震災の後の人災や、大規模一極集中によるもろさを思い起こさせました。

 地震の2日後、長野県小谷村で開かれた「全国棚田サミット」に参加してきました。国内外から600人が集い、棚田の価値について語り合う大会で、今年で24回目です。

 人口およそ2900人、栂池高原スキー場で知られる小谷村は、全国有数の地滑り地帯でもあります。松本久志村長は、「村で貴重なのは平らな土地。2%しか農地がない上に水田は半減し、今では100ヘクタールほどしかない」と語りました。村では棚田オーナー制度を取り入れて都市部の人たちを呼び込み、棚田を存続させようとしています。地滑り跡に築かれた棚田は村の知恵と文化であり、地域の課題を恵みに変えてきた証しなのです。

 今回のサミットには、台湾やドイツ、フランス、ペルーなどから傾斜地農業の研究者が参加していました。

 彼らが棚田(RICE TERRACES)同様、注目していたのは、「里山(SATOYAMA)」という概念です。国連大学と環境省により日本から世界へ提唱された「SATOYAMAイニシアチブ」という理念は、国際プログラムとして37カ国で推進されています。自然への畏敬も含めて、人と自然が共生してきた里山のシステムこそ、地球環境問題解決の糸口になるというのが世界の共通認識ですが、果たしてこの誇るべき里山と農業と環境の関係を意識して農業に関わる人はどれぐらいいるでしょう。

 今回の全面停電で注目したいのは、発電機を持っていた牧場やJAの危機意識と、利尻島や礼文島などの島しょが停電を免れた点です。また、北海道で1100店舗展開するコンビニエンスストアのセイコーマートは、停電の中、95%が営業を続けました。過去の教訓から全店に車で発電するシステムを配備し、ガス釜でご飯を炊いて提供した店もありました。

 小さく多様な個性の集まりが、時にしなやかで強い。エネルギーも食料も、大規模生産は必要ですが、同時にいざというとき、幾分かは自前で賄える小規模な「分散と自立」こそ、求められるナショナルレジリエンス(国土強靭=きょうじん=化)ではないでしょうか。

 

コラム 今よみ~政治・経済・農業

ベジアナ・小谷あゆみ