私が30才代半ば頃、自営会社の社長である義理父が倒れた。
友人たち数名と遠く離れた滋賀県にアユ釣りに行き、冷たい川に入ったとき、日頃から高血圧の義父は、脳内出血を起こし意識不明の重体となってしまったのだ。
休日で山奥という悪条件が重なり、救急搬送が非常に遅れた。
しかし、脳外の医師が駈け付け、緊急手術を行ってくださって、どうにか一命は取り留めた。
以降5年と8カ月もの間、父の意識は一度も戻ることなくあの世に旅立った。
私たち夫婦は、義父のかなり危険であるという一報を聞き、2人ともショックで、食べたものを夫が、次に私が嘔吐してしまった。
大好きな親を襲ったことに対するショックと、会社はどうなってしまうんだという二重のショックで、私たちはかなり打ちのめされた。
長男はその時幼稚園の年長5歳。次男は就園前の3歳になったばかり。すぐに幼い子ども達を親戚に預け、義母を乗せて我々夫婦は滋賀県の病院まで車を走らせた。
その日から、愛知県にある病院に救急車で転院するまでの数か月間、義母は滋賀県の病院近くにホテルに泊まり、行きっぱなしになった。
私たち夫婦はその日から、着るものだけを持って、会社兼自宅の実家に住んで、会社を守った。
ひっきりなしに、義父を心配する仕事関係者が訪れ、私たちはその対応に追われた。
また、中古住宅を一緒に見て回った上の義妹以外に、もう一人いる夫の下の妹が、出産間近の為、1歳半の赤ちゃんを連れて里帰りしていた。
義父が倒れてから、3日後に義妹は出産した。
本来なら、1歳半の赤ちゃんは、義妹の夫の実家にお願いするべきだったが、私たち夫婦になついている赤ちゃんの精神状態を心配して、入院中の世話を私たちにお願いしたいと頼んできた
私は、親戚中が義父のことで頭が一杯で、自分の出産を後回しにされ、父親が生死の境をさまよう中で出産しなければならなかった義妹のつらい気持ちを思うと、引き受けないわけにはいかなかった。
夫は勿論つらかっただろうが、私も大好きな義父のことを思って、布団の中で泣く日々が続いた。
それからは、戦争のように忙しい日々が続いた
朝6時半には客が来る。
昼間は機嫌が良かった赤ちゃんの姪っ子も夜になると親が恋しくて泣きだすので、夫が寝付くまで揺らしながら抱っこして家の中を歩き回った。
1歳半の姪っ子と3歳になったばかりの次男、5歳年長の長男の世話に、義母のやっていた経理の仕事も代わりにやって、仕事でわからないところは義母と毎日電話して聞きながら、なんとか乗り切った。
と言っても、一人で乗り切った訳ではない。
私が会社に出ている間、3人の子守をしてくれる姑の妹、夕食の惣菜を時々運んでくれた姑の弟の妻、病院のキャンプ場で使うような簡易ベッドで毎日寝ている母がまいらないようにホテルで寝る時間を確保する為、滋賀県の病院まで母の交代をしに行ってくれた2人の姑の弟2人の妻たち。
そんな夫の4人の叔母たちが、それぞれに役割を決めて、一丸となって、我々家族を助けてくれた。
お礼を言う私たち夫婦に
皆さんが一様に仰った言葉があった。
「気にしないで
お父さんとお母さんが、今まで如何に皆に良くしてきてくれたかということなんだよ。お礼を言うなら、お父さん、お母さんに言ってね」
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以来、私たち家族は二度と自分たちの家に戻ることはなく、夫の実家に5年半、仮住まいのまま同居し続けた。
義父が建ててくれた2階建ての私たちの住んでいた家は、売却することにした。
不動産屋に売却を依頼したが、不動産屋が動く間もなく、長男の幼稚園のママ友を通じて我が家売却の情報を聞きつけた同じ幼稚園に子どもを通わせている私のママ友のママ友が、我が家を見学に来た。
そして、一発で売却が決まった
売買契約書を交わした後、その人が、私に言ったことがあった。
その人は、事あるごとに相談している霊能力者がいて、霊視するその人に一緒に家を見てもらったそうだ。
すると、
「こんな浄化された清んだ家は滅多にありません。買いなさい。」
と言ったそうだ。
その人が
「ごめんなさいね。正直に言わせてもらうね」
と恐縮しながら
「でも、お父様が倒れられて、それが理由でこの家を売却されるんですよ。なのに、いいんですか?」
と質問したそうだ。
すると、霊視した人は
「親孝行で実家に戻るんですよ。すばらしいことではありませんか!」
と言われたそうだ。
「私、霊視で悪い結果が出たら、購入を見合わせるつもりでした」
と、話をしめくくった。
そして、私たち夫婦の間だけで「ババァ」と呼んでいた、詳しく書かないが、ちょっと問題ありの年配女性が住むお向かいの家を霊能力者が見て、
「あそこだけ、ちょっと難がありますね~。
そこの家の人にわからないように、家の前に行って塩をまいておきなさい。そして、自宅の敷地内の庭の角(ババァの家のある方向)に、盛り塩をしなさい」
と言われたそうだ。
前置きが長いうえ、ちょっと、自慢ぽくなってしまいましたが
家の「気」について、エピソードを書かせていただきました