「水源」211ページ上段 より引用開始

ロークは、また何も仕事のない日々にもどった。毎朝出勤し、自分の事務所に座っていた。そこに座っていなければならないと知っているからだ。決して開かないドアを見ながら。決してならない電話の上に指を置いたまま。毎日、灰皿を洗って、彼は事務所を出る。彼の吸殻以外は何もない灰皿を洗う。
「最近は何をしている?」とある晩、夕食をともにしながらオースティン・ヘラーが尋ねる。
「何も」
「だけど、何かしないといけないだろう」
「何もすることがありません」
「人をうまく操るってことを勉強しないとな」
「僕には、できません」
「なぜ?」
「方法がわかりません。何かある特別な感覚が欠如したまま生まれたのですよ、僕は」
「そういうことは獲得するものだ」
「それを獲得する器官がないのです。僕には。それが僕に欠けているものなのか、それとも、そうさせない何か過剰なものがあるのか、どちらにせよ、僕にはわかりません。それに、僕は人から操られるような人間は好きではありません」

「しかし、ただじっと座って、なにもしないでいるわけにはいかない。設計料を手に入れないといけないだろう」
「設計料を手に入れるために、僕が他人に何が言えるでしょうか。僕は、自分お仕事を見せるだけです。僕の仕事が語るものに耳をすまさない人間が、僕の言うことに耳を貸すでしょうか。顧客にとって僕自身はどうでもいいでしょう。ただ僕の仕事が問題だ。僕の仕事こそ、僕と顧客に共通するものです。だから僕は。仕事以外のことを客にいう気がしないのです」

「じゃあ、君はどうするつもりだ?君は心配ではないのか?」
「はい、予想はしています。待っているのです」
「何を?」
「僕を求める種類の人々を、客を」
「どんな種類の人々なんだ?」
「わかりません。いえ、わかっています。だけど説明できません。説明できればいいのにとよく思うのですが。僕の求める人々に共通する何らかの原則があるはずです。しかし、僕にはそれが何なのかわかりません」

引用終わり

「水源」209ページ下段 より引用開始

ヘラー邸の完成が近づいてきた10月のある日、オーバーオールを着た、ひょろりとした若い男が、道路の見物人の群れに中から出てきて、ロークに近寄ってきた。
「あんたが、この刑務所を立てた人かい?」とその男は、かなりおずおずした様子で訊ねる。
「この屋敷のことかい?そうだけど」とロークは答える。
「ああ、悪い。すいません。ここらの人間がそう呼んでいるから、うっかりそう言っちまったけど、すまんです。俺が言い出したわけではないから。あの、俺も建てなければならないんだ・・・あの、そうじゃなくて、つまり俺はガソリン・スタンド建てるつもりなんだ。ここから26キロほど離れたところ。郵便物輸送道路があるだろ、あれをずっと行った先。あの、俺あんたに話したいことがあるんだ」

それからジミー・ゴウエンは、齟齬と場のガレージの前のベンチに腰かけて、詳細を語る。話し終わって、こう付け加える。「で、何で俺があんたのこと考えついたかというと、ロークさん、俺あれが気に入った。あんたの作ってるあの面白い家。なんでかわからないけど、だけど俺は好きなんだ。あれ、あんたの建ててる奴、理にかなっていると思う。」

引用終わり

「水源」180ページ下段 より引用開始

エルスワース・M・トゥーイーは、この国で起きたことに関して彼が評しないことなどなかったのだが、ヘラー邸が建てられたことは、彼のコラムから判断する限り、彼は知らなかったようだ。

この件について読者に知らせることが必要とさえ考えなかったのだ。たとえ、その邸宅をけなすだけのためにさえも。彼はヘラー邸を黙殺した。


引用終わり