エレベーター前で立っていると

 

 

「雪、ほら!」

 

 

後ろから声がして振り向く。

 

杏子が紙袋を胸に押し当てる。

 

 

 

驚いて聞く・・

 

「何?」

 

 

 

「薬と果物だよ」

 

中を見て彼女の顔をみる。

どうして、知ってるんだろうかと不思議に思う。

 

 

その態度にイラだってきたのか

意味深な顔をしてわたしを見ている。

 

 

どうしたんだろう。。

 

 

彼女はため息をついてから

 

「金曜日熱あるって言うから届けに行こうとしたら、友達来るから大丈夫だって言って電話切ったでしょ!」

 

強調して言う杏子。

 

 

 

 

思い出した!!

 

 

 

 

 

千佳の後に、杏子からも電話があったんだった。

すっかり、忘れていた。

 

 

 

「あっ、ありがとう!」

 

急いでお礼を言う。

 

 

 

「それで、誰が来たの?友達って誰?隣に住んでる友達?」

 

「うっ、うん!そうだよ、

朝食も彼女が準備してくれて病院の検査も連れて行ってくれたの。」

 

「ふーん、そうなんだ。てっきり別の人かと思ったよ。」

 

 

 

私は慌てて話題を変える

 

 

「今日は杏子忙しいの?お昼一緒にどう?」

 

「うん、大丈夫だよ。ところでさ、彼にいつ会わせてくれるの」

 

驚いて目を丸くして彼女に聞く。

「えっ、まだ彼に会いたいの?」

 

「なんで?この前会えなかったでしょ。

普通さ、それって次回にしましょうって事でしょう」

 

「・・・・」

確かにそう。

そこで中止なんて杏子が言うはずがない。

 

 

私の様子を見かねて、もう一度言う。

「いつがいいか聞いてみて」

 

「うん・・わかった聞いてみる」

仕方なく頷く。更に杏子は言う。

 

「彼会ってもいいって言ってなかった?」

 

「えっ、なんで知ってるの?」

 

「だって、彼は騎士だからね」

 

 

 

 

結局避けられないようだ。

彼一人では杏子に対抗できないかもしれない。

 

どうしよう。。

 

 

 

 

「ところでさ、帰り大丈夫なの?」

 

「うん、最近は大丈夫みたい」

 

「ならいいんだけど、また変な事あったらちゃんと言ってよ」

 

「わかった」

ここ数ヶ月前から時々帰り道視線を感じる事があって何気無くそれを杏子にその話したら、すごく心配してくれていた。ここ1週間何もなかったから、そのことをすっかり忘れていた・・・。

 

 

 

仕事帰り、駅からの帰り道コンビニを通り過ぎると、住宅街に入って行くため人通りが少なくなる。視線を感じて後ろを振り向いても誰もいない。そのせいで足音に敏感になっている自分がいた。日中歩いていても、足音に耳を済ますようになっていたのだ。人間の対応能力って計り知れないわ・・・と自分に関心する。

 

 

 

 

 

「じゃ、私行くわね。ちゃんと聞いておいてね」

 

念を押して歩いていった。小さくため息をつく。ユイ君にメールして聞かなきゃ。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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今日は少し遅くなってしまった。

 

 

 

最近視線を感じないため、少し油断していたのかもしれない。

 

コンビニを通り過ぎ少し早足で家へ向かう。

 

 

 

するとどこからか気配がした。私はバックから防犯ブザーを取り出し握りしめる。恐怖心から何も考えられない。振り返る勇気がない私は更に早足になる。

 

後ろから足音が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は更に早く歩く。

 

 

 

まるで私の早さに合わせるようにその足音も早くなる。

 

 

 

 

 

 

誰か助けて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

私は心の中で叫んだ。

 

 

 

 

突然、その足音は駆け足になり近ずいて来たかと思ったら、サッと横を通り過ぎて前にいる女性に声をかけた。女性の笑い声が聞こえる。

 

 

 

わたしはその場で立ち止まっていた。

 

 

 

 

足だけがカクカクしている。心臓の音が大きくなり、吐き気さえしてくる。しゃがみ混む。頬を涙が流れていた。安心感よりも恐怖心の方が勝っていたのだろう。防犯ブザーを持つ手が震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玄関の鍵をかける。私は、そのまま座り込んでいた。なかなか入ってこない私に気がついた葵が玄関までくる。

