彫刻家イサム・ノグチさんの「公園をひとつの彫刻」とする構想により、 2005年、札幌市にグランドオープンした「モエレ沼公園」。

公園内部に建てられたガラスのピラミッドに、同氏の石彫作品「オンファロス」が寄贈されることとなり、11月17日(日)、記念式典と、トークイベントが開催されました。

まずは写真をご覧ください。


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寄付をお祝いする会。関係者挨拶の後。これから除幕。

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オンファロス除幕。ガラスのピラミッドに盛大な拍手が反響。

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除幕直後。乾燥した状態。

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上部から水が溢れ、石を伝い流れ落ちる。
時と共にゆっくりと全体を濡らすよう。

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残念ながら待つ時間がないらしい。
関係者の方の機転で、間も無く水が行きわたる。

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皆様お近くでご覧くださいとのアナウンス。靴を脱いで上がる。

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後ろへ回って拝見。太陽光線と視線を浴びるオンファロス。

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パーカッショニスト加藤訓子さんによる記念演奏。

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トークショー後、レセプション前。
人が減ったのを見計らい、再度鑑賞。

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左前から。なお、彫刻が置かれている石板と木板も一部。

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右前から。この時、左横から安田侃さんがご覧になっていた。
ひと時そのご様子を見て、私は下がる。

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外へ出ると、月夜のガラスのピラミッド。満月前夜。

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振り返ると、丘陵のフォルムが明かりで浮かび上がっていた。

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11月17日は、モエレ沼公園の完成を見ることなく亡くなられた、イサム・ノグチさんの109歳のお誕生日。今年は、モエレ・ファン・クラブ設立10周年記念事業「彫刻「オンファロス」の寄付をお祝いする会/安齊重男記念トークショー」の開催で、華やかにお祝いされました。

15:00~15:30は、ガラスのピラミッド・アトリウム1Fで、式典「彫刻「オンファロス」の寄付をお祝いする会。

オンファロスは元々、イサムさんと札幌市の縁を繋いだ人物である、実業家の服部裕之さんが設立し、モエレ沼の設計統括でもある川村純一さんが設計した、株式会社ビー・ユー・ジーの本社社屋に贈られた彫刻。
服部さんは今回、世界的に計り知れない価値があるうえ、個人的にも大切な意味を持つであろう彫刻を寄付なさったのですが、除幕前のご挨拶で「オンファロスを引き受けてくださった札幌市にお礼」を仰り、それを受けて札幌市の方が「お礼を言うのはこちらの方でございます」と恐縮なさっていたのが印象に残っています。



◎オンファロス移設について

除幕されたオンファロスは、写真に写っている通り、濡れることでその存在感を増しました。私は以前、イサムさんの作品の存在感について考察したことがあります。

私が大学3年生の時、「美学」の講義で、イサムさんの人生に関する本を読んでレポートを書く課題がありました。調べると、米国と日本の戦時中、その混血であった為に、両国から誤解された芸術家なのだと知りました。
ならば、本にも誤解があるかもしれません。恐くてレポートの参考には出来なかったので、仕方がなく、彼自身が残した作品について感想を書くことにしました。
それで気づいたのは、世界各地に設置された作品の写真を見ると、元はその場に彫刻が無かったはずなのに、一度、彼の彫刻を設置してしまうと、その場に無ければ不自然だと思えること。もし撤去してしまったら、役者の居ない舞台のように寂しい場になるだろうと。それが、イサムさんが、「空間を彫刻」「大地を彫刻」した証拠ではないかと。
課題を無視したようなレポートになったのですが、驚いたことに褒めていただき、単位を貰えて安心したのを覚えています。

「オンファロス」は、イサムさんが、服部さんの会社に設置するために制作した彫刻です。当時、川村さんはイサムさんから「あなたと服部さんがやっている建物に合う彫刻ができたので見るべきだと思う」との電話を受けたそうです。
私が大学のレポートに書いたことが正しければ、オンファロスの移設は、ビー・ユー・ジー社屋にとって喪失であり、別の場所へ置いては不自然なはず。心配でした。

しかし、除幕されたそれは、不自然ではありませんでした。むしろ、濡れて輝くと、ガラスのピラミッドにあることが、最も自然であるように見えました。

オンファロスとは、ギリシャ語で「地球のヘソ」という意味を持ちます。イサムさんはそう名付けた彫刻を「社屋が完成されたらこれを置くといい」と言って、若き服部さんへ贈ったのです。
新しい置き場所は、ガラスのピラミッドの頂点の真下。建物の中心です。服部さんの寄付を受け、設置場所を探してみた時、ちょうど、その一角にオンファロスの板張り部分がぴったりと納まる、と分かったのだそうです。

