子がいない人のお世話を親族が出来ないケースもあります。
 
 
現在、お元気ですが80歳代に突入しているAさん。夫を亡くし一人暮らしをしているAさんと、その遠方に暮らす姉のケースを事例としてあげてみます。
 
 
Aさんのきょうだいは、地元に残った姉と兄と弟の4人きょうだい。弟は他界しています。
 
Aさんの母親は初婚。父親は再婚で前妻との間に既に子が1人いました。4人きょうだいのうち長女の姉だけが腹違いで、他のきょうだいたちとは母親が違うのです。姉からしてみれば継母ということになります。
 
自分だけが母親が違う。再婚相手の母親は自分が生んだ子たちばかりをかわいがるという思いを膨らませていたようです。
 
年齢も弟や妹と離れている姉は、妹や弟たちに疎外感を感じて生きてきたらしく、姉のほうから一方的にきょうだいたちにも距離を置いてきて、きょうだい仲は昔からよくなかったそうです。
 
 
4きょうだいのうちAさんだけが夫の仕事の転勤の都合で他府県で暮らしてきており、夫亡き後、子どもたちも根付いている他府県のその地で暮らしています。
 
 
姉は結婚はしましたが子を授かりませんでした。夫にも先立たれ90歳を超えた頃から老人ホームで暮らすようになっています。
 
何かにつけホームスタッフに文句をつけ言いがかりをつけては激しく攻撃しがちな姉は、ホームから退去を命じられたこともあり、複数個所のホームで暮らしてきました。
 
 
姉は、Aさんの地元に居る兄とも仲が悪く絶縁状態。
 
初めての老人ホームにいよいよ入居となったときから、姉は地元に住む従姉妹の50歳代の娘さんに財産管理も任せて、従姉妹の子を信頼しきっていました。
 
Aさんも兄もそんな遠い縁者の親族の存在に、ありがたいことだと思っていたのです。
 
 
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今から数年前のある日のコロナ禍、入居していた老人ホームが閉鎖することになりました。そのことを知らされたAさんは、姉のホームに久しぶりに顔を出し姉に会いました。
 
「老人ホームはもう嫌。自宅に戻りたい」と、自宅に帰りたがる姉。
 
人への同情心が強いAさんは、年齢的にも先行き短いであろう姉の希望を聞いてあげたくなりました。
 
そして、姉を自宅に戻すことを決意して、「最期まで自分がお姉ちゃんの世話をしてあげるよ!」とお見舞いのときに約束してきてしまったのです。
 
姉は、自分の家に戻れる希望が見えてきて大喜びでした。
 
 
 
普段から「困った姉だ」とAさんも話しており、しかも心気症と診断されていた姉のお世話をするなんて、Aさんも元気とはいえ当時は78歳。「すぐにギブアップするのは目に見えているからやめるように!」と、Aさんの友人やAさんの50歳代前半のお子さんたちは反対しましたが、「自分には出来る気がする」と話すAさんでした。
 
(参考)心気症の特徴⇒自己の健康や微細な身体の不調に著しく拘り、これに執拗に囚われ、重大な疾患の兆候ではないかと恐れ怯える状態が続く状態。全身倦怠感や疼痛、頭痛、肩こり、全身のしびれ感、胸痛、腹痛、物忘れなども現わやすい。
 
 
友人や我が子たちからの反対にも聞く耳持たずのAさんは「今まで姉と疎遠になっていた分、90歳代の姉は年齢的にも先が短いから、最期は自宅でみてあげたい」と言いはるのでした。


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廃業する老人ホームから姉を自宅に迎え入れる準備の為に、姉から自宅の鍵を預かり姉の家に泊まりこんだAさんは、家の中の家具やTVなど多くのあるはずの物が無くなっていることにまず驚きました。

自宅の管理も任せていた従姉妹の娘さんが持ち出したに違いないと疑いました。

 
子がいなくて夫婦で長年退職まで共働きをしてきた姉夫婦です。
 
資産家だと思っていた姉から通帳を預かると、通帳残高が異様な減り方をしていることにも気がついたのです。
 
Aさんが姉と一緒に暮らすと決心したことで、通帳類も従姉妹の娘さんから返してもらい、従姉妹の娘さんが姉の財産を使い込んでいた事が分かってきたのです。
 
 
その事で、老人ホームに居た姉も交えてすったもんだする中、今まで姉のお世話をしてきてくれて信頼していた従姉妹の娘さんをAさんが疑ったことで、姉からも逆に責められ、Aさんはやってられない(>_<)となっていったのです。
 
 
Aさんは、このとき既にうつっぽくなって疲弊していき、姉に期待させてしまったことを後悔するのでした。
 
姉の主治医にも相談したら「お姉さんの世話をAさんが自宅でするのは無理だからやめておきなさい」と言われたことで、Aさんも医者がこう言うからと、姉の世話を姉に断る理由がつき、ほっとしたのでした。
 
 
では、老人ホームを探すのは誰がするのか?

