東京大学安田講堂で、1/20(土)、第2回イオン未来の地球フォーラム
「いま次世代と語りたい未来のこと〜持続可能な消費と生産」と題したシンポジウムがありました。
「持続可能な消費と生産」は、まさにわたしの取材テーマであり、今回縁あって司会をさせていただきました。
主催したイオン環境財団の岡田卓也理事長は、地球規模の課題として「東西問題の後は南北問題だろう」といち早く環境問題に注目し、国内外で植樹活動をしているが、
「最も環境を破壊するのは戦争である」と、戦争体験者として平和の意義を強調しました。なんと93歳!健康長寿を体現されています。
東京大学国際高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)機構長・武内和彦先生のご挨拶です。
サステイナビリティ学の世界的リーダーで、FAO世界農業遺産の生みの親、SATOYAMAを世界に発信したことでも知られる武内先生。
農水省の審議会畜産部会がきっかけで、静岡県の邑づくり委員などでご一緒させていただき、世界農業遺産、生物多様性、人と環境の関係について教わる大尊敬する先生。じつは今回も、武内先生の紹介で司会することになったのでした。
(※写真は、武内先生と同じ世界農業遺産等専門家会議の委員をされているロハスビジネス@大和田順子さんが撮ってくださいました〜!)
さて、ようやく本題です。
基調講演①は、
慶應義塾大学 経済学部教授 細田衛士先生による「持続可能な消費と生産を考える」
印象的だったのは、このスライド。
1989年の日本経済新聞から。
「欲しいもの?ありません。
所有に意味を感じない
モノじゃなくて「いいね」が欲しい世代
平成世代はモノではなく共感に価値を見出す」
1989年といえば、まだバブルの時代です。
今から30年前にもうそのような動きと報道があったとは。
細田先生はこれを、「モノばなれ」と評しました。
「いいね」とは「快適性」
世論調査の「心の豊かさ:モノの豊かさ」6:4で心の豊かさが上回ったという話。
https://survey.gov-online.go.jp/index.html
売り切りの時代は終わり、修理して使う、3R(リサイクル、リユース、リデュース(減少・縮小))や、修理してもらえる「サービス」に価値が置かれつつあること。
しかし、社会での変革のためには「腐った扉」をたたき壊すきっかけが必要だとも。
日本は自ら腐った扉を壊すのが不得意だという話も。
なかなか過激な表現ですが繰り返し使われたので、そこに強い意志や考えがあるように思えました。
イギリスの哲学者で経済思想家、J・S・ミルの経済思想の話も印象的でした(が、メモが追いつかず以下引用。)
「資本および人口の停止状態なるものが、必ずしも人間的進歩の停止状態を意味するものでない」
※覚え書き別のところから引用
http://www.tohoku-gakuin.ac.jp/research/journal/bk2014/pdf/no05_08.pdf
東京大学大学院農学生命科学研究科教授 八木信行先生による「漁業の持続可能性に関する国際機関での取組」。
持続可能な水産のトップリーダーと言えば八木先生。
おもしろかったのは、
海洋の物質循環の回転は地上の何百倍の速さなのだそうです。
ほとんどがプランクトンのため命のサイクルは短いですが、循環が速い。
なので陸上では衰退した「狩猟」(漁)が、海洋では今でも成立する。
にもかかわらず、ニュースでもご存知の通り、
マグロ、ウナギなど、日本人の好きな魚の資源の枯渇は深刻。
技術の進歩でどんどん沿岸から遠洋に進出していったが、海は自国だけのものではない。
資源を管理しながら漁獲を適量に抑えなければならない。
水産業者にだけ強いるわけにはいかない。
先進国と途上国、国際的漁業管理の課題。
法律だけでなく経済的な支援も含めた政策の展開。
「持続可能性」(サステイナビリティ)の概念には環境だけでなく人権や労働も含まれますから、水産に従事する人の職を奪わないようにする視点も。
自然資本、人的資本、社会資本、物理的な資本、金融資本の5つが地域における資本(FAO(世界食料農業機関))
これぞ「包括的富」です。
2014年の10月、やはり武内先生の案内で参加した
経済学者ダスグプタさんの提唱する「包括的な冨」。
GDPだけではない、人的資本、自然資本を含んだ全体性が国の豊かさであるという考え。
これが持続可能な社会の基本なのではないか。
何を豊かさ、幸せとするか。
一人一人の価値観の変革の時代が来ている。
3人目の講演は、三宅 香 (イオン株式会社 執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当)さんの「イオンにおける持続可能な調達と消費の取り組み」
MSC、ASC、FSC認証などの商品がイオンで扱われている話もありました。
パネルディスカッションは、会場参加型にしようと、
Twitter #イオンフォーラム で質問・意見を募りました。
モデレーターは国立環境研究所社会環境システム研究センター長 藤田壮先生。
パネリストは、細田衛士先生、八木信行先生、三宅香執行役、
総合地球環境学研究所教授でFuture Earthアジア地域センター事務局長 ハイン・マレー先生、
地球環境戦略研究機関プロジェクトマネージャー 粟生木千佳さん(←なんと石川県ご出身で、中学生の頃に石川テレビでわたしのニュースを見てましたと言われびっくりー@@優秀な研究者になられたんですねー!)