縁によって贈られたオンファロスから、時を経て新たな縁を感じました。

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◎記念演奏について

除幕とお披露目に続いて、日本を代表するパーカッショニストである、加藤訓子さんによる記念演奏がありました。
ガラスのピラミッドには独特な反響があるのですが、そうでないとしても独特な音色だと思いました。その音色や響きには輪郭が無く、飛び跳ねて無限に広がっていく透明な水滴のようで、水を滴らせるオンファロスに相応しい演奏だったと思います。
式典では2曲のみの披露でしたが、同日・同会場で、夕方からコンサートも開催されました。

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◎トークショーについて

その後の60分は、ガラスのピラミッド内のスペース1に場所を移し、安齊重男記念トークショー「イサム・ノグチの彫刻と二晩寝た男」が開催されました。

アートドキュメンタリストとして、イサムさんや、その作品を数多く写真撮影された方です。親しい雰囲気で、幾つかの貴重なエピソードをお話してくださいました。

最も印象に残ったお話の一つです。安齋さんは1985年、美術雑誌「ARTFORUM」の依頼で、ニューヨークにあるイサムノグチ彫刻庭園を撮影するお仕事を受けました。
ミュージアムへ入ってみると、計算された採光で作品が置かれているので、刻一刻と光の当たり方が変わります。これは、ちょっと撮って帰るというわけにはいかないだろうと、2晩泊まり込みで撮影を敢行。

その中の1枚に、窓の外に写るマンハッタンの夜景と、明るい室内の作品が同時に写っているものがあります。その方法は、まず照明を消して夜景を写し、フィルムを巻かずに、明るい室内を重ね撮りするいうもの。後からそれを見たイサムさんは、「どうやって撮ったんだ」「すごい技術だ」と驚き、安齋さんは「これは技術じゃありません。算数です。足し算です」と答えたといいます。

撮影を終えた朝、イサムさんに「どこに泊まっているんだ」と訊かれたので、「ここです」と答えると、「送っていってやる」と。
「驚きました。飛ばすんですよ!あの人の運転。恐かったですね」
そんなお話をする安齋さんの後ろには、車に乗る前に撮った写真が映し出されていました。肩に白い朝陽を受ける、80歳を過ぎたイサムさんの笑顔。

それ以来、イサムさんは様々な場で、安齋さんを「私の作品と二晩寝た男」と紹介してくれたのだそうです。「それがね、嬉しそうに言うんですよ」と、安齋さんが嬉しそうに言うので、私も嬉しそうに書いています。

それから、安齋さんは、イサムさんは人間と自然の間に折り合いを探していたと思う、と仰いました。やりすぎてはいけないし、やらなすぎてもいけないと。

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◎トークショーについての余談

私は、安齋さんがイサムさんの作品と2晩寝た年の生まれです。

トークショーの最後には質疑応答のコーナーがあり、その時は質問を思いつきませんでした。アートを取材する仕事をしたいのに、こんなんじゃ全然ダメだぁ…と気を落としながら、夜のモエレ沼を歩き、「では、もし改めて質問できるなら、何を訊くべきだろう」と考えました。

「安齋さんはイサム・ノグチさんの作品を、数多くご覧になり、撮影されました。ご覧になった中で、一番お好きな作品は何でしょうか。また、安齋さんが撮影された中で、一番お好きな写真に写っている作品は何でしょうか。そして、それはなぜでしょうか。」

何と答えていただけるでしょうか。想像するとワクワクします。

出会いは奇跡ですね。突然訪れる出会いを、どう受けとめ、どう向き合い、何を成せるか。きっとそれが縁になる。オンファロスの移設と、安齋さんのお話から学びました。

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※オンファロスの移設について記載した幾つかのエピソードは、2013年10月1日に学芸出版社から発行された書籍「建設ドキュメント1988ーイサム・ノグチとモエレ沼公園」(著/川村純一(設計統括担当)、斉藤浩二(ランドスケープデザイン担当) 構成/戸矢晃一)を参考にしました。

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パフォーマンス集団・スケルツォについて、昨年こんな感想を書きました。

「時に爆笑もあり、シーンとなる場面もあり、それはモノの見方の斬新さに息を飲んでシーンとしちゃうっていう。たまに斬新すぎて解らないシーンもありましたが(笑)」

今年のテーマは、まさに「シーン」でした。

9月29日(日)に札幌cube gardenで開催された「スケルツォ新作発表会「シーン」」を観て、10月30日(水)の東京公演が終わってから感想をアップしようと思っていました。


