久生十蘭集 ハムレット | 緑ヶ丘ビーズ荘

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読書とビーズ。

怪奇探偵小説傑作選3。日下三蔵編。

落ちばれあり。

 

なぜか2の横溝がなかったんですが、収録作確認したら読んだことある…というか、家にある作品だったので一安心です。

というわけで、なかなか自発的に手を出さない久生十蘭に挑戦。

 

ちょっと前に、おや敬遠してたけど悪くないな~と思ったんですが、今回もずばりそんな感じでした。

うん悪くないな~…悪くはないんだが…。

 

 

 

 

『黒い手帳』

ある男が生涯をかけた研究のすべてが書きつけられた手帳。

望んでもいなかったがその手帳を受け取った私は、この手帳をめぐって起きた出来事をありのままに書いてみようと思う。

奇妙な運命を、見たままに…。

 

いかれた絵描きが秀逸。

天才と気違いが純粋というのは、もうそれちょっと飽きたよ~と思うパターンではありますが、やはりうまく書かれると素晴らしく良い。

ちょっと現代とは言葉のニュアンスが違うのか、若干北斗の拳ぽい厳めしい文章も好みです。「貴様はもう死ぬ…この男も薄命であった。」とかな。

ストーリーも意外性があって読み応えありますが、とにかく絵描きの魅力が大きい。

命のやりとりをするほどでありながら、どこまでも距離感のある関係性が、不況下のパリの空気をしんしんと感じさせてくれます。

 

 

『海豹島』

オホーツク海に浮かぶ絶海の孤島。

予想外の滞在を余儀なくされた私は、この島に起こった奇怪な事件の真相に迫っていくこととなった。

焼死した職員たち、そして姿は見えぬが確かに感じられる女の気配…一体この島で何が起こっているのか?!

 

落ちばれありって言ってますんでバーンと書きますけど、

「恋人をオットセイの剥製に隠してオットセイのふりをさせていたら、皮膚呼吸ができなくて死ぬ」って話です。

おお…変な話…。

しかしこの変な話が、まったくシリアスに展開されます。しかも読んでいる間、息詰まるばかりです。

陰鬱な風景描写、奇怪な妄想、明晰な推理…の果てに起きる破綻。

厳寒・吹雪・氷原と、とにかく寒さを詰め込みつつ、ラストは炎で〆るという完成度。

変な話と気づかせないまま、一気に読み尽くせる緊迫感です。

 

 

『地底獣国』

命に危険の及ぶ地底の探索のため、流刑地の日本人たちが選ばれた。

帰郷を条件に探索を承諾した日本人だが、ロシア研究者は恐るべき陰謀のため、彼らを生かしておくつもりはなかった。

地下に繰り広げられる想像を絶する光景、そして渦巻く陰謀の果てには…!!

 

秘境探検モノって流行ってたのか…。

地下に恐竜が生きていた!というザ・ジュブナイルな話ながら、冷徹な描写で子どもっぽさを感じさせません。

流刑地の日本人の過酷な状況、次々に失われる命、閉ざされた世界で確実に迫りくる死。

厳しいストーリーの中で、豪華絢爛な恐竜世界が繰り広げられます。

悪役が最後は学問に殉じる、というのもポイント高い。

 

 

 

結構バラエティに富んだ作風なんだな~、と楽しめましたが、

シリーズやアンソロに入ってたから、ではなく、この人の名前目当てで手を出すかと言ったら、出さないかな~…。

多分谷崎と一緒で、ちょっと理知が勝ってる印象でした。

枠にとらわれず一定の客観性を持って、という怜悧な作風が私にはイマイチなんだと思う。

もっとこう、「書いてるうちに盛り上がってまいりました!ここがサビです!!」みたいにコブシを効かせてほしい…。

でもこのシリーズ入ってなかったらまとめて読んだりしなかっただろうから、良い機会でした。