素足のサンダル。
アイロンのかかっていないシャツ。
やつれた感じのその男をはじめて見たときに、
かわいそうに・・・と感じてしまった私に、少し驚く。
夫が立ち会うはずの
入管に収容された男の
最終口頭審問だった。
白い部屋はやがてウソで満たされる。
私が知っていることは少しだけれど、
彼はたくさんのウソをついていた。
私もひとつウソをついた。
そしてそれ以外は本当のことを言った。
男は私が敵なのか味方なのか、測りかねていたのかもしれないけれど、
私は彼の足元だけをみつめながら、
壁になった。
白い部屋の熱気の中
貴重なそれぞれの時間が費やされ、
職員は頭をひねり、男の矛盾をつく。
私はアクビをかみ殺す。
かみ殺せないあくびも部屋を満たしていった。
この男のウソのために、
職員や通訳の労力が費やされるのはもったいない。
職員は有能だった。
通訳は誠実だった。
けれどこんな人間のために費やされるのはもったいない。
たった一人を追い出すための作業がこれほど膨大なのであれば、
入国を厳しくすることの方がどれだけ大事か身にしみたのは、
見ず知らずの男の審問に5時間もつき合わされた私だった。