「ウィルキー・コリンズ短編選集」ウィルキー・コリンズ

(訳)北村みちよ(彩流社)P257

 

短篇でもコリンズのストーリーテラーぶりは健在で、短い中に詰め込まれた謎や恋、ユーモアと楽しめる要素が満載なだけでなく、訳者の北村さんによる柔らかで情緒豊かな表現のおかげで、古典ならではのとっつきにくさがなく、映像が流れるように再生されていくヴィクトリア朝の世界。

中でも、妹のようにかわいがっていた親友の不審な死の謎を追う、日記体で書かれた「アン・ロッドウェイの日記」、航海中に船内で生まれた赤ちゃんの切ない不条理を描く「下等船室」がお気に入り。

ディケンズと親友だったコリンズの物語は、世界観や物語の性質に通じるものも多く、今の物語に比べると単調な部分はあれども、100年以上昔に描かれた世界に想いを馳せる幸せや、文化・風俗・思想の違いもとても興味深く、読む程に味わいが増していく。

子供の頃に読んだ小公女や若草物語などの普遍的な要素にミステリーや人生の不条理さが混じり合い、時代も国境も越えて楽しませてくれる物語の偉大さ。読者の間口をぐっと広げてくれる北村さん訳でコリンズ作品を新訳刊行していってほしい!