私の優柔不断さが人を傷つけたことがある。

 

彼女は私のいないところで泣いたと聞いた。

 

 

 

「どうしてアイシャさんはご主人を止めてはくれなかったの」

 

矛先は夫に対してではなく、私に向けられた・・・・

 

 

 

きっと彼女のパキスタンは

 

私のそれよりは、自由の風が吹いていて、

 

居心地が良いものなのだったのだろう。

 

 

 

 

私の立場を理解してくれたのは、

 

あの国の女性だった。

 

 

 

 

ずっとずっと前のこと

 

彼女のワゴン車を夫が運転していた。

 

イスラム教徒が集まるキャンプの帰り道。

 

助手席に私。

 

後部座席には彼女ともう一人の日本人女性そしてあの国の女性と子供たち。

 

夫は不機嫌だった。

 

 

 

はじまった・・・・・

 

キャンプへの悪口。

 

いかに段取りが悪かったかを得々と語り始めた。

 

自分が手を貸したわけではない。

 

文句をいう権利があるとでもいうように。

 

エスカレートする。

 

キャンプの責任者である彼女のご主人の悪口をはじめた。

 

もちろん、そんなこと、知っている。

 

それでも彼女のご主人の悪口を止めなかった。

 

 

 

 

夫を止められなかった私。

 

夫を止めることができなかった私。

 

いえ、夫を止めようともしなかった私でした。

 

 

 

 

私とあの国の女性だけがわかっていた。

 

こういう時に止めたらどういうことになるのかを・・・

 

私とあの国の女性だけがわかっていた。

 

日本人妻ではあるけれど、あの頃の彼女たたちには理解できない世界を・・・

 

 

 

安全に家路に着くためには、

 

逆らわず、

 

その言葉たちが、

 

頭上を通り抜けてしまうまで、

 

聞き逃すことが

 

たった一つの策であることを。

 

 

 

 

数日後・・・・・・同乗していた日本人女性から聞かされた。

 

「彼女は泣いていたよ。どうしてアイシャさんは止めてくれなかったのって。

 

”そんなこといわないで”と一言だけでも言ってほしかったと。

 

△さんは言ってたよ。アイシャさんはそうするしかなかったと」

 

 

 

それからも彼女と何度も会うことがあった。

 

表面上は何事もなく過ごせた。

 

 

 

そして、ずっと経ってから

 

古傷をえぐる思いで、

 

彼女に電話をいれて、謝った。

 

手紙を書いて謝った。

 

彼女も忘れていなかった。

 

彼女もずっと傷ついていたから。

 

 

 

 

あの時からも

 

謝るまでの間にも

 

時間が経ってしまった。

 

 

私の優柔不断さが、彼女を傷つけてしまったことが、ある。

 

どうか、彼女のパキスタンに、今も自由の風が、吹いていますように。