一個 9円のグレープフルーツを

時間がないというのに、選んでいる私。


その日は小学校の授業参観を途中で切り上げて、

長女の高校の文化祭の手伝いをしに出かけなければならなくて、

12時ジャストには、高校に絶対に到着しなければならないのに・・・



「もしかしたら、安いものがあるのかも・・・」なんてね、

ちょっと遠回りして顔をのぞかせた八百屋さん。

激安じゃん!

夕方までには売り切れちゃうに決まってるわよ。

店頭の路上には山のように積まれたグレープフルーツは一個 9円なんだもの。


頭に浮かんだ数字は「14個」・・一人2個で14個。


え~ん、最後の一個が決まらない。

いいじゃん!なんだって!たかが9円じゃん!

選ぶのを止めたい私と

焦りながらも、選んでしまう私。

一分だって時間が惜しいはずの私なのに。

ああ・・・ものごとの優先順位が麻痺してる。

たかが・・・9円ごときに!





小学生と高校生は登校日だった土曜日の振替休日で、

月曜日が休みだったから、

夫と4人の子供と、都内の祖母のお見舞いに行ってきた。

夫にとっては10ヶ月ぶりのお見舞いとなった。


動くこともままならない97歳の祖母は、

抗癌剤治療で髪の毛も眉毛も抜けた夫の体のことを心配していたのが、

前回のお見舞いの時だったから、

いつもの容姿を取り戻した夫を見るために、

そんなに首を動かせるの?というくらい、

夫がドアから入ってくる姿を見ようとしてた。

見舞い客のいない平日の午後の老人ばかりの病院に、

陽気な夫の声はとっても大きくて、

でもたまのことだから・・・いいわよね。

みんなの視線が温かい。


両手が動くようになった祖母。

子供たちの手を握りながら、聞き取りにくい声で、同じことを繰り返したりしながらも、

ボケることなく新しい情報を頭に入れてくれる。

小さいころ、長女はダンスが上手だったけれど、今は踊っていないとか。英語を勉強しているとか。

大きくなったら野球選手になる・・・と言った次男には、

「日本一の野球選手になりなさい」と言ってくれる。

何気ないおばあちゃんの言動で熱いものが、こみ上げちゃうんだけれどね、

泣いちゃったら、おばあちゃんが死んでしまうような気がしてね。

ゆがんだ微笑を作ってしまう私と私たち。

おばあちゃんが私に言った一言は、

「いい人を選んだね」

夫を目の前にうなずくのも複雑で、困ったように首をかしげて、そしてうなずいた。

涙が出そうになっちゃった。

おばあちゃんにはお見通しだったろうけれどね。




一個 9円のグレープフルーツは、夕方にも残ってた。

売れ残っているというよりも、まだ店の奥には出番を待ってるグレープフルーツがあるみたい。

そして、新たに7個を買い足した。



甘いのもあれば苦いのものある・・・グレープフルーツのお味。

台所にはまだたくさん残っているんだけれど、

悔しいけれど正直言って、苦いものの方が多いみたい。



だからこそ、苦いものの中に見つけた甘いやつが、妙に印象に残ったりしてね、

些細なことでラッキー!って思えたりしちゃう自分がいる。