 

 

 

 

「ママ、どうしたの?」

 

「ううん、なんでもない」

 

私は平常心を装い微笑んで答える。ヒールを脱いで中へ入る。

 

 

 

 

「ご飯温める?」

 

「大丈夫よ、お風呂入ってから自分でするから」

 

「炊飯器セットしておいたからね」

 

「ありがとう」

 

葵は自分の部屋へ戻っていった。

 

 

 

 

 

私はベットへたどり着く前に崩れ落ちる。こんな怖い思いをしたのはいつ以来だろう。怖かった。本当に怖かった。もしまた同じことが起きたらと思うと恐ろしくて仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

湯船に浸かりながら、あの時の恐怖心がまた蘇り全身が強張る。私は両手を強く握りしめる。どうしたらいいんだろう。こんなこと二度と耐えられない。目頭が熱くなる。いつの間にか大粒の涙が頬を濡らし、風呂中に嗚咽が漏れていた。

 

 

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ねぇ、どうして待ち合わせ場所会社前なのよ。」

 

 

私は杏子に聞く。

やっと噂が静まってきたのにどうして?

 

 

 

 

「いいから、ほら、行くよ!」杏子は答えずに歩いて行く。

 

「もう来てるんでしょう」

 

「うん、さっき着いたってメールがあったよ」私は答える。

 

 

 

 

 

エレベーターを降りて出口へ向かう。なんだか今日は人が多いようだ。少人数であちらこちらに人がいる。雨降っていないのに、どうしてだろう。その間をぬって歩いていると、その人だかりの先に彼がいた。その美しい骨格が長身によって更に艶をだす。オーラが身体中から溢れ出ていた。背広姿の二人はまるで雑誌から出てきたモデルのように人目を引いている。誰もがため息をつきたくなる。。。

 

 

 

杏子が呟く。

「あーぁ、あれだな」

 

足早に歩く。わたしもその後を追うようにして歩く。

 

 

 

 

こっちに気がついたユイ君が私を見て微笑む。それに気付いた陸君が振り向く。それと同時に周囲の人々が一斉に私と杏子をみた。

 

 

 

私はその視線にたじろぎ、後さずる。

 

 

 

それに気がついた杏子が大きく手を振った。皆が彼女をみて視線を外らす。彼を呼んだ理由が今やっとわかった。

 

「今後また噂になってもこれで大丈夫でしょ」

 

杏子は歩きながら言う。杏子の優しさにじーんとくる。「うん」私は答える。彼女は彼の前に立ち声をかける

 

 

 

「こんばんは、騎士君」

 

 

 

「こんばんは、星野唯一です。彼は僕の友人の小林陸です」

 

「こんばんは陸です」

 

二人は杏子に挨拶をする。

 

 

 

私は慌てて、

 

「私の友人の山口杏子さんです」と彼女を紹介した。

 

 

 

「じゃ、近くのお店予約してあるから行こう!」

 

杏子は私の腕を組んで歩く。

二人も後を追うように歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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私の心配に反して三人は仲良く話していた。

 

 

 

「じゃ、スポーツ好きなんだ。何が好きなの?」

 

「そーですね、やっぱりサッカーですかね。高校時代ユイと二人サッカー部だったんです。」

 

「そーなんだ、今もしてるの?」

 

「いいえ、今はなかなか時間が作れなくて何もしてません」

と笑う陸君

 

「二人とも結構がっしりしてるから、鍛えているように見えるけど?ユイ君は何かしてるの?」

 

「いいえ陸と同じで今は何もしていません。時々ジョギングをする程度です。」

 

「そうなのね。ところで、二人とも仕事は今忙しい?やっぱり定時に帰れないのかな?」

 

「僕は比較的定時に帰宅してますよ。」

 

「ユイ君は?」

 

「僕も最近は定時に帰れています。」

 

「そう!それは良かった。」

 

 

 

 

 

杏子は安心したように話を切り出し始めた。

 

「実は二人に協力して欲しい事があるのよ。最近、雪がストーカー被害にあっていてできればどうにかしたいと思ってるんだけど、現状では何も被害がないから警察にも相談できなくて。それで今日来てもらったの。」

 

 

私は驚いて叫ぶ。

 

「杏子、どうして!・・」

 

 

 

