終戦直後。
阪上群青は母と共に、引き上げ船の中にいた。
日本が戦争に負け、船の中の人々も混沌としていた最中、母のスイはお湯をもらってくると群青に言い残し、船の中から消えた。
群青は母を探していくうちに甲板に出、その直後「ドボン」という船から何かが落ちた音を聞く。
果たして、母だったのか?
その場にいた謎の男に詰問するのだが、男は知らないという。
床に落ちていたのは、母が持っていただろうと思われるお守り。
そして、眼光が鋭いその男から渡されたのは1枚の紙。
「ごめんね群青、強く生きていくのよ」
群青は信じられない思いだったが、赤城と名乗る男に「一緒についていくか?」と言われ、渋々、日本の地へと降り立つ。
しかしそこは修繕直後の混乱の中。
人々は敗戦という負け戦を経験し、混乱と失意の中にいた。
群青は果たして、この世の中でうまく生きていけるのか。
そして、母がいなくなった真実とは?
赤城が母を船から突き落としたのか?
著者が終戦の混乱を描く、新境地。
群青が赤城と共に、これからは清潔さを世の中が求めていくと言って、石鹸を作ることに気が付きます。
当初は粗悪な品物しか作ることしかできなかったのですが(石鹸作りに詳しい人がいなかったため)やがて、研究所で働いていたある男から「こんな粗悪品を作るな」と言われ、その男に石鹸作りのヒントをもらおうとするのですが、当初は苦労していました。
しかし、群青の石鹸作りへの思いは止まらず、勅使河原と名乗る桜桃(おうとう)石鹸という巨大な石鹸工場の研究所にいたという勅使河原に弟子入りし、石鹸作りに着手します。
その石鹸ができた時にネーミングが欲しいと言われ、群青は「ありあけ石鹸」と名前をつけるのです。
それは夜明けを意味していました。
石鹸が売れ始め、群青は誇らしい思いになり、ますます石鹸作りに没頭します。
それは寄る術がなかった群青にとって、たった一つの希望でした。
相変わらず、赤城の正体は分からないままの中で石鹸の会社を小さいながらも設立し、石鹸を作り続ける群青。
だが、赤城は群青に学校に通うことを示唆します。
学校に通えば、一般教養も身につくし、あまりの石鹸作りに没頭していた群青をその場から離すことも意味していました。
当初は反発するのですが、学校に通わないと石鹸作りにも携わることを禁止した赤城に渋々従うのです。
この本は戦後の直後を描いた本ですが、よく資料だけでここまで物語を作れるものだなぁとしみじみ思いました。
群青と母の仇と思われる獣のような鋭い眼光を持った赤城との不思議な関係は静かにゆっくりと進んでいきます。
途中、赤城の養父母の家を戦乱の最中、乗っ取っていた近江の元、バラックで一緒に暮らしながら、石鹸を作っていくのには感心、というか、赤城のその心の広さにしみじみ「この人ってもしかしていい人?」って思わせる部分もありました。
しかし、赤城にも秘密があって。
秘密だらけのこの本でしたが、赤城の実直さに群青はどんどん惹かれ、やがて「あんちゃん」と呼ぶ仲になるのです。
戦争によって、ボロボロになった日本。
そんな中、たくましく生きる孤児たちとの交流にもよって、群青は変化していきます。
世の中はやがて、敗戦から立ち直ろうとし、人々が石鹸へと群がります。
ラスト、とあることがきっかけで別れがやってくるのですが、それは必要なことかと思いました。
赤城は。
群青は。
そんな世の中をうまく生きていけるのか?
周囲の人々の協力、そして裏切りと目まぐるしく変化していったこの物語でしたが、群青がしなやかに、そして逞しく生きていく術を身につけて行ったのが目に見える様でした。
シリーズ化されているようなので、次の本も借りてみます〜。
(長くなって、ごめんね)