大きな亀裂だった。

決定的でもあった。

自分の存在の意味を知った。

9.11のテロの時に小学6年生だった長女は親元を一人離れ○○国の夫の家族と共にいた。

迫りくるきな臭いニオイに、長女を日本に呼びたいのに、それを夫に言えないでいた。

アメリカの戦闘機が○○国の上空を飛ぶとの情報に邦人が帰国するニュースが伝えられた。

○○国の日本領事館から娘の帰国を促す国際電話がかかってきた。

その申し出を断る夫におとなしく従った。

娘の無事を祈ることしかできなかった。

小学校の担任の先生から電話がかかった。

おおまかな家庭の事情を知る先生は話を続けた。

”あなたは彼女の母親でもあるんです。どうか彼女を呼び戻す努力をしてください”

勇気をもらった。

夫に進言した。

”娘を日本に連れ戻して”

涙を流し、訴えた。

夫は答えた。

”オレの娘だけこの安全な日本に呼び戻せない。オレの家族を見捨てて自分の娘だけ呼び寄せることはできない”

今までの結婚生活のすべての答えがそこにあった。

私の怒りが燃えた。

”私の娘は人質じゃない!!”

私は子供を産んだだけの女であって、彼女の母親ではないのだ・・・

夫の言葉をそう解釈した。

その年の暮れ夫が1人で○○国へ渡った。

一ヶ月の滞在のあと私には内緒で娘を日本へ連れ帰った。

夜、ドアチャイムに玄関を開けると、痩せて背が伸びた娘が立っていた。

私の思いをぶつけても動かなかった、思いを汲んでくれなかった夫は、

ただ自分の思いつきだけで娘を連れ帰った。

私の思いは伝わらない。

そして、私の心は離れてしまった。