「水源」211ページ上段 より引用開始
ロークは、また何も仕事のない日々にもどった。毎朝出勤し、自分の事務所に座っていた。そこに座っていなければならないと知っているからだ。決して開かないドアを見ながら。決してならない電話の上に指を置いたまま。毎日、灰皿を洗って、彼は事務所を出る。彼の吸殻以外は何もない灰皿を洗う。
「最近は何をしている?」とある晩、夕食をともにしながらオースティン・ヘラーが尋ねる。
「何も」
「だけど、何かしないといけないだろう」
「何もすることがありません」
「人をうまく操るってことを勉強しないとな」
「僕には、できません」
「なぜ?」
「方法がわかりません。何かある特別な感覚が欠如したまま生まれたのですよ、僕は」
「そういうことは獲得するものだ」
「それを獲得する器官がないのです。僕には。それが僕に欠けているものなのか、それとも、そうさせない何か過剰なものがあるのか、どちらにせよ、僕にはわかりません。それに、僕は人から操られるような人間は好きではありません」
「しかし、ただじっと座って、なにもしないでいるわけにはいかない。設計料を手に入れないといけないだろう」
「設計料を手に入れるために、僕が他人に何が言えるでしょうか。僕は、自分お仕事を見せるだけです。僕の仕事が語るものに耳をすまさない人間が、僕の言うことに耳を貸すでしょうか。顧客にとって僕自身はどうでもいいでしょう。ただ僕の仕事が問題だ。僕の仕事こそ、僕と顧客に共通するものです。だから僕は。仕事以外のことを客にいう気がしないのです」
「じゃあ、君はどうするつもりだ?君は心配ではないのか?」
「はい、予想はしています。待っているのです」
「何を?」
「僕を求める種類の人々を、客を」
「どんな種類の人々なんだ?」
「わかりません。いえ、わかっています。だけど説明できません。説明できればいいのにとよく思うのですが。僕の求める人々に共通する何らかの原則があるはずです。しかし、僕にはそれが何なのかわかりません」
引用終わり