No.4 わたしは隼人の彼女です。それが何か?
うわー、みんなこっち見てる。
 
はぁー、やっぱり来たくなかった。
 
 
隼人といると目立つから。大学で会うのは失敗だわ。もうあとの祭りよね・・・とりあえず、今は無事に終わらせる事!これが私のミッションよ!
 
 
 
 
「なぁ、もう少し楽しそうにしてくれよ。俺の彼女なんだからさ。」
 
 
 
 
 
 
いけない、顔にでていたらしい。あっは。
 
 
 
 
「そう?楽しいよ。」
 
「それ嘘じゃん。」
 
「だって仕方ないでしょ。
来たくなかったんだもん。いつバレるかってハラハラしながら楽しめないよ。」
 
「大丈夫だよ。ちゃんと手は打ってあるから。」
 
 
 
 
 
隼人は笑って私に言う。
手は打ってあるって何のこと?
 
 
 
 
 
「よう!おはよう、さゆ・・・」
 
 
 
 
嘘でしょ!こんなとこで名前呼ばないでよ、陽介ぇ!!私は慌てて陽介の口を手で抑える。
 
 
 
 
「・・止めてよ、ここでは私はユリなのぉ!」
 
 
 
 
 
陽介は腐れ縁の幼馴染。陽気でいつもバカ元気なのが取り柄だ。小さな声で話す私を真似するように小さい声で言う。
 
 
 
 
「・・わかったよ、でもさユリって呼べないじゃん?それ、隼人しか呼べないし。なんて言うんだよ。お前でいいのか?」
 
「いいよそれで、とにかく大学内では名前を呼ばないで!」
 
「お前は良くても、隼人は嫌かもよ。」
 
陽介は隼人を見る。
もう、めんどくさいんだから!
 
 
 
 
 
「いいよね、隼人?ユリって呼ばれるよりいいでしょ。」
 
「あぁ、今回は仕方ない。今回だけな。」
 
 
 
 
 
今回って、次からどうするのよ!考えるだけ無駄だわ。あーあ、もうどうでもいい。
 
 
 
 
「ユリ、何食べたい?」
 
「医学部の学食かぁ・・・何がおすすめ?」
 
「そうだな、女子に人気なのはパスタで、食堂で一番売れているのはハンバーグステーキかな。あとデザートもあるよ。ユリの好きなパンナコッタやティラミスもあるよ。」
 
「えー!ずるい。医学部だけ、特別メニューじゃん!なんで?」
 
「卒業生が寄付してくれているんだよ。毎月ワンコイン寄付してくれるんだ。退会はいつでも自由だけど、大抵の先輩はそのままらしい。だから結構な金額だと思うよ。」
 
「そーなんだ。いいなーそれ、各学部で取り入れればいいのに。」
 
「管理が大変なんだよ、毎年金額も大きくなっていくし」
 
「あー、だから医学部の図書館あんなに大きいの_」
 
「そーだよ、3年前に立て直したって聞いたよ。本も卒業生の寄付がほとんどだって、だから勉強以外にも色々あるんだよ。」
 
「そうそう!どうしてこんなのが、医学部にあるのかって思う本がいっぱいあるよね」
 
「えっ。ユリ、医学部の図書館来たことあるの?」
 
 
 
 
 
 
あっ、しまった。。つい口走ってしまった。隼人には内緒で毎週医学部の図書館通っているんだもん。そりゃ知ってるよ。だってね、私の好きな料理本とかヨガの本とか、心理学の本もあるんだもん。それ、先輩の寄付だよね。
 
 
 
 
 
 
「う・・ん。だって、隼人に言うと会いに来そうだから・・・。」
 
「間違いない、速攻行くな。隼人ならきっと図書館で監視してるぞ!」
 
 
 
 
 
楽しそうに言ってくれるわね?陽介、知らないわよ。隼人の機嫌を損ねたら・・・。
 
 
 
 
 
 
「陽介、俺のノートいらないみたいだな」
 
「へっ?いっ、いるいる!間違えたな俺、隼人はそんなことしないよ。」
 
「もう遅いわよ。何でいつも隼人の前ではそうなのよ。」
 
「だってさ、医学部合格できたの隼人のお陰だし。隼人は俺の先生だからさ。」
 
「それなら、隼人を紹介した私のお陰でしょ。私に感謝しなさいよ。」
 
「するする!お前にパンナコッタ奢るよ。」
 
 
 
 
 
まったく、調子がいいんだから。
 
 
 
