米国の集合住宅業界で、AIによるプロパティマネジメントの自動化が本格的に始まっています。
AIはすでに、入居希望者への問い合わせ対応、内覧予約、賃貸借契約書の作成、家賃の督促、請求書処理、固定資産税評価への異議申立てなど、これまで管理担当者が時間をかけて行っていた業務へ導入されています。
米国では2024年時点で、不動産、賃貸物件、地域管理組合などを管理するプロパティマネージャーが46万6,100人働いています。AIの進歩によって、その仕事の内容や必要な人員数が今後大きく変わる可能性があります。
AIで事務作業を40%削減
集合住宅向けAIを提供するEliseAIは、AIの導入によって賃貸募集と管理事務に必要な労働時間を40%削減し、人件費を10~20%削減できると試算しています。
同社の企業価値は22億ドルと評価され、そのシステムは米国にあるアパートの約6分の1で利用されているとのことです。
AIは、入居希望者から夜間や休日に問い合わせがあった場合でも、すぐに返答できます。また、質問への回答だけでなく、内覧予約、必要書類の案内、契約手続きの準備まで進められるようになっています。
大手住宅REITでは従業員数が20%減少
約8万5,000戸のアパートを保有する大手住宅REITのEquity Residentialでは、業務の集約とAIによる賃貸管理を進めた結果、2020年から2025年までに従業員数を20%削減しました。
ただし、AIの導入が直ちに大規模な解雇につながるとは限りません。
プロパティマネージャーは離職率の高い職種で、地域によっては年間離職率が30%以上になるとされています。一般的なホワイトカラー職の2024年の平均離職率は9.9%でした。
そのため、従業員を解雇するのではなく、退職者が出ても新しい人を採用せず、AIでその仕事を補う形で人員を減らす企業が増える可能性があります。
AI導入には学習期間も必要
AIを導入すれば、すぐに業務が完全自動化されるわけではありません。
不動産仲介・管理会社のNAI Hiffmanでは、AIが請求書を読み取り、該当する物件へ自動的に分類・仕訳するシステムを約2年間試験運用しました。
導入当初は、AIへ正しい処理方法を教え、間違いを修正する作業が多く、かえって手間が増えたように感じたとのことです。しかし、AIが学習するにつれて修正回数が減り、現在では人員を増やさずに管理物件と顧客を増やせるようになりました。
この事例から分かるのは、AI導入には、業務手順の整理、正しいデータの入力、出力内容の確認、継続的な改善が必要だということです。
入居者情報をサービス向上に活用
AIは単なる事務作業の削減だけでなく、入居者サービスにも利用され始めています。
ニューヨークの不動産会社Charney Cos.では、入居者のペットの名前、ジムの利用状況、結婚などのライフイベントを入居者情報へ反映し、それぞれに合わせた対応を行っています。
これまで担当者の記憶や個別の会話にとどまっていた情報をAIで整理し、入居者との関係づくりや更新率の向上に役立てようとしています。
一方、単に人員を削減するためだけにAIを使うと、対応の質が低下し、入居者の退去が増える可能性があります。退去率が上がれば、空室損失、募集費用、原状回復費用が増え、AIによる人件費削減効果を上回ることも考えられます。
AIによってプロパティマネージャーがすべて不要になるわけではない。
定型的なメール、書類作成、請求書入力、家賃督促、情報整理などは、今後さらにAIへ移行するでしょう。一方、クレーム対応、修繕の優先順位、入居者との信頼関係、家賃改定、退去防止、緊急時の判断などには、人の経験と対応力が引き続き必要です。
重要なのは「AIを使って人を減らすこと」だけではなく、「現在の人員で、より多くの物件を管理し、入居者サービスを改善すること」です。
不動産管理会社やオーナーがAIを導入する際は、次の点を確認する必要があります。
・どの業務を自動化するのか
・導入費用と人件費削減効果
・既存の会計・管理システムとの連携
・AIの回答を誰が確認するのか
・入居者情報の管理とプライバシー
・入居率、更新率、対応時間が改善したか
・人にしかできない業務へ時間を振り向けられたか
これから差がつくのは、AIを導入した会社と導入していない会社だけではありません。AIに適切な情報と業務手順を与え、出力を評価し、改善できる会社と、単にシステムを導入しただけの会社との差が大きくなると思います。
AIはプロパティマネージャーを完全に置き換えるものではなく、管理業務そのものを再設計する技術になり始めています。
