幸福になれる女の条件

幸福になれる女の条件

           天海 彩

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「ねぇ、誰か、枝豆頼んでよ。 あれ、お肌にいいのよ」

「これだけ呑んでれば、今更お肌の心配なんてね」


「もう、誰が誰だか判らなくなるくらいファンデ溶けた妖怪よね」


「あ~こないだ会社でさぁ、言われちゃったわよ」


「何? おばちゃんって?」


「地雷踏んだ部下には、罰金刑ね」


「目標見込みの数字出しでさ、チームごとに出すんだけどね、全体の数字の合計を
    上に出すのね。 だからさ、他のチームに数字聞いたのよ。 そしたらさぁ」


「教えません、勝つまでは?」


「不安だから数字を合わせましょう。 って言ったのね。 そしたらさ、『不安? あなたが? 
あなたでもそんな事言うんですか?』 って、真顔でみんなで私を見るのよね」


「あなたの辞書に『不安』 という文字は無い……的な?」


「そんなふうに見られてたんだ~って思ったわ」


「ある意味、チャンスじゃん」


「なんでよ?」


「あぁ、この人も人間だったんだって思ってもらえるチャンス!」


「人間ですけど?」


「弱い女、アピールするなら、今でしょ!」


「……もういいわよ!」


「そういえばさ、最近 『怒ってる?』 ってよく言われるわ」


「顔が怖くなったのかな?」


「最初から怖いって事もある」


「いつからなのかな、恋愛を勝ち負けで考えるようになったのってさ」


「恋愛関係ではさ、同じくらい相手も自分を好きって、ありえないじゃない?」


「打算になった者勝ちか」


「でもそれって一緒に居る意味ないじゃん」


「孤独って、どれだけ暗闇だろうって考えた事ないの?」


「裏切られた時の屈辱は、相手への愛の確認とは違うのね」


「一時忘れても、かすれても、一生相手を許す事はないもんね」


「だったら最初から、新しい人と始めたほうがいいわね」


「あぁ、どこかに年上の素敵な紳士は居ないかしら」


「年上ったらさ、もう役職定年な年代ですけど?」


「じゃあ年下?」


「お金でも無い限り、相手になんかされないから大丈夫よ」


「運命の人って、どうすれば逢えるの?」


「鳩が飛ぶっていうわよ」


「どんな感じよ」


「浅草の浅草寺で、鳩のエサ持って立ってなさいよ!」


「運命の人です! って何か印付いてないの?」


「出会いからの勘違いの連続が、印だって勘違いするのよね」


「前に言ってたよね、『私の赤い糸の先は、誰かに踏まれてる』 って」


「木に絡まってる場合もある」


「痛い恋ならしないほうがいい。 だけど痛くても、孤独よりはマシよ!」


「……うちのお父さん、紹介しようか? セットでお母さんも付いてくるけど?」





 

 

 

 

       相手に気を許した時に感じるやわらかさ、裏メニューで頼んだエイヒレで誤魔化す、
         恋愛の裏技は全く不得意な 天海 彩と、その仲間たち。。。








「やっぱりフグ刺し見えないわ!」

「見えないなり、女の勘を使うのよ」


「あぁ、このフグが全部、メンズなら、勘が働くのに……」


「働かなかったから、こうなってるんでしょうに?」


「……皿ごと拐っていいよ、もう!」


「なんかさぁ、今思ったんだけどね」


「何? フグ刺しやめて、湯引きにしてったら!」


「学校の時さ、転校生がいてさ」


「うん、あ、何も無いとこ、あんた箸でさらってるっ!」


「後、一週間で転校しますって突然言われてさ、最初はショックだし思い出語るし
   優しくしたり宝物あげたり、住所書いたメモ渡したりしてさ、でもね、その子が
   一週間経ってもいっこうに転校しない訳よ」