またFuture EarthでIR3Sの毛利英之研究員も事前WSの結果を発表。
すべてのお話は聞けなかったのですが、
細田先生は、茨城の有機農家・久松農園の野菜を購入していて直接宅配で鮮度も違い、こんなにおいしい小松菜やニンジンなら高くても人はお金を払うという話でした。
会場から質問がありました。
おいしい食べものに高いお金を出すのは理解できるが、ハイブリッドカーなど環境のために高いお金を払うのはどう考えればよいのかと。
これについて八木先生は「教育の重要性」を説かれました。
教育。
ほんとうに大事ですね。
さらに、その後の話に会場がどよめいたのです。
2014年にニホンウナギが国際自然保護連合(IUCN)で「絶滅危惧1B類(危険度で2番目)」に指定され、近い将来、絶滅の危険性が高いと定義されたことを受けて、八木先生の仲間が消費者にアンケートをとったそう。
「絶滅危惧種だと知った上で、うなぎを食べたいかどうか。」
すると、その情報を知る前よりも、絶滅危惧種だと知ると、よけいに食べたくなる人が多かったというのです。
えええーーー@@
わたしはひっくり返りそうになりました。
そういうのを「閉店セール効果」というのだそうです。
→もうなくなってしまう。
→ならば最後に食べておこう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※ここからは個人的な感想〜ヽ(゜▽、゜)ノ
会場はどよめきましたが、わたしは静かに思いました。
わたしは絶対に食べないなと。
(アンケートの質問のし方まではわかりませんが)
よけい食べたくなると答えた人は、資源を守りたい、守ろうという意識が働かないのだろうか。
個人として食べてみたいという欲求以外の、
いわゆる社会的な関わりとしての意識が希薄なのだろうか。
いま、サステイナブルと同時に時代のキーワードとしてよく言われるのは「ソーシャル」です。
食についてソーシャルな意識が低いとすればそれは、国民性として悲し過ぎないか…。
(2011年以降、日本人のソーシャル、エシカルな意識は変わったという話も聞くのだけれど。そのあたりどう考えればよいのだろう〜)
これが民度だとすれば、
まさに教育を考え直す必要があるけれど、
暮らし方や美学のようなものは、学校の授業以外の日常で見聞きする大人のふるまいに大きく影響されるはずだ。
欧米に比べて日本は奉仕の精神が少ないなどと言われるけれど、
それがこの国全体の性格を表しているのだと思うと…、国際的にも協調できないのではないか、という危うさもはらんでいるのではないかと感じました。
さらに、八木先生の講演で、
マグロにも高級なクロマグロからキハダ、ビンナガまで5種類ぐらいあって、
値段の高い順に危機に瀕しているという話でした。
それを聞いてわたしは、
東京の人は常々マグロ信仰があるなと感じていたので、余談ですが書いておきたい。
西日本出身(兵庫と高知)で金沢で最初に就職した(石川テレビ)わたしは、
ブリやハマチや白身で育ったこともあり、マグロよりも断然、ブリやハマチや鯛やフグが好きです。
東京でフリーになって最初の仕事が夕方ニュースのグルメリポーターだったのだが、そのときあまりにみんなマグロマグロというのが不思議でたまらなかった。(なにがそんなにおいしいのかわからない。なので自分ではお刺身でもお寿司でもまずマグロを注文しない。)
なのに東京ではスーパーの刺し盛りでも何にでもマグロが入っている。要らないのに盛り合わせに入っているからよけるわけにもいかない。
ともかく、日本海側や西日本ではそれほどマグロ信仰はないんじゃないかな〜と。
だけどこのシンポジウムの開催地も企業も大学もぜ〜んぶ、「東京」なんですよね…:*:( ̄∀ ̄)・:*:
「持続可能な消費と生産」を考えるなら、あらゆる面において一極集中ではない、多様な考えや嗜好やセンス、違う価値があることを知ってもらうことも必要なんじゃないかと思いました。
というわけでわたしは、絶滅危惧種だと聞いたら食べない派を宣言します。