「だって何か対策を打つにせよ、私一人では限界があるのよ。他にも協力してくれる人が必要よ。会社の人だと嫌でしょ。」

 

私は黙る。

 

 

 

今まで静かに聞いていたユイ君が、初めて発言した。

 

「何もないって、相手を見たことないってことですか?」

 

わたしを見た後、少し強い口調で杏子に聞く。

 

 

「そうなの、視線は感じるけど姿を現したことがないのよ。」

 

「それはいつからですか?」更に強調して聞く。

 

「1、2ヶ月ぐらい前かららしいの」

 

 

 

 

そんな前から悩んでいたのかと俺は愕然とした。全然気がつかなかった。きっと、そんなそぶりを見せないようにメールをしていたんだとわかり、彼女の恐怖心を思うと怒りが込み上げてくる。陸がすぐにそんな俺に気がつき軽く肘を突いてから、

 

「大丈夫ですよ、僕も協力しますから。」と言ってこっちを見る。

 

俺は怒りを表情に出さないように言葉を選びながら切り出す。

 

 

 

「二人一組で交換して様子を見ましょう。一人では危ないので二人の方がいいと思います」

 

 

「じゃ、連絡先交換しようか」

 

杏子さんはそう言ってバックから携帯を取りだす。雪さんは黙ったままその状況を見守っていた。

 

 

会計を終え、店を出た頃にはすでに十時を回っていた。

 

 

 

 

俺は杏子さんに言う。

「今日は僕が送ります」

 

「えぇ、頼んだわ」あっさりと了承してくれた。

 

 

駅で二人と別れる。

 

 

 

 

電車に乗っても彼女は何も話さずに、頬に手を当てたまま座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

改札を出てコンビニの前を過ぎた辺りで、雪さんがそわそわしているのがわかった。なるほどいつもこの辺りから恐怖を感じながら一人で歩いて帰っていたんだと知り、俺は怒りと同時に負い目を感じる。握りしめている小さな手を見た俺は彼女に優しく声をかける。

 

 

「雪さん、もう大丈夫ですから」

 

 

 

雪さんは立ち止まった。

 

 

じっと前だけを見つめている。ぎゅっと握っていた手をゆっくりと口元へ持っていく。そしてシクシクと泣き始めた。肩を震わせ声を押し殺すように。静かに泣いていた。

 

 

 

 

俺は思わず抱き寄せる。

 

 

彼女は力なく身を寄せ泣いていた。

 

 

 

 

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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それから一週間が過ぎた。

 

 

出来る限り俺と陸で雪さんを見守り続けた。俺か陸が無理な場合に限り杏子さんにお願いした。だがストーカーは現れなかった。雪さんはそんな俺たちが心苦しかったようである提案をして来た。一つ前の駅で降りてバスに乗れば、家のすぐ近くで降りれることがわかったようだ。きっと、色々悩んで調べたんだと思った。俺たちはどうしても都合がつかない場合に限りその提案をのむことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから更に1週間が過ぎた。

 

 

 

 

 

その日は雪さんは少し遅くなった。仕事が押したようだ。申し訳なさそうな様子がメールで伝わってくる。

 

彼女が駅に着いた。

 

 

 

 

俺と陸はいつものようにスタンバイする。陸は先に行って待っていた。俺はかなり距離をおいて雪さんの後を追う。

 

 

 

 

雪さんがコンビニの前を過ぎ足を早めようとしたその時、コンビニから男性が出て来た。そのまま雪さんの後を歩いていく。

 

 

 

コイツなのか?

 

俺には判断できなかった。

 

 

 

 

 

何故なら、あまりにも警戒心がなく歩いているからだ。雪さんには見えないように距離を保ちながら歩いている。それがわざとなのか、たまたまなのか俺にはわからなかった。すると陸が雪さんの側に走っていくのが見えた。

 

 

 

雪さんが陸に合図をだしたのだ!

 

 

 

 

陸が大きな声で叫ぶ。

 

 

 

 

「そいつだ!!」

 

 

 

 

 

陸は雪さんの前に立つ。

俺は怒りを爆発させ走り出した!

