今日は東京国立近代美術館で開催されている、安田靫彦展、を見てきました。
日本画が好きな人であれば知らない人はいないと思われる、日本画の巨匠…。
ヤマトタケルや額田女王、聖徳太子や卑弥呼など日本史に現れた、ある意味日本を作り上げた偉人達を描き続けた人であり、またその姿勢は戦後になっても変わりませんでした。
その絵の中の静かなるわずかな動きに、凛とした気迫が感じられ、人物画の大家であるように見えながら、その構図の奥にストーリーとテーマが、更には彼が描きたかった日本の原点、といったものが透けて見えます。
ところで安田靫彦は中国の故事も題材に選んで描いていますが、自分がもっとも好きな絵が、孫子勒姫兵(そんしろくきへい)という絵です。
その昔、孫子の軍略家としての噂を聞いた呉王が、宮中の女官達を集めて孫子に預け、彼女達を孫子に訓練させ兵隊の真似事をさせようとした。
呉王は孫子の兵法が正しいのか、その様子をみて真価を見極めようとしたからです。
孫子は一通り教え、号令をかけて動かそうとしました。
しかし彼女達は笑って言うことを聞かない。
孫子はその女官達の中で呉王の寵愛が一番高い二人を呼び
「命令が徹底されないのは女官達の指揮官たるそなた達の罪である」
と言ってその場で切り捨てました。
その後孫子は女官達の中から新しい指揮官を任命し、孫子の号令のもと自由自在に隊列を動かせるようになったのです。
孫子勒姫兵とはこのような話ですが、まあ史実ではないとも言われています。
しかし指揮命令系統がしっかりしていてもその背後にある、信賞必罰や力、が存在しなければ組織は言うことを聞かない、という一面の真理を突いていますし、また恐怖による支配、といった感じがいかにも中国的で面白い話ではあります。
孫子勒姫兵…
わずかな表情やその動きの中に、弛緩し困惑した女官達の、またその間にみなぎる張りつめた空気が感じられる、何とも形容しがたい不思議な絵です。
ところで帰りに赤坂迎賓館を見てきました。
日本が観光立国を目指すにあたって、通年一般公開になったとのことで、庶民にとっては嬉しいかぎりですが、何やら選挙目当ての庶民ウケを狙った政権浮揚策に見えなくもありません(笑)
人を惹きつける文化的な魅力は政治の力によって成し遂げられるのではなく、庶民やあるいはお金持ちが自由に使うお金によって創造されるのだと思います。
もし日本政府がフランスのような文化的な価値を創造したいと思うならば、美術館にでも足を運び、その絵画が誰の支援によって描かれ、誰が購入されたのか研究なされたらいいのではないでしょうか…。