「水源」177ページ上段 より引用開始

オースティン・ヘラーはひんぱんに建設中の邸宅を見に来た。それが次第に出来上がっていくのをしげしげと、いまだに少し驚きながら、見つめていた。ヘラーは、ロークと建設中の邸宅の両方を、細かなところも見流さない探究心で、観察していた。

ヘラーはロークと邸宅を切り離してみることは全くできないかのように、感じていた。
ヘラーは強制されるのが大嫌いな人間であるので、ロークには困惑した。ロークときたら、これも人から強制されることをぜんぜん受け付けない人間なので、彼自身が一緒の強制になるのだ。物事に抵抗する最終的根本原理みたなんものだ。

ヘラーはそれが何であるのか定義できないのであるが。一週間もしてから、ヘラーは自分が障害最良の友人を見出しことを知ることになった。その友情は、ロークの根本的無関心さから生じているものだと、ヘラーはわかっている。

ロークという人間のより深いところにある部分では、彼はヘラーを意識していない。彼はヘラーを必要ともしていない。ヘラーに訴えたいこともなければ、要求したいこともない。
ヘラーは自分とロークの間に引かれた線を感じる。ヘラーが触れることのできない線だ。その線を越えて、ロークがヘラーに頼むことは何もない。

ヘラーからの是認など何もロークは必要としていない。しかし、ロークがヘラーを評価してヘラーを見るとき、ロークが微笑むとき、ロークがヘラーの書いた記事をほめるとき、賄賂でも施しでもない本当の是認を受けた奇妙な清潔な喜びをヘラーは感じるのだった。


引用終わり

「水源」175ページ上段 より引用開始

「マイク、どうやってあんたは・・・」
「あんたは、とんでもない建築家だな。こんな具合に仕事をサボっていいのか?俺がここに来てもう3日目だぜ。あんたが現れるのを俺は待っていたんだぞ」
「マイク、どうやって、ここに来た?何でこんなところに寝泊りするような、落ちぶれるはめになった?」

ロークは、マイクがせせこましい自宅などというもので人生を煩わせることをしないことを知っていた。

「力を無駄に使いなさんな。俺がどうやってここをつきとめたかなんて、あんた検討がつくだろうが。俺がそれを見逃すと思ってたのか?あんたが初めて立てる家だぜ。これが落ちぶれたことか?うん、まあ、多分なあ、そうかもなあ。でも、そうでないかもだぞ。」

ロークは手を広げる。マイクの作業で汚れた指がロークの手を包み乱暴に閉じられる。丸でロークの肌に埋め込まれたマイクの指の汚れが、マイクが言いたいことのすべてを語っているかのように。まいくは、うっかり自分がそれを口に出すかもしれないと恐れたので、わざとがみがみ言う。

「ボス、さあさあ向こうへ行って。こんなふうに、仕事の邪魔しちゃいかんよ」

ロークは建築中の邸宅の中を歩く。ロークが簡潔に個人的感情をいっさい交えず、指示を与えるために立ち止まる瞬間が何度もある。まるでとりかかっているのが邸宅ではなくて、数学的な問題であるかのように。ロークがパイプやリベットの存在を感じるとき、ロークという人間はそのとき消滅してしまっている。


引用終わり

「水源」174ページ下段 より引用開始

ロークは断崖の上にある敷地の一番高いところに立っている。両脚を広げて、空を背にしてたっている。ロークは目の前にある顕在を眺める。鋼鉄でできたリベットが小さい丘のように集められて置かれているさまや、いくつかの石の塊のきらめきや、真新しい、まだ黄色い色をした木の厚板が、交互に積み重ねられ、まるでそれがらせん状に見えるさまを、眺める。

そのとき、ロークの目に、伝染のわーやーを体に巻くつかせている、しゃがれ声の人物が目に留まる。ブルドックみたいな顔をいっぱいに広げてにやにや笑っている。
陶器のような青い瞳が、まるでとてつもない勝利を手にしたかのように大いに満足げに笑っている。

「マイク!」とロークは信じられない思いで叫ぶ。
マイクは、何ヶ月も前に、大きな仕事があるというのでフィラデルフィアに行っていたはずだった。

スナイトの事務所にヘラーが依頼に現れるずっと前のことだ。マイクは、だからヘラー邸の件は全く知らないはずだ。それとも、ロークがそう思っていただけだったのか。
「やあ、赤毛」と、マイクは言う。あまりにさりげなく何気なく。それからこう付け加える。「こんにちは、ボス」と。

引用終わり