東宮殿ではいつもと変わらぬ夕暮れのひとときが流れていた。
女官達は忙しく夕食の支度を整え、宮のあるじといえばのんびりと自室のソファーに横たわり
本を広げていた。
そこに一つの知らせが入る。
「殿下、皇帝陛下がお見えでございます。」
僕は本を閉じ立ち上がると女官の声がした方向をみる。
そこには供も付けず急いで来た事が見て取れる姉の姿があった。
「珍しいね、姉さんが一人で此処まで来るなんて。何か急用?」
僕は手で軽く女官達に下がるよう合図を送る。
姉さんを部屋へ招き入れ話しを聞く体勢を整える。
椅子に腰掛け姉さんを見ると何だかひどく話しずらそうだ、こころなしか顔色も良くない。
「どうかした?」
重々しい沈黙を破るためこちらから切り出してみたものの姉さんの堅い口は開こうとしない。
しばらくの沈黙の後、意を決したかのように深い息を吐きこちらをじっと見つめてきた。
「シン、落ち着いて聞いてほしいの。」
「なに?そんな深刻な顔で。」
ようやく開いたかにみえた姉さんの口はまたしても閉ざされてしまった。
あの姉さんがこれほどまでに話しにくい事とはなんだろうか。
今思い当たる事、それは一つだけ。
「チェギョンの事で何かありましたかっ?!」
まさか今更帰国が駄目になったとか?
王族会の奴ら何か仕掛けてきたとか?
チェギョンの事になると自然と声を荒げてしまった事に気づく。
「落ち着いて、ね、シン。先ほどマカオから連絡が入って、、、
チェギョンが事故にあったて。。。」
その一瞬。。。。。
世界が凍りついたかのように身動きが取れなかった。
事、、、、故、、、、?
頭もうまく回らない、完全にフリーズしたパソコンである。
「詳細はわかっていないのだけれど、現在意識がなく重傷だそうよ。」
姉さんが悲痛な表情を隠すかのように顔を手で覆う、
その行為の意味すらわからず言葉もうまく聞こえてこない。
ただ身体だけはゆうことをきくようになった。
立ち上がりとりあえず携帯を探そうと歩き出す。
「どこへ行くのっ?!」
そんな当たり前の事を聞いてくる事へ怒りが沸きあがる。
「そんなの決まっているでしょう!マカオに、チェギョンのところですよ!!」
携帯を拾い上げるとすぐに飛行機の手配をするよう連絡をとるが、
コン内官のメモリーを開いたところで思い直す。
そう彼は今マカオに行かせているのだった。
くそっ!!
静まり返った部屋に低く舌打ちが響き渡る。
「落ち着きなさいと言ったでしょう。」
「これで落ち着いていられると思いますかっ?僕はすぐにでもマカオに行きます。」
よもや僕の回路にはそれしかない。
そのギリギリのところで身体を動かしているのだから。
ここに留まって何かを考え出せばすぐにでも足がすくみ身動き一つ取れなくなるだろう。
「お願いだから冷静になって、今すぐあなたを行かせてやれない事はわかるわね。
マカオで何が起こったのか報告を待たなくては、万が一にもあなたの命まで危険にさらすわけにはいかない。」
部屋の出口へと向かっていた僕に詰めよるよう姉さんが近づく。
僕は逃げるように一歩二歩と歩きだす。
そして吐き捨てるかのように本心を口にする。
「僕には皇太弟の義務も責任も関係ない!ただチェギョンのそばに行く、それだけだ。
頼むよ姉さん。こうしている間にも何かあったらと思うと、不安で押しつぶされそうになるっ。」
いつの間にかあふれ出していた涙に少し戸惑いを見せるもそんな事はどうでもよかった。
泣き崩れるとはこう言うことなのか、立っているだけの力がでず両膝を地面につけ座りこんでしまった。
両方の手を握り合わせてはいるが震えが止まらない。
自分でも驚くほどに、チェギョンがいなくなると思っただけでもこれ程に弱くなってしまうのか。
「ゴメンね、ゴメンねシン。皇帝なんていったところであなたの為に何もしてやれない。」
ひざまずき僕の手を温かく包み込み抱きとめてくれた姉さんの目にも涙が溜まっていた。
姉さんの温もりを感じてまだ自分が生きているのだと確認できた。
「私の部屋までいきましょう。お父様たちにもきて頂いているから、
マカオへ一刻も早く行ける様話し合わなくちゃ。」
姉さんに支えられてやっとの事で歩き出す。
一歩一歩の足取りが鉛をくくりつけたかのように重く進まない。
遠いマカオへの道のりは辛く厳しいものになるであろう。
満天の星空に輝く月。
手を伸ばせは今にも捕まえられると思っていたあの頃。
どれだけ大きくなろうとも決して届く事はないと思い知らされた今。
風は冷たく吹き抜ける。
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Ep4の③