娘が言った。
無人の駐車場の券売機。
お金を入れたら、
取り出し口にはもう一枚。
多分前の人が取り忘れたもの。
自分がお金を入れる前に気づけば、
その券で1日止められたのに。
でも、ズルいことをして、
今日一日の運を使ってしまいたくなかったから、
その券を置いたまま、
自分の券を車に置いた。

かつての自分のことを娘に話す私。
公園でみつけた黒のバッグ。
小さな子供達に、事務所に届けに行くと言いながら、
心臓はもうバクバクで。
トイレに入り、バッグを開けたら、
2万円入りの財布と
ティッシュに包んだお菓子。
あの当時、欲しかった2万円。

黒バッグの持ち主であろう
おばあちゃんと孫の光景。
おばあちゃんの楽しい一日が
かなしい日になる想像。
悩んだ私は愚かだったけれど。
事務所に届けた後の気持ちは晴れやかだった。

帰宅して父からの電話。
母が心臓の病気で入院したと。
危なかったけど、大丈夫。

あの時、私が2万円盗んでいたら、
母はあの時死んでいたかもしれないと
今でも思う。


柔道家の古賀さんの訃報を夫に伝えた。

人間はいつか必ず死ぬ。
だから生きているうちに、良いことをして、
天国に逝く準備をすればいい

私は夫のつまらない言葉を
背中で聞き流した。

私の心の中にある芯は
イスラム教からではなく、
生まれた時から備わっているものだと確信した。

だから、
上っ面の言葉は響かない。

だから、
自分の欲のために、人の人生を利用する人は
悪い人だと断言できる。