これ以上、従姉妹やその娘さんにはお金のことですったもんだした以上頼めないし、頼みたくもない。仮に頼んだとしても、頼まれてもくれないでしょう。
 
Aさんの兄もAさんのことを嫌ってしまっており、自分のとこは姉のことで何もしないのに、Aさんが姉のことで相談しようとすると「お前は出しゃばるな!」と怒鳴りいい顔しないのでした(>_<)

Aさんと仲のよかった弟は既に他界。
 
自分しか動ける人いないのに、どうしたらいいのよ(>_<)となったAさんは、地元に住んでいた他の仲良くしてきた従姉妹に協力を仰ぎ、その従姉妹を通じて、地元にいい人を知ってるから頼んでみようとなったのでした。
 
 
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そのいい人とは、家庭裁判所経由で依頼できる後見人の仕事をしている女性でした。
 
姉の財産管理身上監護(生活、療養看護に関する事務)老人ホームから療養型病院への転居手続き、自宅の売却手続きなどを、全て後見人に託すことができたのです。
 
 
従姉妹の娘さんによる不明瞭過ぎる金銭の行方について、「姉は資産家だったはずなのに、こんなに財産を減らしてしまいおかしすぎる。これは許されない使いこみです。(>_<)」と憤るAさんに対し、後見人はこう言いました。
 
「従姉妹の娘さんは、レシートや領収書の控えも無ければ金銭出納帳も一切つけておらず、使途不明金についてもお姉様も従妹の娘さんも分からないと言います。
 
おかしなお金の流れは間違いなくありますが、それまでその人がお姉様の世話をしてきてくれたことは事実なのです。お姉様とその人との間でどれだけのやり取りがあったか分からない以上、これまでの事に関しては不問にふしませんか!?」
 
とアドバイスしてきたのです。
 
それでAさんと兄は、それ以上そのことについて追求しないことにしたのでした。


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後見人への多額の費用も毎月発生しますが、その費用は当然 姉持ちです。
 
 
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廃業する老人ホームから、受け入れてくれる療養型の病院も見つかり、病院側もよくぞ受け入れてくれた…とAさんは安堵するのでした。
 
親族の誰も世話を出来ずに後見人に頼るケースでは、いざという時も救急搬送の必要がない病院のほうが、有料老人ホームよりも適しているのかもしれません!
 
 
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地方都市ですが商業地にある立地故に、売却先がすぐにみつかったのは幸いでした。取り壊し費用は買主持ちで、その分安い値段で売却をしたそうです。
 
ただ、「愛着のある家をそんな安い値段で売却したくない(>_<)もっと高く売れるはずだ!家も壊してほしくない。せめて家をそのまま使ってくれる人に売りたい」とごね続ける姉を、後見人が説得するのは大変だったようです。
 
「今回を逃したら売却がいつできるかしれませんし、あなたの財産もここまで減ってしまっているのですから、売却金を今後の生活資金に当てましょうよ」と説得してくれたそうです。
 
Aさんは姉の家を売却する前の片付けをする為に数週間、姉の家に滞在したのでした。このことだけでも相当に大変でしたが、Aさんも片付けだけは孤軍奮闘頑張りました。
 
Aさんがいなければ、後見人は、業者に頼んで家の中を一掃し、更に片付け費用は嵩んだことでしょう。
 
 
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丁度これら一連の流れはコロナ禍の最中で、Aさんは姉とはほとんど直接会える機会もなく、電話も最初こそしていましたが、今ではほとんど姉からかかってこないのです。
 
後見人からは、Aさんから姉に電話をすることも控えるように!と言われています。
 
 
元々我儘で拘りが強く無理難題を言いがちな姉にAさんがヘタに介入するとぐちゃぐちゃになり、後見人も相当にストレスで苦労してきたからだそうです。
 
Aさんもしっかりしているとはいえ現在は80歳を超えました。判断力が鈍りがちで話の要点が見えにくく、話がまどろっこしく長くなりがちになってきているのは否めない。
 
それで後見人は、Aさんにも姉に接触して口出しすることをしないようにと釘を刺しているのです。
 
 
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最期は姉に自宅で過ごさせてあげたいとまで思ったAさんでしたが、姉から自分への当たりも強く嫌気がさしてきたのもあり、「あの人は周りに迷惑しかかけない人。あんな人は早く死んだほうがいい…」とまで言うようになっています。
 
 
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Aさんの兄も姉と絶縁していますし介護される側になっています。そういった事情もあり、姉を見送れるのはAさんのみですから、姉を荼毘に付すときは、通夜も告別式も無しの直葬にし、骨も拾わないそうです。
 

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Aさんたちきょうだいの事例は、きょうだいがきょうだいを世話することの難しさの一例と言えるでしょう。
 
それでも、姉が残した財産はきょうだいが相続するのですから、お姉様もなんだか気の毒なような、やるせない人間関係ですね。
 
 
 

世の中には歳とっても仲良くしているきょうだいもいれば、いがみあい絶縁しているきょうだいもいます。

 

後者では、親の介護を巡って、親と既に絶縁レベルの疎遠になっている子は一切親の介護に関わろうとせず、親と付き合いのある子が孤軍奮闘せざるを得ないケースもよく聞く話です。

 

 

親と絶縁する子の側にもそれなりの事情があり、事情を知らない者が一概に責めるのはよくありませんが、

 

いずれにしても、家族療法的な視点から書くと、


親子間、きょうだい間の人間関係は、友人、職場、地域などの広範囲のシステムに比べると、人々の生活において普遍的かつ凝集性の高いシステムの上になりたつ人間関係だからこそ、一旦感情的にこじれるとかなり厄介なのです。

 

 

仲がそこまで悪くなくても、きょうだいは他人の始まりと言いますが、特に両親が亡くなった後のきょうだいは、ともすると疎遠になりがちです。

 

 

特に子がいない人や、子がいても子と絶縁しているようなケースでは、

 

年老いたらいずれ年老いたきょうだい、もしくはもう少し遠い親戚の世話にならざるを得ないのですから、

 

親亡きあとのきょうだい同士、良好な人間関係を作り上げておくことは、人生最大の重要事項であることは間違いないようです。



これからの時代、結婚しない人たち、子を作らない人たちも増えていきます。



自分を荼毘に付してくれる人は誰になるのか?ということなど、若いうちは特に、考えたことがある人は少ないのではないでしょうか?…🤔💭