アメリカで、AIデータセンターの建設を目的とした大規模な土地取得が進んでいます。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ペンシルベニア州北東部のセーラム・タウンシップにある約89エーカー(約36万㎡)の農場が、2,200万ドル以上で売却されました。1ドル164円で換算すると、約36億円です。

■ 借金に苦しんでいた養豚場

この農場を所有していたのは、デービッド・キリティさんとマリリー・キリティさん夫妻です。

土地は約80年間にわたって家族が所有し、夫妻は豚を飼育して生計を立てていました。しかし、農場経営は決して順調ではなく、長年借金にも苦しんでいたと報じられています。

そのため、土地開発業者から「この農場には2,000万ドル以上の価値がある」と伝えられたとき、夫妻は信じられなかったそうです。

農地の下に石油や天然ガスがあるわけではありません。それでも土地が高く評価された理由は、AIデータセンターの建設に適した場所だったからです。

■ 96世帯が約961億円で土地を売却

今回の取引は、この夫妻の農場だけではありません。

ペンシルベニア州北東部のセーラム・タウンシップでは、合計96世帯が所有していた約1,700エーカー(約688万㎡)の土地を、データセンター開発会社QTSに売却しました。

土地の取得総額は約5億8,600万ドル。1ドル164円で換算すると、約961億円になります。

1世帯当たりの平均売却額は約550万ドルで、円換算では約9億円です。また、1エーカー当たりの平均価格は約33万ドル、円換算で約5,400万円と報じられています。

買主のQTSは、世界最大級の投資会社Blackstone傘下のデータセンター事業者です。つまり、今回の取引は一部の投機的な土地売買ではなく、大手投資会社による本格的なAIインフラ投資といえます。

■ なぜ、この農村の土地が選ばれたのか

データセンターは、一般的な倉庫や工場とは異なり、24時間大量の電力を使用します。特に生成AI向けのデータセンターでは、高性能半導体を大量に稼働させるため、非常に大きな電力が必要です。

セーラム・タウンシップの周辺には、大容量の送電線とサスケハナ原子力発電所があります。

このような電力インフラに近いことが、農地の価値を大きく押し上げたと考えられます。

データセンター用地として重要になる主な条件は、次のとおりです。

1.大量の電力を安定して確保できること
2.大容量の送電線や変電設備に近いこと
3.通信回線を整備しやすいこと
4.まとまった広い土地があること
5.冷却用の水や設備を確保できること
6.洪水や地震などの災害リスクが比較的低いこと
7.自治体から開発許可を得られること

つまり、すべての農地が高額で売却できるわけではありません。「広い土地」と「電力インフラ」がそろっていることが特に重要です。

■ 地域住民の反対も

土地所有者にとっては大きな利益になりますが、データセンター開発には課題もあります。

大量の電力や水の消費、建設工事による騒音、景観の変化、完成後の雇用人数が工場ほど多くないことなどを理由に、データセンター建設に反対する住民もいます。

一方、自治体側には、固定資産税収の増加や建設期間中の雇用創出などが期待されます。

土地所有者、開発会社、自治体、地域住民の利害をどのように調整するかが、今後の大きな課題になります。

■ アメリカ不動産を見る新しい視点

これまで土地の価値は、人口増加、交通アクセス、住宅需要、商業施設への近さなどで判断されるのが一般的でした。

しかし、AI時代には「どれだけ電力を確保できるか」が、土地価格を決める重要な要素になり始めています。

今回のニュースは、AIブームがIT企業や半導体企業だけでなく、農地や工業用地など、アメリカの不動産市場にも大きな変化をもたらしていることを示しています。

今後は、都市の中心部だけでなく、発電所や送電線に近い地方の土地にも、世界の投資資金が集まる可能性があります。