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スケルツォ新作発表会「シーン」
『スケルツォはいつも会場が「シーン」とすることをねらう。静もある動もある、冷もある熱もあるような。ウケないって意味だけじゃないぞ、「シーン」!どうぞおでかけください。』
idea_加賀城匡貴 music_加賀城史典
cast_上ノ大作、小野健悟、加賀城史典、加賀城匡貴、工藤拓人、森脇俊文、吉川聡志、ルドルフライフ



スケルツォの公演は、加賀城匡貴さん(兄)のアイディアによって、日常で見過ごされがちな何かに別の視点を与え、意外なものに“見立て”ます。
それを、加賀城史典さん(弟)のDJ+ミュージシャンの生演奏、スクリーンの映像、生のパフォーマンスによって演目として構成。
何でもないようなモノをモチーフにしていながら、斬新でユーモラスな発想、個性的でスタイリッシュな表現を見せ、楽しく気づきを与えてくれるという特徴があると思います。



◎今年のスケルツォ(大まかなこと)

今年はオープニングの段階で、スケルツォの面白さ・楽しみ方を、舞台セットによって着想させるというスマートな方法によって、観客へ伝えることに成功し、その効果が終演まで生きたと思います。

昨年に無く、今年に有ったものは、ステージ上のランウェイです。ランウェイを見れば、観客は自然と「ファションショー」を連想しますから、音楽や映像が流れる中、人が歩いてきて表現するという非日常を、ごく自然に受け止めることができます。
ウォーキングで現れるパフォーマー達は、そこでスケルツォらしい違和感を伴って、ユニークな“見立て”を次々に展開していきました。

「スケルツォの特別な発想力と表現力に驚いた昨年」から「スケルツォと一緒に発想と表現を楽しめた今年」へ。公演時間が短く感じられました。



◎今年のスケルツォ(細かいこと)

広告のデザインは、天人峡温泉の羽衣の滝を、温泉タイルのように描いたもの。加賀城匡貴さんの記憶にある「シーン」の風景なのだそうです。

音楽は、DJの構成と生演奏の臨場感で、コーナーごとに格好良かったです。今回は、サックスの小野さんが演奏以外でもご活躍で、実は面白い方なのだと知りました。

観客参加のコーナーも充実していて、全員で「シーン」としてみたり、踊りにくい曲を斬新な方法で踊りやすくしたり、「ワー!」と表現される声を録音してみたり。知らない人たちと一緒になって、誰もやったことの無いようなことをするのは、子どもの頃の遊びのように新鮮で楽しかったです。

強く記憶に残っている演目がいくつかあります。
大事な部分を蛍光ラインなどで無限に強調するシリーズはシニカルだったし、判読できない文を身体で読む姿はダンスにも見えて面白かったし、「答えばかりを集めている男」の「答えが問題みたいだ」という話には、様々な問題と答えに通じる可能性を感じるし、そして最後の、車の後部座席に乗った3兄妹の物語と絵は、可愛くて、心の奥の懐かしい部分で暖かく共感できて、小さな子どもに見せたら喜ぶだろうと思いました。

公演の写真はコチラで公開されています。



◎今年のスケルツォ(気になること)

今年、改めて興味を持ったのは「なぜスケルツォはカッコいいのか」です。

例えば、身を削った経験を、独自の解釈で再構築し、他に無い表現を産み出す作風が、私は好きです。札幌の同世代で言うと、ラッパーの「韻牙ランド」や、演劇ユニットの「イレブン☆ナイン」などがそれに当たると思います。格好悪いとも捉えられる、産みの苦しみを晒してなお、突き抜けて格好いいのです。

一方でスケルツォからは、産みの苦しみが見えません。難しいことほど簡単に見せようとしている気がします。そこがスケルツォの魅力の一つだと思いますが、本当に苦しんでいないのか、あえて苦しみを見せないのか。
苦しみは、“見立て”の邪魔になるのでしょうか。それとも、“見立て”には、苦しみを面白さに変える効果があるのでしょうか。
スケルツォが、シンプルで、スタイリッシュで、スマートな理由。



◎今年のスケルツォ(他のこと)

■「好きです。さっぽろ(個人的に。)」
6月に加賀城匡貴さんがゲスト参加したワークショップ「井戸端会議 on 市電 ~市電に乗ってこれからの景観の話をしよう。~」。今年度の札幌市都市景観アドバイザーを務めているそうです。