 
「なぁ、戯れるのはその辺にしろよ。ユリは俺の彼女なんだからな。」
 
「あっ、悪い隼人。もう静かにするからさ。」
 
「ユリもだぞ。俺の隣にいろ。その方が安全だから。」
 
 
 
 
隼人はわたしを引き寄せる。
ほら、わたしまで怒られた。もう、疫病神の陽介め。
 
 
 
 
 
 
 
>>>>
 
席に着いて食べ始めても、誰も話しかけてこないわ。変なの。高校の時は必ず誰かが話しかけてくるから、食べる間もなくて大変だった。結局急いで食べなきゃいけなくて、午後の授業胃もたれしてたこともあったし。
しかし、見事に誰も話しかけて来ないわ。まっ、その方が気楽でいいわ。これ美味しい!医学部の学食が混む理由がわかったわ。このパンナコッタ食べにこっそり来ちゃおうかな。
なんか視線を感じる。みんなこっちの様子を伺うようにチラチラ見てる。なんだ、この雰囲気は・・・。
 
 
 
 
 
「誰も話しかけてこないのが不思議だろ?」
 
「うん、なんでなの陽介?」
 
「箝口令が敷かれているんだよ。」
 
「箝口令?なんの??」
 
「隼人の彼女が来た時は絶対に話しかけてはいけないってね。もし、話しかけたらもう二度と彼女を学食に連れてこないってさ。」
 
 
 
 
 
はぁ?そんなこと聞く人いるわけ?ってみんなそれを守ってるから、今のこの状態なのね。わたしは隼人をみる。
 
 
 
 
「なんだ?なんか付いてるのか?」
 
「ううん、何でもない。」
 
 
 
 
隼人はニッコリ笑って、ティラミスがのったスプーンをわたしの口元へ持ってくる。へっ?ここで、食べろと言うの??戸惑っているわたしに、顎でツンツンと合図する。嘘でしょ。
 
 
 
 
「ここ、学食だよ。」
 
「大丈夫だよ、端っこの席だし。誰も何も言わないよ。」
 
 
 
 
 
それ、言わないんじゃなくて言えないのよ!
あり得ないし。
陽介をみる。こら、知らんぷりして牛丼食ってるんじゃないわよ!!周りの視線を感じる。。コソコソ話してる。あーぁ!!もう勘弁して欲しい。
 
 
 
「ほら、余計に目立つよ。」
 
 
 
 
この悪魔め!
 
 
「パクっ」
 
 
 
 
 
 
 
「きゃぁぁぁぁぁ!食べたよ!」
 
「いいなぁー、わたしもアーンされたい!」
 
「わたしも!!」
 
「わたしがしてあげるよ、アーン!あははっはは・・・・」
 
 
 
 
わたしの顔は真っ赤だった。赤ら顔のわたしはいつもファンデーションで隠しているんだけど、もうそれも無駄よ。顔中が真っ赤なのが自分でわかるし。だって超熱いんだもん!
 
 
 
 
「おぃ、さゆ・・・お前、ゆでダコになってるぞ。大丈夫か?」
 
「ほっといてよ!」
 
「なんだよ、俺に当たるなよ、ショックで俺泣くぞ。」
 
「勝手に泣けば!」
 
「完全に八つ当たりだな。」
 
「陽介のせいよ。」
 
「なんでだよ。」
 
 
 
 
どこかへ行っていた隼人が席へ戻って来た。
氷の入ったお水をわたしに手渡す。もう、こういうところは優しいんだから。わたしは受け取り一気に飲む。
 
ふぅー、少し落ち着いた。。
 
真っ赤になったら、冷たい水を飲むと引くのが早いのを隼人は知っている。
 
 
 
「ほら、これも食べて。ユリ好きでしょ。」
 
 
 
 
優しい声でティラミスの入ったお皿を寄せる。わたしは隼人をじーっと睨む・・・睨んでるつもりなんだけど、頬を膨らますのが精いっぱい。潤ったその瞳でわたしに微笑んでいる。はぁー、負けました。負けましたよ。その微笑みには誰も勝てないわ。
 
 
 
 
「ありがとう。。」
 
 
「どういたしまして。」
 
 
 
 
 
美味しい!
 
悔しいけど、パンナコッタもティラミスも本当に美味しかった。次も食べよう!
 
