小さくて、いつもぬいぐるみを抱っこしています。
お父さんとお母さんも、その女の子のことを、とてもとても、可愛がっていました。
ある日、かいじゅうが襲ってきました。
かいじゅうが、女の子の目の前で、お父さんとお母さんに襲いかかりました。
女の子は、ビックリしました。
お父さんとお母さんが、かいじゅうに食べられちゃう!!
女の子は、
気がつくと大きなドラゴンに変身していました。
無我夢中で、口から炎を出してかいじゅうに攻撃をして、お父さんとお母さんを守りました。
そして気づくと、また小さな女の子の姿に戻っていました。
お父さんとお母さんは、焼け焦げになったかいじゅうの足元で座り込んでいる女の子を抱きしめて、とても喜びました。
かいじゅうをやっつけた小さな女の子は、町で有名になりました。
ある日、親戚のおじさんが、お父さんのところに駆け込んできました。
おじさんの町にもかいじゅうが襲ってきたから、助けてほしいと。
お父さんは、小さな女の子にこう言いました。
お前なら、立派に人助けができる。
人を助けてあげられるのは、立派なことだよ。
また、ドラゴンに変身して、おじさんの町を助けてあげてくれないかな?
女の子は、誇らしい気持ちでお父さんに頷きました。
ふと、お母さんが、女の子の手をぎゅっと握りました。
女の子が、不思議に思ってお母さんの顔を見上げると、お母さんは少しだけ女の子を見つめていましたが、そっと手を離して、女の子の頭を優しく撫でました。
女の子は、お母さんに抱いていたぬいぐるみを預けると、おじさんと一緒にかいじゅうを退治しに行きました。
そうして、女の子は親戚や知り合いに頼まれるたびに、ドラゴンに変身して人を救ってきました。
そうするたびにとても褒めてもらえるので、女の子は自分がとても特別な素晴らしい存在で、ドラゴンになることは誇らしいことなのだと考えるようになりました。
そのうち、女の子は頼まれなくてもドラゴンに変身して、かいじゅうを退治しにでかけるようになりました。
お父さんとお母さんは、町の人々に、女の子のことを自慢の娘だと嬉しそうに語ります。
そんな姿を見ると、女の子もとても嬉しかったのです。
あるとき、
お隣の町にかいじゅうが現れました。
女の子はぬいぐるみを側に置くと、ドラゴンに変身しようと思いました。
でも、どうしてか、どうしてもドラゴンに変身することができません。
隣町の人たちが、助けてほしいと女の子の家に来ました。
でも、どうしてもドラゴンになれません。
お父さんとお母さんは、申し訳なさそうに人々に頭を下げています。
その姿を見ているうちに、女の子の心のなかに沸々と怒りが湧いてきました。
何故お父さんとお母さんが謝らなければならないの?
何故、私がかいじゅうをやっつけなければならないの?
何故、私が人を助けなければいけないの?
1度は側に置いたぬいぐるみを、強く抱きしめました。
わたしは、私のままではいけないの?
お母さんが振り向くと、女の子は口をへの字にまげて、ハラハラと涙を流していました。
ぬいぐるみを抱きしめながら、とうとう声を上げて泣き出しました。
その日以来、
その小さな女の子が、人を助けるためにドラゴンに変身することはありませんでした。
誰も、
女の子に、ドラゴンになって欲しいと頼むことも、ありませんでした。
おしまい。