■「アーティスト・イン・スクール」
小学校にアーティストが転校生として滞在し、子ども達と交流するプロジェクト。加賀城匡貴さんは、三里塚小学校で10日間「おとどけアート」をしたそうです。
10日更新のブログに書いた、美術家の高橋喜代史さんも、以前参加された試みです。



◎昨年のスケルツォ(見られること)

※昨年のブログにも書いたスケルツォの公演がテレビで紹介されていて、動画がYouTubeに上がっています。インタビュー内容も興味深いものでした。

昭和の札幌、撮影者も、被写体の名も分からない、白黒写真の数々。
その下には、平成の子ども達がフィルムカメラで撮影し、暗室で現像した白黒写真が並んでいます。どちらも笑顔でいっぱいでした。

ビルの空きスペースに手作りされた、期間限定の実験的なカフェ&フリースペース「越山計画」で、1日から写真展「写真で綴る札幌 子ども達の笑顔、昭和20~30年頃と現在」が開催されています。
会期終了は、明日15日(金)の22時。チカホ(札幌駅前通地下歩行空間)からだと3番出口を上がってすぐの越山ビルです。詳しくは「越山計画」のブログ をご覧ください。
展示場では、展示写真と説明文がまとめられた小冊子が、無料で配布されています。


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昭和の写真は、「時代」「子ども達」「出来事」の3つに分類して展示されています。

■「時代」
昭和25年の「第一回さっぽろ雪まつり・スクエアダンス」には、フォークダンスを踊る学生達が写っていました。キャプションによると、凍結した会場に人が押し寄せたので、滑って転んで怪我をする人がいて、30分で中止になったらしく、その僅かな時間を捉えた写真です。
他にも、昭和37年の「丸井デパート屋上の遊園地」や、昭和28年に来園した「円山動物園 ゾウの花子」など、その時代にしか見られなかった、時代を象徴するものが記録されていました。

■「子ども達」
フライヤーに使用されている、昭和28年の「スキー遊びの子ども達」は、戦後に外国風のスキーが出回り、盛んになったスキー学習の生徒。学生服姿ですが、動き回って寒くないのか、全員が弾けるような笑顔。白黒でも、赤い頬の色が見えるようでした。
他にも、昭和28年に人工乳の普及を目的として実施された「赤ちゃんコンクール」の、健康的に太った赤ちゃん達と母親がひしめきあう写真や、昭和29年の「特別献立の給食」を教室で喜ぶ姿など、子ども達の笑顔を通して、戦後に訪れた平和を感じられました。

■「出来事」
昭和33年に419万人を集めたという、北海道大博覧会で撮影された「50年後の札幌の模型」、昭和25年の豪雨による「豊平地区水害の状況」、昭和35年の「安保反対デモ」など、その前後で変わっていったであろう街の様子が、当時の人々の願いも含め、自分と同じ札幌市民におきた出来事として伝わってきました。



■「平成25年の子ども達が撮る札幌」
今年の夏休み、円山小学校の6年生23名が、写真家の指導のもとに友達を撮影・現像したワークショップの成果が展示されています。生まれた時からデジタルカメラの世代です。この機会が無ければ、フィルムカメラに触れることも、暗室で現像することも無かったかもしれません。それぞれ構図などに積極的な工夫が凝らされていて、真剣さと楽しさが伝わってきました。

知って初めて楽しめることがあるように、知って初めて想像できることがあると思います。それも、知識だけではなく、自分の目で見て、体で覚えることによって、ごく自然に想像できるようになる場合があります。
そして、想像できて初めて大切に思えることも、あると思います。
そんなことを思いながら、被写体につられて微笑んだ写真展でした。

この写真が写された時、何があったんだろう。
どうして、こんなに笑っているんだろう。
本当は、どんな色だったんだろう。
どんな人が、何を残したくて写したんだろう。
撮影後、暗室でどんな気持ちになっただろう。
撮影者と被写体は、その後どうしているだろう。
未来の人が私の写真を見たら、何を思うだろう。
私は、何を見よう。何を写してみよう。

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「NPO法人北海道を発信する写真家ネットワークは、札幌市写真文化振興事業として、札幌市が収蔵している写真を通して写真の持つ優れた記録性や保存性を提唱する写真展の企画運営を行っています。
第4回目である本展は、札幌の街が戦後の混乱から復興へと邁進した昭和20年代から30年代を、子ども達や当時の出来事などを中心に構成した写真展です。そして、平成25年の子ども達が、かつてと同じようにフィルムで撮ったいまの札幌を併せて展示いたします。」(公式ブログより)
7日(木)から、札幌市円山のギャラリーで、北欧フィンランドのエリナ・シピラさんによる版画展が開催されています。許可をいただいて写真も撮影してきました。


