6話 初収穫 | ColofulDream

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「レーガいるか!?」

早朝から何事かと思うくらい大きな声で人の部屋にずかずかと入り込んできた人間に豪快に揺さぶられ有無を言わさず夢の世界から引きはがされた。
だが、まだベッドから出る気分にはなれず布団を頭からすっぽりとかぶりもう一度眠りにつこうと努力をする。
朝からこんなことをするのは大方フリッツくらいだ。
時間的にもオオクワガタを捕まえたとかどうでもいい報告だろう。
その予想は外れフリッツとは違い俺の中でもう少し常識を弁えていそうな人物がそこにいた。

「起きろって!!」

勢いづいた言葉とその直後に腹部に強烈な痛みがかかり、俺は布団をべりっと剥がされた。

「いてっ!!!何すんだフリッ…タ?」
「誰がフリッタですかー。ヒナタですけど分かる?」
「分かるけど…もう少し時間を考えてくれないか」
「んー?ごめんごめーん」

人の苦情に対して悪いと思っていなさそうにヒナタは軽く謝罪を入れ、鞄をごそごそと探り何かを俺の前に差し出した。

「じゃんじゃじゃーん!」

ヒナタは得意気な笑みを浮かべながら、じゃがいもを俺の頬に押し付けるながら俺の反応をうかがっているけれど、どう反応しろっていうんだ。

「じゃがいもがどうしたっていうんだ」

欲しかった反応とは違ったらしく不満そうにじゃがいもを指さした。

「わっかんねーかなー。ほら、前畑に埋める種のリクエスト聞いたじゃん?それができたんだよ!初収穫!」
「そういえばそうだったっけ。もうできたのかよかったな」

返事を返しながら眠気が飛んでしまい用が無くなったベッドの中から出て俺は唖然としてしまった。

「おまえ…まさかその格好で山からこっちまで来たのか!?」
「え?あー、まぁ、気にすることでもないだろ」
「そういうレベルじゃないだろバカ」


驚くのも無理はない。
もともと少年の様な格好のヒナタならありえないことも無いんだろうけれど、さすがに丈の長いTシャツというあきらかに寝巻きの格好で街を彷徨くのはいかがなものだろうか。

「別にそんな気にするようなことでも無いだろ?」
「おまえは良くても周りは違うんだよバカ」

引き出しから適当に上着とジーンズをヒナタに渡し、着るように促す。
それを受け取ったヒナタはブツブツと文句を言いながら履き、ジーンズの丈を自分に合わせた。
オシャレかと言われると全く違うけれど、さっきの寝巻きに比べると俺の心臓と周囲の目に優しい。

「ほら、これで良いだろ」
「もう寝間着で外うろつくんじゃないぞ」

念を押すと拗ねたような素振りで俺の方を見ずにヒナタは髪先をいじりだした。

「ヒナタ聞いてるか?」
「はいはい、分かりましたよっと。てか、お腹すいたね。じゃがいも使ってご飯作ってよ」
「当たり前の様に言うなよ…。簡単でいいならサッと作るけどさ」
「やった!さすがレーガ!」

現金な奴と言うべきか、単純と言うべきか……まぁどちらにせよ同じ意味合いか。
椅子に座り朝食を待ち望む視線を受けて仕方なく俺は朝食を作り始めた。

採れたてと言うだけあってじゃがいもは土まみれで、とても形もバラバラだ。
そんなじゃがいもの皮をむいてひと手間かければあっという間にラクレットが完成した。

「ほら、できたぞ」

それをヒナタの前まで運び、俺も朝食をとろうと席に着くと先に食べ始めているはずのヒナタの皿が減っていないことに気がついた。

「ヒナタ?」

呼びかけても返事は無く、肩を揺さぶっても反応が無いのでもしかして……と思いヒナタの顔を覗き込むと、すやすやと気持ちよさそうに眠っていた。

「嘘だろ…」

作らせるだけ作らせておいてそれは無いだろ…。
無理に起こせるわけもなく、とりあえず抱き上げ布団の中で寝かせると、少しふにゃりと顔を崩しさらに深い眠りに落ちていくのが分かった。

「本当に子どもみたいな奴だな」

すべすべとした頬に泥を付けながら眠るヒナタに苦笑いを浮かべてしまう。
そして、眠りこけるヒナタの髪をくしゃりと撫で、俺は席に座り朝食を食べ始めた。

まだまだ1日は始まったばかりだ。