「雪は天から贈られた手紙である」


石川県加賀市の産んだ雪博士中谷宇吉郎先生は

ロマンチックなことをおっしゃった。

だとすれば今回、金沢に届いた雪は

ずいぶん“分厚い手紙”になりましたね。

大雪の日から4日間、バス通勤をしました。

雪に埋もれて駐車場から車を出すどころではなかったのだ。

5日目からはようやくマイカー通勤ができたのだが、

それというのも実は、大雪の前から雪かき棒が折れていたため、

雪かきができなかったのだった。

そこで仕方なく、チリトリでやった。

(それはそれは大変でした。)

さて“天からの贈り物”と言えば・・・この度、私にもいろいろありました。

車の上の雪が解けて表面の色(赤)が鮮やかに現れたある朝、

ボンネットのど真ん中に

たくあんが一つ、落ちているではないか。

はて、どこから降ってきたのやら。

誰が置いたのやら。

真っ赤な車のボンネットの上に薄黄色のタクアンが、

まるで何かの予兆かまじないのように一つあった。

なんでよりによってタクアンなのか?

タクアンに託されたメッセージが・・・わ、わからない。

パールのピアスとか、せめてボタンなら

ステキな詩でも作れただろうに・・・。

学生の頃読んだ詩を思い出した。

「月夜の晩に、ボタンが一つ 波打ち際に、落ちてゐた。

それを拾って、役立てようと 僕は思ったわけでもないが

なぜだかそれを、捨てるに忍びず 僕はそれを、袂に入れた。(中略)

月夜の晩に拾ったボタンは、どうしてそれが、捨てられようか?」

(中原中也 「月夜の浜辺」)

私ならこうなる。

「雪解けの朝に たくあん一つ 車の上に落ちていた。

それを拾ってお茶漬けにしようと 私は思ったわけでもないが

なぜだかそれを捨てるに忍びず 指でつまんでパクリと食べた。

雪解けの朝に拾ったタクアン、どうしてこれが捨てられようか?」

(うそです。すぐ捨てました。)

雪は解けたが今だにタクアンの謎は解けない。

さて大雪のお蔭でいつもと違うバス通勤をしたわけですが、

これがなかなか楽しかった。

仕事の帰りに、歩いて会社近くのバス停(観音堂)に行くと、

別の部署のH氏もバス待ちをしていた。

「おつかれさまでーす。バスなかなか来ないですねぇ」などと

世間話なんかしたりして。

入社して8年、Hさんと挨拶以外の会話をしたのは

初めてであった。

(ふ~んこんなしゃべり方する人なんだぁ)なんて

ちょっとした発見があったりして。

あ、愛は芽生えなかったです。

(2001年1月26日。大雪の金沢にて)