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個展を企画したのは、多田浩二さん。昨年、札幌のギャラリー・門馬 & ANNEXで、北欧と北海道のグループ展「ノーザン アーツ コラボレーション」を企画された方。フィンランドには学生としてお住まいだったそうです。
グループ展の時に、シピラさんの作品を展示した関係で、今回、日本初の個展を開催。次は、フィンランドで日本のアーティストを紹介する企画展も開催されるそうです。本当に北欧と北海道がお好きなんですね。北国同士、アートでの交流が行き交うと楽しみです。

私が伺った時、シピラさんはお土産を買いに出ていたので、お会いできなかったのですが、多田さんが「よかったらノートに感想を」と促してくださったので、Google翻訳を活用してなんとか記入。たしか、原文ではこんなメッセージを書きました。

「札幌に来てくれてありがとうございます!私には、あなたが、石で美しいことをスケッチしているように見えます。強さの中に静けさを感じます。ここで良い時間を過ごせて良かったです。フィンランドで遊びたいと思いました。あなたの国で、自然を楽しんでみたいです! 2013年11月11日」



作品の技法は、主に石によるリトグラフ(平板)、そして数点のセリグラフ(シルクスクリーン)。

森の風景、動物、樹木、そして人物の顔などのモチーフから感じたのは、野性的な野生と、その強さに共存する静けさ。
シピラさんが、野生に美しさを感じ、そのイメージを石にスケッチし、石を彫り、色彩を与え、紙に刷り写す過程のどこかで、作品に静けさが生まれたのではないかと思いました。
その静けさの正体が分からないまま、上記の感想を書いたのですが、帰り際、入り口付近でシピラさんの挨拶文を読んで気づきました。

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「伝統的な印刷技法を使って、私はジュラ紀からのイメージを根源にして石に描いています。その静けさ、寒さ、温かさ、そして生活からは、北極圏の自然を感じることができます。私の創作活動において、見ること、想像すること、経験すること、切望することが交じり合い、作品のイメージが生まれます。それらの作品は、各土地や文化、時間、そしてランドスケープの内部へと巡って行くのです。」

つまりシピラさんの作品に感じる独特の静けさは、野性に古代からの長い時間を想う過程が、作品に表れたものではないかと思うのです。
試しに私は、この北海道の大地が、ジュラ紀からどれほど変わってきたか、動植物がどれほど生まれて死んでいったのかを、頭の中に思い描いてみました。するとやはり、作品に向かった時と同じように、静かな気持ちになりました。

フライヤーにも使用されている1枚目の作品には、特別に長い時間を感じるので、飾ってあったら飽きもせず、毎日眺められるだろうと思います。
シピラさんがこれまでフィンランドでどんな活動をされてきたのか、これからどんな作品を制作されるのかに、興味が湧いてきました。あと、何を「切望」しているのかも。



会期は17日(日)までですが、シピラさんに会えるのは明日13日(水)まで。Facebook「Northern Arts Collaboration」をご覧ください。

ギャラリーレタラは、地下鉄円山公園駅から裏参道へまっすぐ、円山公園の手前で右に曲がり、静かな道をすこし歩いて、アメリカ領事館の向かいにある白い建物「MOMA Place」の3Fです。


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何かやりたい事があるとして、「それで稼げなきゃ成功じゃない」という一つの考え方があります。そうかもしれません。じゃあ、ボランティアって何なんでしょう。
例えば、自主的に誰かの為に、何十年も人知れず、奉仕を続けている人々がいます。一方で、アメリカのセレブが悪い事をして捕まると、指定期間の奉仕活動を命じられたりしますよね。

そういえば思い出すのは、私が中学1年生の頃、街灯募金のボランティアをしていたら、一人のバックパッカーが大きな荷物を下ろし、雨に濡れながら千円札を取り出して、募金箱に入れてくれたこと。
私はそれまで、ただ善い事をしているつもりだったから、箱の中のお金が増えると嬉しかったのに、その千円札には戸惑いました。
「あれ、この千円札って、誰が何のためにどう使うんだろう?なぜ私は何も知らずに立ってるんだろう?なぜそんな私に千円札を預けたんだろう?なぜだろう。」

ボランティアって何なんでしょう。分かるかどうか分かりませんが、書きながら考えてみます。

第5回の公開トークを聞いてみると、「地域のアートプロジェクト」には、ボランディアの皆さんの存在が欠かせないようです。
アートと地域とボランティアが一緒になったお話って、なんだかとても楽しそうなんですよ。なぜでしょうか。


