「今よみ」日本農業新聞のコラムに書きました。
~本当のファンづくり~小浜市のミラノ博出展シンポジウムより~

 食料とエネルギーをテーマに世界140を超える国と地域が参加したミラノ万博が10月末、幕を閉じました。
大盛況の日本館へ多くの自治体が日替わりで参加する中、
福井県小浜市は満を持して4日間出展しました。

平成13年全国初の「食のまちづくり」条例を制定した小浜市。
京都へ続く鯖街道の出発点、朝廷へ海の幸を献上した「御食国」であり、
若狭塗をはじめ塗り箸生産日本一を誇るお箸のまちです。  

先日、そのミラノ万博報告を兼ねたシンポジウムがありました。
ミラノ万博で小浜市がアピールしたのは、ミラノ周辺在住の子供達がおむすびとお味噌汁を作る食育「キッズキッチン」と、 若狭塗箸の研ぎ出し体験でした。
ところで箸の研ぎ出しとは?
  若狭塗の特徴は、木地に塗った漆に貝殻や卵殻を並べ、さらに何十にも漆を重ね、その後、研磨して、貝殻模様を浮かび上がらせるという独得の技法です。その仕上げの研ぎ出しおよそ1時間の工程をステージ上でミラノ在住の外国人に体験してもらったのでした。和食文化の世界への発信としては、一見地味なプレゼンテーションですが、結果は大好評!大成功!  

初め厚い漆に包まれていたお箸をサンドペーパーで研ぎだし、見えていなかった貝殻が表れて美しい模様になったときには歓声が上がり、ステージは感動に包まれました。 この体験で自分の手作り箸を手にした人たちは、却って本物の若狭塗職人の作ったお箸を買いたがったというのです。(漆塗りなので高級です)
4日間で体験したのは220人。 参加者は自ら体験したことで、作り手の苦労を知り、感動を知り、若狭塗の本当の価値を理解しました。
 220人が若狭塗と小浜市のファンになったのです。
 またその証拠に、食育体験のボランティア通訳として参加したヴェネツィア大学3年のダニエラさんは、この経験で小浜が好きになり、今回なんと自費で小浜市にやってきました。
一人の人間をそこまで熱狂的につき動かしたのです。
 世界への発信を考えるとき、派手なプレゼンよりも、ひとり一人の心を動かす重要性を感じました。

  外国の人は、フジヤマゲイシャスシだけを日本に求めているのではありません。一見マニアックかもしれないその地域その地域に培われた歴史や人の技、見せかけでない本物を求めているのです。
 小浜市の本物はお箸と若狭湾を中心とした地域の食文化でした。 こうした体験は、農業体験やグリーンツーリズムに置き換えることもできるでしょう。本物の日本が残っているのは、都会よりむしろ地方の小さなムラかもしれません。
 農山漁村の暮らしと営みにこそ旅人を惹き付ける魅力があるはずです。


ベジアナ