5 甘い匂い | ColofulDream

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「夏希ーよろしくな」
「夏希ー可愛すぎ!!」
「よろしくなっ!あと、可愛いじゃなくてお世辞でもカッコいいって言えよな」

無理無理と全力で拒否ってくる李埜に軽く傷ついた俺は再起しようと藤堂にも話しかける。

「藤堂もよろしくな!自由行動はどこ行きたい?俺的には甘いもん廻りしたいな~」
「何でもいいよ」

興味なさげにそう返してきた藤堂に苦笑しながら、2人にも一応確認を取る。

「ん、分かった~。じゃあ、甘いもん廻りで2人もいい?」
「いや、別にいいけどさ……。お前、強者だな」
「何が?」

心底驚いた、とでも言いたそうな春舞に意味が分からないと返した俺。
マジで何が強者か分かんねーんだもん。

「藤堂さんに話しかけても基本無視されるんだよ!?なのに……ちゃんと返事返ってくるとか……夏希ってある意味すごいよ」
「えー、俺無視されたことないもんねー。お前らの日頃行いが悪いからだろざまあー」
「黙れ男女」
「黙れクソチビ」
「男女じゃねーし!!俺、歴とした男だもん!!
クソチビなのは今だけだし!!いつか李埜も追い越して、こーやって見下ろしてやんだからな!!」

人が必死だっていうのに今は俺よりちょっとだけ……ほんのちょっとだけ大きい李埜とスラッと背の高い春舞がケラケラ笑いながら、俺をもっといじろうとしてくる。こいつらは
相当タチが悪い。

……やっぱ、コイツらと一緒ヤダな。






「来たぜ京都!!」
「来たぜ通天閣!!」
「来たぜスカイツリー!!」
「……全部違うよ」

ビシッとポーズを決めた俺らに冷静に突っ込んだ藤堂はバスから降りて伸びをした。
ちょうどよく吹いた風が藤堂の黒髪を揺らしていく。

あ……なんか、キラキラ光っててきれい……。

髪を押さえる仕草も落ち着いた景観に合っていて、とても綺麗だ。

「はーい、それじゃー今から2時間お前らをこの街に解き放ってやっから野生に帰るなり、飯食うなり自由に過ごせー。あ、俺が呼び出されて仕事が増えるような真似はしないように!解散っ」

タク先の呼びかけを合図にざわつく生徒が各々行きたい場所に散って行くなか、俺だけはその場を動けない。
眠そうに目をこするその仕草でさえ、何故か綺麗で地味が代名詞みたいな女子がだけどすごく輝いて見えて、俺は藤堂から目を奪われてしまったた。

「……っ」

こっちを振り返った藤堂と目が合った。不思議そうな表情を浮かべながら藤堂は俺たちに声をかける。

「……甘いもの廻り……するんでしょ?良い店知ってる、そこに行こう」
「あっ……そうだった……な」

珍しく自分から地図も見ずに先を立って歩いていく藤堂に俺たちは顔を見合わせる。

「なあ、何で藤堂地図見ねーで歩けての?」
「俺が知るわけないだろ。つーかさ、藤堂がすっげー可愛く見えたんだけど俺どうしちゃったんだろ……」
「さすがに俺にはそれは分かんねーわ」

コソコソ話す俺と春舞に気づかない藤堂は隣で熱心に話しかける李埜を軽く受け流しながらどこかを探しているらしい。


「……あった」

お目当ての店を見つけたらしい藤堂はこっちを見ずに入っていった。それに続いて李埜も好奇心を丸出しにしながら店内に入っていった。

「え……なんか、入ってっちゃったけど……藤堂何考えてんだ?」

「俺に聞かれても知らねーし」

いかにも和風!!みたいな店は入り口が小さめで中からはふわりと甘い香りが漂っている。

「……なんかおいしそーな匂いするし俺行ってくる!」

「まあいいけど……」

甘い匂いに誘われ店内に入った俺は、店内を見て呆然とそこに立ち尽くす。

「なつ……」

あとから入ってきた春舞も同じように立ち尽くす。

それもそのはず……







「いらっしゃい」

無表情でカウンターの“奥に”立って俺らを迎える藤堂がいたからだ。




「へぇ~ここって藤堂さんのおばあちゃんの店なんだね~」

「うん」

「うんじゃないだろ!!柚希はもっと笑いな!!」

「無理だよばーちゃん」

よく響くハスキー声のおばあちゃんに叩かれた頭を抑えながら彼女は痛い、とだけ言って店の裏に消えた。

俺はというと……、

「美味い!!すっげー美味い!!美味い!!」

「夏希パクつき過ぎだろ。絶対腹壊すって」

目の前に出された葛きりに夢中になっていた。