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札幌国際芸術祭2014 プレイベント
第1弾「札幌の芸術文化史を知ろう!」
札幌芸術文化史 公開トーク(全10回開催)


第5回「地域のアートプロジェクト」
ー現代アートにおける地域の可能性ー

・2013年9月25日(水)17:30~19:00
・札幌駅前通地下歩行空間 北2条広場 東側
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昨今よく耳にするアートプロジェクトという言葉。アートというと美術館やギャラリーの中で行われるものを想像しがちだが、近年はそこから外に飛び出し、その土地ならではの地域性や文脈を捉えて行われているものが多く存在する。北海道でも様々な場所で行われ、それらはアートを通してその場所の普段は見えないものを見せてくれる。これらアートプロジェクトはどのようにして行われているのか、それがもたらす効果は。運営する人々がリアルを語る。
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GUEST
今村 育子 氏(札幌駅前通まちづくり(株)企画事業部/美術家)
国松 希根太 氏(彫刻家)
高橋 喜代史 氏(美術家)
藤沢 レオ 氏(美術家)
渡辺 行夫 氏(彫刻家)

司会
中田 美知子 氏(株式会社エフエム北海道 常務取締役)
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★渡辺行夫さん(彫刻家)
小樽市「ハルカヤマ藝術要塞」


小樽市の石狩湾を見渡せる春香山には、廃墟になった観光ホテルと、北海道を代表する彫刻家である故・本郷新さんの旧アトリエが、荒れた状態で残されています。
渡辺さんがそこを訪れた時、お化けや迷信は信じないけれど、そこから「場の力」を感じたと。旧アトリエを残し、作品を展示したい。しかし費用が無いので、一人で山に通って作業を始めると、最初は周辺住民に怪しまれたものの、行くたび挨拶をするうちに手伝ってもらえるようになったそうです。
そして、2011年・2013年に「ハルカヤマ藝術要塞」として、数名のアーティストがその「場の力」を生かし、山の中で野外展示を行いました。
「廃墟をアートで再生させた」と評価できそうですが、渡辺さんは「僕は春香山にとったら害虫」と仰いました。自然は自ら再生しようとしていたのに、山にとってややこしい事をしていると。

(地域ボランティアとの関係)
渡辺さんは、組織的に動くのが苦手なのだそうで、ボランティアを頼んだことはなく、周りが自然に動いてくれるようになったとか。例えば、トイレが必要だと思ったら、まず自分で作り始める。すると、見た人が可哀想になって手伝ってくれたそうです。

(若い世代へのメッセージ)
渡辺さんは若い人に対しても「表現者はそれぞれの時代に生きる同じ年齢」と思っているそうです。ただ「やたらに人を尊敬するな」と。「他人を尊敬するのは、他人の一部しか分かっていないから」という自覚があるなら良いそうです。
そしてまずは「自分がバカになって心から楽しむ」。そうすれば、周りが「何が楽しいの?」と探ってくる。自分が独立してやらなきゃ面白いものは作れない。自分で規制を作らないこと。

(私がこれから観たい関連イベント)
札幌にある本郷新さんの記念美術館で、「ハルカヤマ・サテライト」という、藝術要塞と連携した作品展が、11月17日(日)まで開催中です。
本館の隣には記念館があり、圧倒的な密度で、圧倒的なサイズ(高さ4mの石膏像など)の本郷作品が常設されていて、度肝を抜かれます。現在は特別展として、春香山のアトリエに関係する作品が展示されています。実はもう見に行ってきました。




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★国松希根太さん(彫刻家)
白老町「飛生芸術祭/TOBIU CAMP」


27年前、廃校になった木造校舎を、芸術家が共同アトリエとした「飛生アートコミュニティー」。校舎には今も「今週の目標 閉校式の準備を真面目にやる」という貼り紙が残されています。
国松さんは、元々は山奥が好きではなく、住民との繋がりを持つ気もなく、2年ほど制作に没頭する目的で住み始めたとか。
しかし、訪れる人に「良い場所」と言われるので、場所について知りたくなり、町内会の人に訊いてみると、そこがどんな風に作られた場所か、地域の歴史を知って、「ここは自分だけの場所ではない」「地域を生かして何かやりたい」と思うようになったそうです。
来場者が集落の一員になった感覚で、様々な展示やイベントを楽しめる他、オールナイトの野外イベント「トビウキャンプ」では、音楽・ダンス・人形劇を観ながら巨大なキャンプファイヤーに参加できます。