 

男は驚いたように立ち止まっていた。俺は後ろから奴の両腕を掴んで抑え込む、男はされるがまま床に膝をついた。

 

 

 

「お前か、ずっと彼女つけていたのは!!」

 

 

 

 

 

俺は大声を上げ、更に奴の両腕を後ろに引っ張り上げる。奴は悲痛な声をあげる。

 

 

「痛い!やめてくれ!」

 

男は初めて声を出した。

 

 

 

陸の後ろに隠れていた雪さんがこっちを見た。そして男を見て呟いた。

 

 

 

 

 

 

「森君・・・・」

 

 

 

えっ、俺は驚いた。

 

 

 

「上原さん、助けて」

 

奴は雪さんを見て懇願する。彼の声を聞いた雪さんはこっちへゆっくりと歩いてくる。そして俺を見て

 

「彼は同級生なの・・・」

 

 

 

彼女の顔を見て俺は手を離す。奴はうっと喚き両手を地面につけた後ゆっくりと立ち上がる。悲痛な顔をして雪さんを見ている。彼女は恐怖と驚いた顔で彼を見返す。そして、

 

 

「どうして、森君が・・。森君がずっと私の後をつけてたの?」

 

両目に涙を浮かべながら、振り絞るように奴に言う。

 

 

 

 

「違うんだ上原さん、ちゃんと話をするから。」

 

彼女は黙っていた。その男は彼女を見つめながら聞く。

 

「前に僕とコンビニで会ったの覚えている?」

 

彼女は頷く。

 

 

 

「実はその時上原さんの後をつけるように歩いてくる男がいて、コンビニに入った後も路地に隠れて待っているのが見えたんだ。だから俺心配で声をかけたんだ。でもその男、俺が上原さんに声をかけたら駅の方へ歩き出したんだ。それで急いで後追いかけたんだけど見失ってしまって。」

 

 

「でも、どうして何度も私の後を追ったの?」

 

 

「この前会った時、友達の家の帰りだって言ったでしょ。僕の恋人の家が近くにあるんだ。だからその帰りにコンビニで少し時間を潰して上原さんに会った時だけ家まで見送っていたんだ。本当にごめん。こんなつもりじゃなかったんだ。」

 

腕をさすりながら彼は申し訳なさそうに謝まる。

 

 

 

 

 

 

彼女は彼の顔を見た後、俺を見つめて

 

「良かった」と小さな声で言う。

 

両手で顔を隠すように動かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホッとしたんだろう。

 

 

 

 

 

 

俺は彼女に近ずき背中を優しくさする。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、

 

ゆっくりとその肩を寄せて抱きしめた。

 

彼女は泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 

 

 

 

彼は、何度も彼女に誤って帰っていった。陸が俺の様子を伺うように聞く。

 

「これで良かったのか?」

 

「とりあえず誤解だとわかったからな。だけど、彼が本当のことを話しているとしたら、その男の方が俺は心配だ」

 

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

俺は不安だった。ここで終わっても解決にならないのではないかと。もし何かあったらと考えると嫌な気持ちになる。ずっと黙っていた彼女が答える。

 

 

「彼は嘘を言っていないわ、私にはわかるの」

 

こっちを見て言った。俺は頷く。

 

 

 

「俺は雪さんを送ってくから。ありがとな陸」

 

「おう、じゃまたね雪さん」

 

「うん、本当にありがとう」

 

 

陸は駅の方へ歩いて行った。

 

 

 

 

雪さんはホッとしているというより、ボーとしていた。知り合いだったとわかったと同時に、俺と同様解決していないこの状態に困惑しているに違いない。俺は彼女に声をかける。

 

 

 

「雪さん、しばらく俺に送らせてください。無理はしませんから。お願いです。」

 

雪さんは黙ったまま歩いていく。そーっと彼女の横顔を見る。口をキュッと結んで何か考えている様子。家の前に着いた。そして俺の顔を見て静かに頷いた。

 

 

「うん」俺はホッとした。

 

彼女は軽く頭を下げてマンションに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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それから数日後、

帰宅途中の女性の後を追っては家に押し入り金品を盗んでいた男が捕まった。彼が見たのはたぶんこの男だろう。どうやら、雪さん以外にも被害者が複数いて別の駅で張り込んでいた捜査官に捕まったようだ。複数の駅で犯行を繰り返していた。駅名がニュースで流れた。その中に彼女の駅もあった。俺はホッとした。何より雪さんが一番ホッとしたはずだ。

 

これで彼女に平穏な日々が戻ってくれればいいと俺は強く願った。

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

 

次回、『 4角関係 』

 

 

 

 

 

 

 

 

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第9話 四角関係