「初めての、別れる準備ってやつね」


「なんで一週間前申告なんだろ」


「あれよ、残った人の為の延命処置みたいなもんね」


「でね、そのうちにみんなが突然その子の噂をしだすのよ。
    本当は気を引きたかっただけらしいよ、とかさ、土壇場で親が離婚したらしいとかさ、
    父親がリストラされたらしいとかね」


「思い残す事なくなったら、真っ赤な他人なのね」


「それとも、週刊誌読み終わった主婦の感覚?」


「でね、二週間くらい経ったある日、突然にその子が姿を消してね、
   どんなに先生に聞いても、話しをはぐらかすのよ」


「その話しが一体何なのよ、も~酔っちゃうってば」


「それと似てるって思ったの!」


「どれと?」


「そんな事があるとさ、今度、誰かが転校するって聞いた時、上手に心の準備を
   するようになるじゃない? だから転校する日ギリまで優しく出来なくなって、
    別れを嘆いた後は無視するようになるの」


「だからそれ、今重要なネタ?」


「それってさ、恋人よね」


「そう! いつでも予防線張って付き合ってる恋人と同じなの」


「いつでも一人になる心構えの上での交際かぁ」


「心を開かなきゃ開かないで、一緒に居るのに自立して可愛くない!って男は言うけどね」


「心を開いた瞬間に、二人の秘密とお金を持って、新たな新天地……てなパターンだわ」


「この人ね、貯めてた老後の資金、ごっそりよ」


「だから無理~ってなるのよね」


「言われたくない、知られたくない個人情報を私の知らない誰かと枕話しで……」


「あなたのお金で、誰かと新たな出発ですって?」


「遠隔操作で殺したいわ」


「しかしコリコリするだけで、何の味も無い魚ね、なんでこんな高いのよ」


「歯ごたえだけで味が無い。 ポン酢が無ければ意味が無い……」


「やっぱり私は、フグだわ」


「だから、フグに迷惑です!」


「ポン酢探せばいいんでしょ?」


「そう簡単に見つかってたら、ここでこんな事言ってないわよ」


「しかし、鬼畜な男が増えたわね。 何の温情も無い」


「そういうふうに私達が、育てちゃってるのかもね」


「食い逃げは犯罪です! ってプレート首から下げときなさいよ」


「鬼畜男を 『キッチー』 それにチャレンジする女を 『キッチャー』 てどう?」


「それ、絶対流行らないよ」


「だけどさ、人ってさ、相手を好きになると、どうして相手の事、知りたくなるの?」


「どんな人間か、知りたいからじゃない?」


「知らなければ幸福な事のほうが、多いのにね」


「そうね、携帯なんか、間違っても見ないもん」


「見てロクな事無い事、嫌だって程、知ってるもんね」


「……エロガッパ」


「あ~サラダだって、新鮮な方がいいもんね」


「霧吹きしながら食べないもんね」


「霧吹きみたいなドレッシングあったら、私、絶対買うわ!」


「知らないのかしら。 この年齢は、お値打ち価格なのに!」


「言葉を変えれば、見切り品よ」


「……も~やだ、ひれ酒呑んじゃう」


「え~あれって、昔の男の足の臭いするからイヤだ~」


「……随分と高級な男じゃない。 私の男の足なんか……そら豆臭よ!」

 

 

 

 