(地域ボランティアとの関係)
こちらも頼んだわけではなく、皆さん手弁当で来てくれるそうです。地元民も、プロも素人も子どもも、それぞれに合う場所で体験。1回で来なくなる人もいれば、毎回来てくれる人もいたり。
最初は、小屋作り、道整備、食事準備など、作業内容を振り分けるのが大変だったそうですが、チーム作り&リーダー決めをした事によって、責任感が生まれて上手く回っていったと。その仕組みを作るのに2~3年かかったようです。
土曜の朝から集まって作業して、夕方は温泉、夜はバーベキュー、一泊して翌日も作業という流れを続けていると、だんだん家族のようになって、信頼関係が生まれたり、スキルアップして作業が楽しくなったりするそうです。
地域の人が一番強い味方なので、サポートしてもらうのですが、「アーティストは自分のやりたい事をやりきるという、ちょっとトンガった部分も必要」という言葉が印象的でした。
そう言われれば確かに、アーティストの意思がぼやけると、サポートする意義もぼやけてしまいそうですしね。例えば、漫画「ONE PIECE」で言うと、船長が「海賊王になる」を諦めてしまったら、信じて協力していた仲間達が能力を発揮する場を失うでしょう。祭のサブタイトル「僕らは同じ夢をみる」にも通じそうなお話です。

(若い世代へのメッセージ)
北海道の芸術の歴史を調べてみたら、道立近代美術館も作家の働きかけで動いた街。実験するなら、北海道は場所のチャンスが多い。失敗しても良いから、やってみることで何か変わる。とのことでした。

(私がこれから観たい関連イベント)
11月30日(土)から、札幌芸術の森美術館で「札幌美術展 アクア-ライン」が開催されます。ポスターには国松さんの作品写真が使用されています。
「異なるジャンルで活躍する14人の作家たちの作品を紹介し、身近な水をめぐる表現の可能性に迫ります。」とのことで、前回のブログでゲストだった端さんも出展されます。

※ちなみに以前、国松家の親子三世代による展示会を観に、一人で鈍行列車に乗って富良野市へ行った事があって、その時の感想ブログはこちらです。




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★藤沢レオさん(美術家)
苫小牧市「樽前arty」


苫小牧市の樽前小学校は現在、児童数37名。藤沢さんも小学3年生まで通っていて、地元に戻って創作活動をリスタートするため、学校の近くに工房を構えたのだそうです。ギャラリーは元牛舎を利用したとか。
小学校では、「非日常ではなく、日常にいかに美術があり得るのか?」と、アーティスト達が、廃校ではなく、現役の校舎をそのまま使う試みが行われています。展示会はゴールデンウイークや夏休みに行われますが、公立なので管理体制が厳しく、校長か教頭が常駐しなければならないとか。
活動初期の生徒たちが中高生になり、美術好きになっているのを見ると、感慨深いとのことです。

(地域ボランティアとの関係)
「アート・アーティストを社会の中で機能させたい」とのお考えで、担当者や助成金が変わってしまう行政には最初から頼らないそうです。地元企業の社長にプレゼンして、市内100社中50社ほどが出資してくれたとか。
65歳以上が多い地区で、最初は「若者たちが何か始めちゃった」というリアクションだった町内会もサポートしてくれていて、作家だけでは越えられない面を、繋いでもらっているそうです。その方法は「普段から近所づきあいをただただ続けている」。また理解してもらう為「ゆるやかに衰退する中で、アートは必ず力になる」と、いくらでも話すのだそうです。

(若い世代へのメッセージ)
メッセージではなく、自分の活動への自戒として変えさせてほしいとの前置きがあり、いつも気をつけるのは「賑やかしで終わってはいけない」ということだそうです。また、伝えることではなく、求め続けられることが大事。終わったとしても、次いつ求められるか?を考える。とも仰っていました。

(私がこれから観たい関連イベント)
様々な催しがあったのですが、ひと段落したようです。また見つけ次第見に行きたいです。
ホッカイドウマガジン「カイ」秋号で、苫小牧市美術博物館が紹介されていて、樽前arty+との恊働による「びとこま」の活動も紹介されているそうなので、読んでみようと思います。この雑誌自体も毎度気になっていますし。




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★高橋喜代史さん(美術家)
札幌市「越山計画」「500m美術館」


越山計画は、空きビルの建て替えによって発生した空きスペースに、自分たちで期間限定の場を作ってみよう、人を巻き込んでいこうという計画なのだそうです。
アーティストとビジネスパーソンは、普段接点が無く、持てる情報が違うので、知り合ってもらえるような場を作りたかったのだそうです。栄養士が監修した日替りランチは500円。食べに行ったら美味しかったですよ。設置されている椅子などはボランティアによる手作りでした。カフェの白い壁には、イベントとして子供などに描いてもらった絵が一面を飾っていました。各種セミナーや、ミュージシャンによるライブも実施されています。

