それが私の目の前だけで起こったのだったらただのDVだったのかもしれない。

静かだった朝に彼は突然怒り出した。
私の言葉が気に食わなかったのが引き金になった。
何をするにも、例えば字を書けば薄いとか小さいとか、文句を言うのが彼の常だったので、小さなリモコンを包装するように言われた時に、静かに言葉を返した。
”自分でやって”と。
”何?”と目を剥いた彼に同じ言葉を返した。
穏やかに言った。”あなたは私のすることに文句言うでしょ。あなたの方が上手だから自分でやって”

一緒に聞いていた動いているCDプレーヤーを彼はそのまま床に投げつけた。
重いカバンをリビングのドアに投げつけた。
水の入った取っ手のあるコップを階段に投げつけ割った。
私は呆然と見ていた。あきれながら。ここまでやるのか・・・。
感情を絶っていた。だから、泣かなかった。おびえなかった。
夫は叫んだ。”この家を支配しているのはこの俺だ!” そして出かけた。

”事故を起こせばいい”と念をこめて夫の出て行った玄関を見つめた。
そのままの状態で、すべてを放置したまま、友人に今起こったことを話しながら泣いた。
6歳の娘がゴミ袋に壊れたCDプレーヤーを入れたことも知らなかった。
ガラスの破片を掃除してくれたことも。濡れた階段を拭いてくれたことも。
そして泣きながら電話をしている私に娘が言った。
”これどうやって包むの?”と差し出した手にはあのリモコンがあった。

彼女の目の前でそれは起こった。
だから、悲劇。