今日の公務は病院への慰問、車から院内へと向かうわずかな時間でも俺達の姿を見たいと集まってくれた国民へと笑顔で手を振る。
俺の隣で同じように手を振り笑顔を振りまくのはこの国の女性で4番目の地位にあり、一般家庭から王室に嫁いだとあって国民からの人気も厚い人。
皇太弟妃 シン・チェギョン 俺の妻である。
彼女がマカオから戻り公務に復帰してからまだ間もない事もあってか国民の集まり具合もいつにも増しているように感じる。
それにしても……。
「ずいぶんうまくなったな」
「えっ?」
手を振り続けながらも俺の言葉に耳を傾けるチェギョンはどこから見ても立派な妃となっている。
チェギョンが初めて公の場にたったあのパレードの時と比べるとまるで別人のようである。
ひとしきり挨拶やら病室への訪問を終えると休憩の為に用意された部屋へと通される。
病院関係者が深々と頭をさげ部屋から退室すると一息つくため俺もチェギョンもソファーへと腰を下ろした。
「そうだ! シン君、さっき何て言ってたの? ほら、車から降りたとき」
「あぁ、ずいぶん上手くなったなと思って」
「何が?」
「笑顔で手を振る姿が様になってると思ったんだ」
「そりゃーそうよ、私だってマカオで遊んでたわけじゃないわ。きびしーーーい教育を受けてたんだから」
そう話すチェギョンの目線の先にはいきなり話題に上げられたチェ尚宮が居心地が悪そうに少しだけ会釈をする。
「それにシン君が教えてくれたのよ、私たちの笑顔を心待ちにしている国民がいるっていう事。
私たちの笑顔で国民の不安が和らぐって言う事も……。
結婚式のパレードの時だって、機嫌悪そうにしてたけど笑顔の仕方教えてくれたもの」
「そうだったか?」
あの日……、あまりの緊張からか顔が固まっていたチェギョンへ顔のほぐし方や作り方を手ほどきした事、本当は鮮明に覚えていたが知らぬ顔をする。
あの頃は自分の事しか見えていなかったから、自分の妃に少しでもましな顔をして国民の前に立って欲しかった、ただそれだけ……。
そんな勝手な自分を思い出してしまったからだ。
それでもチェギョンはそれも優しさだと覚えていてくれたようだ。
「そうだっ! いい事思いついた!!」
急に立ち上がり何を思いついたのか俺の方を見て怪しげな笑顔を送るチェギョン。
「ね、シン君。今度は私が教えてあげる」
「何をだ?」
チェギョンの急な思いつきに考えが及ぶはずもなく、大人しく聞き返してしまった自分に後から後悔する事になる。
俺が聞き返した事で了承を得たと勘違いしているチェギョンは一人どんどんと話を進めてしまう。
俺の手を取って立ち上がらせ徐に窓のそばへと連れて行かれる。
「笑顔の練習、大きな声で笑う事よ!」
「はぁ?」
あまりの唐突さにおかしな声をあげてしまう、今の話の流れでどうしたらそんな考えに流れ着くのか相も変わらず理解しがたい。
俺の怪訝そうな顔とは裏腹に楽しそうなチェギョンは言葉を続けた。
「笑う事は大切なのよ? それなのに皇室の方は、特にシン君は笑うって言ってもいっつも『ふっ』とか『くくく』とかそんなのばかりじゃない?」
ご丁寧に俺の真似までしてくれて……。
思わず絶句してしまう。
すると見かねたコン内官が俺の手助けをするように割って入る。
「あの、妃宮様、皇族の方が人前で大きな口を開け笑われるのは品位を欠くのではないかと……」
「そんな事ないわ、それに笑う事は健康にもいい事だってどこかの記事で読んだの、皇族だからこそ率先してやらなくちゃ!」
そう言うなり、窓を開けて腰に手を当て準備を完了させた。
「さっ、レッスンスタート♪ あっはっはっはっはっはっは!」
「「ぴ、妃宮様!」」
「さっ、シン君もやって」
チェギョンの突然の大笑いにコン内官とチェ尚宮の顔色が青くなる。
かく言う俺も開いた口が塞がらないとはこの事だといわんばかりにぽかんとしてしまったが。、次第に込み上げてくる感情を抑える事ができなかった。
「ぷっ、まったくお前は……」
「シン君、呆れた?」
「せっかく妃らしくなったと褒めた所なのに……そういう所はまったく変わらないな」
そう言ってチェギョンの髪に手を伸ばし優しく撫でる。
自分でも時々戸惑ってしまうほどチェギョンと一緒にいる時は笑顔が耐えない。
それはこれ以上ない幸せなんだ。
二人で顔を見合わせて笑顔を一つ。
「「せーの、あっはっはっはっはっはっは!!」」
「ぷっ、あははははははは」
「あー苦しい、シン君がほんとにやってくれるとは思わなかった、でもすっきりしたね」
「そうだな」
俺まで参加してしまってはコン内官たちも何も言えないのだろう、半ばあきらめの顔でこちらを見ているのに気がついたがお小言は後にしよう。
また新しい俺を見つけてくれたチェギョンに感謝を込めて今はただ力強くチェギョンを抱きしめたかったから……。
しばらくして、何事かと医師達が駆けつけてきたのは言うまでもないがな。
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