高橋さんは、芸術祭地域ディレクターの端さんが主宰されている「CAIアートスクール」の卒業生。漫画家になるか、アーティストになるか、30代まで悶々としていたのだそうです。そしてやがて、漫画と書道の要素を生かしたアートを国内外で発表。作品の写真を見たら、「ドーン」など漫画の擬音のゴシック体が巨大な立体作品として展示されていたりして、驚きました。アーティストが小学校に2週間だけ転校生としてやってきて、一緒に作品を作るというプロジェクト「アーティスト・イン・スクール」にも参加されたそうです。

(若い世代へのメッセージ)
500m美術館で学生と関わっていると、10~20代、もう新しい世代が出てきていて、違ったモノの見方をしているので、楽しみにしている。国際芸術祭が増えている。自分たちの90年代には無かった。親に借金してでも国外へ出て。

(私がこれから観たい関連イベント)
越山計画で、15日(金)まで、写真展「子ども達の笑顔、昭和20~30年頃と現在」が開催されています。札幌市が収蔵している、札幌の街が戦後の混乱から復興へと邁進した時代の、子ども達や当時の出来事などを中心に構成した写真展。平成の子ども達がフィルムで撮った札幌も併せて展示されているそうです。




$BABYISH GUIDE

★今村育子さん(美術家・札幌駅前通まちづくり株式会社 企画事業部)
札幌市「越山計画」
「チカホ(札幌駅前通地下歩行空間)」


札幌駅と大通駅を繋ぐ地下通路「チカホ」は全国的にも変わった場所。道路の脇に、商業施設だけではなく広場が複数あって、出来た当初はただの通路だったのが、だんだん広場から様々な情報が発信されるようになり、今は全国から注目されています。
通路の中心は公道なので規制が多く、公道と広場で管理者が違う問題もあり、ちょっとやってみては違ったという、試行錯誤の繰り返しなのだとか。
ルール作りもしなければならない中で、最初はみんなのやりたい事を叶えたかった今村さんです
が、やがて「パブリックはそういうことじゃない」と気付いたそうです。日々変わる状況の中で、どちらにも立たずに、常に調整をしていくお仕事。自分が工夫することで何か変わるかもと思い、頑張っているとのことでした。

(若い世代へのメッセージ)
ここで働くようになって世界が広がった。ベネチアビエンナーレを見た時も広がった。たくさんのものを見て、すごい人を知って、作家辞めたいとか、自分はダメだとか、絶望して、でもまたやりたくなる事の繰り返しを。

(私がこれから観たい関連イベント)
この公開トークが行われた場所こそチカホです。本当に最近、いろいろなイベントをやっていて、最新の面白い情報が発信されているので、なるべく毎日通るようにしています。Wi-Fi無料ですしね。
昨日と今日はチカホで、札幌市内各地で様々なジャンルのアートイベントが開催される「さっぽろアートステージ」のキックオフイベントも行われました。私は昨日の夕方、アートストリート部門の展示「アルクとチカク」のキュレーター風間さんと現代アーティストによる、市民鑑賞ツアーに参加。展示は12月8日まで続きます。今日は、ステージイベントの「東海林靖志コンテンポラリーダンス」を観てきました。




ところで結局、ボランティアって何なんでしょう。
奉仕活動は、どんな動機でも、どんな目的でも、どんな方法でも、どれほどの時間でも、どれほどの自主性でも、自負が有っても無くても、役に立っても立たなくても、辛くても楽しくても、喜ばれても嫌がられても、すべてボランティアと言えるのでしょうか。誰だって誰かを手伝うことくらいありますよね。サービスとボランティアの境目はあるのでしょうか。

あの「濡れた千円札」について今確かに言えるのは、ボランティアをやらなければ、私がそれを受け取ることも無かったという事。奉仕活動であったがゆえに、自分と他人の間に生まれた、ほんの短い物語に、価値を見出せたということくらいです。

そして、アートと地域とボランティアが一緒になると楽しそうなのは、活動にアーティストによる創造性がプラスされるのが理由じゃないかというのが、今日のブログを書いてみての仮説です。

様々なボランティアをする様々な人たちが、何に興味を持ち、何を大切に思って活動し、その思いがどんなカタチになって表れているのか、尚更知りたくなりましたし、自分でもまたやってみたいと思っています。