(念のため)大事なことは、二度と食べないのではなくて、年に一度や二度(何度かは人それぞれですが)、大切な食事会や接待とか記念の時に食べるとか。そういう命を尊重する食べ方をすればよいのではないか。(わたしには日本橋の老舗うなぎ店の知り合いもいます。うなぎは大事な食文化だとも考えています)
と同時に、いつでもなんでもカンタンに手に入るわけではないという考えが、もっと、食べものにあってもいいのではないか。(旬や漁期も含めて)
一方で、価値が低くて捨てられててしまっている未利用魚やマイナー魚のことをもっと食べるキャンペーンも必要だと思いました。
わたしは未利用魚を積極に販売して、水産資源の均衡をビジネスとしてアプローチする業者を知っているけれど、一般の多くの人はおそらく知らないだろうから、そういう意味での教育は本当に必要だろう。
(なので司会では、さかなクンが「国連の生物多様性リーダーやってて、いろんな種類の魚を食べようって言ってるんですよ」なんてことをちょっとはさんでみたりした。)
というわけで、
今回のイオン未来の地球フォーラムは、
イオンと、
東京大学国際高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)と、
Future Earthの三者が主催でした。
「持続可能な消費と生産」の答えは、一つではないでしょう。
sustainability(持続可能性)
diversity(多様性)の2つはよく並べて語られるけれど、
それを実現するには、
alternativeな視点が欠かせないのではないか。
一極集中ではない、じゃないほうの選択肢、という意味において。
ついでにもう一言、
「持続可能な生産」のシンポジウムなのに、農業や生産者の話、「CSA」というキーワードが出てこなかった。
CSAとは、(Community Supported Agriculture)で、
生産者と消費者が連携し、農産物の契約販売でお互いが支え合う仕組みのこと。
(細田先生の発言には一部含まれていたけれど)
水産の専門家に加えて、農業農村や生産サイドの専門家なり登壇者がいてくれたらもっとすばらしかった。
食のレッスンの場は、やはり食卓に近いところである。
大学の講義室よりもスーパーでの買い物や家庭、給食が身近だろう。
イオンは環境財団を創設し、CSRとしてSDGsの取組みをしているのはすばらしいが、本業の店の売り場で「かしこい消費者を育てる場づくり」をしてくれるのが、じつはいちばんの社会貢献、持続可能な消費と生産の橋渡しになる。
たとえば価格じゃない価値の提案だ。
マルシェや直売所のように生産者の顔や考えを伝えるアンテナショップ、メディアとして地域にスーパーがあり、買い手と一緒にその市場を創造していくならば、地域地域において最強のスーパーマーケットになるに違いない。
グリーンコンシューマー、エシカルコンシューマーを育てる場として、いちばん近いのはスーパーのはずである。
あ、書き出したらとまらなくなってしまいました。
ともかくたくさん発見と学びのあるフォーラムで、
やはりさすがいろんな方が参加されていて驚いた。
農水省・畜産部会でいつもサステイナブルな畜産のお話をされるゼンケイの石澤委員。司会よかったと声をかけていただき嬉しかった。
同じく農水省・世界農業遺産等専門家会議委員でロハスビジネスアライアンスの大和田順子さん。写真を撮ってくださいました。
それから、久しぶりにお会いできた食品ロス問題専門家で『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』の著者でもある井出留美さんがYahoo!ニュースに早速記事にされていました。
食品の閉店セール効果とは「いま次世代と語りたい未来のこと 持続可能な消費と生産」フォーラムに参加して Y!ニュース
司会のわたしのことまで紹介してくださりありがとうございました!
イデルミさんは食品ロス問題について日本でトップの専門家ですが、廃棄を減らすことと同時に農業問題のことも合わせてお話したいと思いました。
持続可能な消費と生産。
そのために私たちができることは何か。
さまざまな視点をもらいました。
第3回イオン未来の地球フォーラムは来年2/2(土)に開催する予定です。
ありがとうございました。
ベジアナ@サスティナブルアナ・あゆみ