       ある意味、縦社会より横社会の中で無礼講という意味を知っている、
         言った事は忘れ去り、言われた事は生涯忘れない 天海 彩と、その仲間たち。。。













「最近ね、会社の帰りに一人でふらっと呑みに行くとさ、
      『お一人ですか?』 って言葉がね、 『お一人様ですか?』 に聞こえる訳よ」


「なに? 誘われたの?」


「あ・り・え・な・いっ!」


「なんでよ」


「会社帰りの、ファンデ溶け出した顔よ、ありえない」


「じゃあ、誰に言われるの?」


「カウンターの中の、ワカゾウよ」


「『今日も一人なんですか?』 って?」


「そう、そう聞こえるのよ」


「誘えばいいじゃない。電話しなさいよ」


「わざわざ人を誘うまでもなく、なんとなく帰りたくない夜ってあるじゃない」


「電話っていえばさ、あんたこの間の電話の声、どこのおっさんが出たかと思ったわ」


「何? 変声期来た?」


「何回目よ」


「それとも、酒やけ?」


「学生時代は、確かソプラノよね」


「今も男の前では、ソプラノよ」


「今迄、身持ちが固すぎたんだわ」


「つっぱりすぎたよね」


「次が来るって思ったもんね」


「妥協忘れたよね」


「ホント、ギャンブルよね、人生ってさ」


「私、身持ちより、根性とカカトが固くなったわ」


「私はね、日本酒やめたわ」


「なんで? あんなに好きなのに」


「男より好きになっちゃって×になったのよ、さすがに学習するってば」


「違うでしょ。 ぐい呑持つ手がサマになっちゃって、でしょ?」


「それあるね、お酌されるのが面倒で、燗が好きなのにグラスで頼んじゃう」


「呑むと深いしね」


「深いね。 早く酔って楽になりたいのよ」


「やだね~」


「ホント、やだね~。 自分のぶ厚い取り扱い説明書、背中に背負って呑んでるんだもんね」


「もうすでに、電話帳なんか問題じゃないくらいの厚さだよね」


「だもん、誰も読む気もしないって」


「百科事典好きな奴とかでもダメかな」


「百科事典てさ、本人じゃなくて、親が子供に読ませたくて買ってただけじゃん?」


「でも、一度も開いて見た事無かったな~」


「高いんだから読めって言われたよね」


「敷居が高いのよ」


「今は妙なプライドが高くなったわ……」


「自分だって、自分を理解できなくなってるってのよ」


「誰がこんな面倒な世界に迷いこんでしまった姫に気づいてくれるかしら」


「姫を探すうちに、毒りんご持ったまま迷子になったババアの間違いでしょ」


「その上、頑丈なバリア張ってるしね」


「バリアなんか張らなくたって、誰もそのバリア破ろうなんてしないけどね」


「なのに、何層にもなったバリアが、尚更頑丈にさぁ」


「その分、内側は無菌状態だから、感染は早いのよ」


「すぐに人を好きになる」


「完全武装しながらね」


「いつもブレーキかけてるからね、いざという時はブレーキ故障して猪突猛進ね」


「……怖いわ」


「重いのよ」


「体重?」


「違うでしょうが」


「体重も増えたし体型も丸くなったね」


「性格も多少は丸くなったけど、角を隠してる」


「まるでそれって、怒った時の『フグ』 じゃない?」


「フグに、謝ったほうがいいわよ」


「きっと、今する恋は、若い時の無鉄砲な愛より、ず~んて、重いのよ」


「愛だったら、どうなっちゃうの~?」


「阿部定事件並かもよ」


「ぎゃ~物騒で楽しい~♫」


「ほんとバカ」


「じゃあ気分変えて、フグでも行く?」


「ふぐ刺し? ふぐ鍋なら日本酒でしょ?イヤだ~」


「じゃあ、ワインバーにする?」


「それじゃ、呑んだ気がしない」


「じゃあ、やっぱりフグね」


「じゃあフグ料理屋で、楽しい老後の過ごし方でも相談するか」


「悪酔いする、間違いなく、残念な日になるわ」


「残念なのは、今更始まった事じゃないから大丈夫よ」


「うん、来世、頑張ろう」


「来世、また女に生まれたら考えようよ」


「おんなじ事、繰り返すんだろうなぁ」


「あぁ、華の命は短くて……」


「眼鏡忘れたけど、ふぐ刺し、見えるかしら……」





               幸福比べして足引っ張る年齢も過ぎ、何かが同じなら良しとして
                   安心する年齢の、天海 彩と、その仲間たち。。。