 
 
 
「わたし、トイレに行ってくる。」
 
「じゃ、俺も行く。」
 
 
 
 
なんかボディーガードみたい。まぁ、これはこれでいいかも。でも、トイレで誰かに話しかけられたらどうしよう。心配しつつトイレへ入ったら誰もいなかった。ラッキー!!出ようとしたその時、声がした。
 
 
 
 
「隼人くんの彼女って美人って聞いてたけど・・・」
 
 
「うーん、どうだろう。遠くからしか見てないからなんとも言えないかな。でも、普通に可愛いよね。」
 
「わたし見たよ。美人だったよ、色白いし、目もクリッとしてて大きいし。鼻も高い、しかも顔こんだけしかないよ、超ちっちゃいの!」
 
「へぇー、見たの?近くで??」
 
「うん、並んだ時にちょうど後ろにいたから。
しかも、隼人くんがしきりに彼女のこと気にしてて、陽介くんと盛り上がって列からはみ出た彼女を優しく背中に手を回してガードしてたよ。あれ見て、いいなって思った。」
 
「それ、ただ邪魔にならないように寄せただけでしょ。」
 
「もう、エマったらその辺にしときなよ。二人付き合ってるんだよ。諦めなさいよ。」
 
「どうして無理なのよ。まだ見てるだけで、話しかけてもいないのよ。始まってもいないのに無理って言わないでよ。」
 
「はいはい、わかったから。ほら、移動しようよ。医学部まで来たから移動に時間かかるんだからね。」
 
「うん、わかった。行こう。」
 
 
 
 
うわー、久しぶりに女子の会話を聞いたわ。。できれば聞きたくなかったな。はぁ、考えるのも嫌だわ。
出ると隼人がいた。
 
 
 
 
「さっき、女子に合わなかった?」
 
「あぁ、誰か来たから柱の方へ移動したんだよ。俺がいると、ユリがいるのバレるだろ。」
 
 
 
 
バレた方が、聞かなくてよかったかもしれない。
 
 
 
 
「どうした?何かあった?」
 
「うん、わたしの話してた。」
 
「なんて?悪口か?」
 
「そーじゃないけど、そのうち1人は隼人が好きらしい。他の学部から来てたみたいよ。」
 
「なんだそんなことか。気になるのか?」
 
「気にならないと言えば嘘になる。」
 
「何が気になる?俺は心変わりなんてしないの知ってるだろ。」
 
「うん。わかってる。」
 
「じゃ、気にするだけ損だぞ。」
 
「うん・・・。」
 
 
 
 
「ちょっと、こっちきて」
 
 
 
 
わたしの腕を取って歩き出す。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
非常階段のドアを開ける。
わたしの手からレースのショールを取って頭に被せる。なに?隼人はショールで私の顔を隠すようしたかと思えば、少しだけめくり私に口づけをした。もう片方の手はしっかりとわたしの腰を支えて。
 
 
 
突然のキスに私はよろめく。
 
 
 
 
 
それを予測していたかのように彼はしっかりと抱き寄せる。
 
 
とろけるような甘く優しいキス。この感覚はなんだろう。初めての感覚に酔いしれる。大学だから?誰かに見られるかもしれないというこの緊張感、麻薬のようなキスに私はいつも以上に胸が高ぶる。隼人もそうなのかもしれない。
 
彼のキスはいつまでも終わらなかった。
 
 
 
 
 
 
 
携帯が鳴った。
 
 
驚いた私は彼から離れる。
手の中の携帯を見ると陽介からだった。先に講義に行ってるからと書かれていた。隼人に伝言するように頼まれる。
 
 
 
 
「陽介が先に講義室に行ってるって」
 
「わかった。ユリはこれからどうする?」
 
「とりあえず、一度学校出て着替えてから戻るよ。」
 
「じゃ、ほらこれ。」
 
 
 
 
 
鍵だった。スタバのキーホルダーの付いた鍵。えっ?これって、隼人の家の鍵??
 
 
 
 
「着替え不便だろ、それユリの鍵だから持ってて。」
 
 
 
 
わたしの鍵。
 
 
 
隼人の家は大学から車で10分のところだった。いいの??これで、着替えの場所の確保ができるから嬉しいけど。ほんとに??
 
 
 
 
 
「いいの?」
 
「あぁ、ユリは俺の彼女だろ?」
 
「うん!ありがとう。凄く助かる!」
 
「いつでも使っていいよ。俺に連絡する必要はないから。」
 
「わかった。」
 
 
 
 
 
わたしを安心させる言葉。
 
わたしが欲しかった言葉。
 
 
いつ来てもいいよ。
 
 
 
隠し事はないから、
好きな時においで。
 
 
 
だから、何を聞いても不安になる必要はない・・そう彼は言っていた。
 
 
 
 
そのピンクのキーホルダーがとても可愛かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
次回、「あんた、ウザい!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

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沖縄を舞台にした小説です。H大学は架空の大学です。

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「シークレットバケーション」第5話 あんた、ウザい!

 

 

 

 

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