現在、アメリカの不動産業界で「新たな開発ターゲット」として大きなニュースになっているのが、閉鎖された「小規模大学のキャンパス跡地」です。
少子化や入学者減少により、アメリカ全米で大学の閉鎖が相次いでいます。 不動産メディア『Bisnow』の最新レポートから、そのリアルな実態と具体的なデータ(数値)を解説します。
■ 数字で見る:全米で加速する「大学の閉鎖」
アメリカの高等教育機関は、今まさに大きな転換期を迎えています。レポートでは以下のような具体的なデータが示されています。
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約300校: 2008年〜2023年の間に閉鎖された大学・カレッジの数。
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さらに400校以上: 今後10年間で閉鎖が予測されている私立・非営利の4年制大学の数(その大半が小規模で地方に位置しています)。
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32校: 過去10年間にニューイングランド地域(地方)だけで閉鎖された大学の数。
直近でも、マサチューセッツ州西部のハンプシャー・カレッジやアンナ・マリア・カレッジが閉鎖を発表し、これにより約1,900人の学生が影響を受けています。
原因は、高校の卒業生数が急減する「登録者の崖(Enrollment Cliff)」です。特に北東部(5%減)や中西部(3.1%減)で子供の数が減っている一方、南部(8.3%増)や西部(4.3%増)では増えており、地域によって二極化が進んでいます。
■ 残された広大な不動産はどうなる?
大学が閉鎖されると、数千エーカーにおよぶ土地と、住宅(学生寮)・校舎・教員用建物が残されます。これらは主に3つの方法で再利用(アダプティブ・リユース)されています。
1. 資金力のある大企業・大大学による買収(拡大)
資金力のある大手大学が、これらを利用して他都市への進出を進めています。
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バンダービルト大学(テネシー州): サンフランシスコのカリフォルニア芸術大学(CCA)を取得し、約1,000人の学生を収容する計画。
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ノースイースタン大学(ボストン): ニューヨークのメアリーマウント・マンハッタン・カレッジを取得し、ニューヨークへ進出。
2. 自治体による買い取りと再配分
ニューヨーク州アルバニーでは、2024年に閉鎖されたセイント・ローズ大学のキャンパスを郡が取得。アートセンターを地元のコミュニティカレッジに売却し、現在は約50物件の住宅資産を売却しようとしています。
3. 住宅(アパート)への転換による「住宅危機」の解消
地元のデベロッパーと組み、余剰となったキャンパスをアパートへ転換する動きもあります。
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マサチューセッツ大学ローウェル校: 8億ドル(約500戸以上の住宅を含む)の複合開発計画を発表。
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セーラム州立大学: 大手デベロッパーのAvalonBay Communitiesと組み、キャンパスの一部を340戸の高級アパートに転換する承認を獲得。
■ 放置され、荒廃するキャンパスも…(不動産の課題)
一方で、すべての大学跡地がスムーズに再開発されるわけではありません。ここにも明確な課題があります。
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地方・郊外の立地リスク: 人口の少ないエリアにあるキャンパスは、デベロッパーが引き受けたがりません。マサチューセッツ州の旧アトランティック・ユニオン・カレッジ(2018年閉鎖)は、130エーカーのうち15棟の建物が今も板張りで閉鎖されたままです。バージニア州の旧バージニア・インターモント・カレッジは、約12年間も放置され、建物の劣化や不法侵入(落書き等)に悩まされています。
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地元自治体の反対(政治的リスク): ボストン郊外のクインシーでは、開発業者が複合開発のために大学跡地を買い取ろうとしましたが、高密度開発を嫌った市が約2,100万ドル(約21Mドル)で27エーカーのキャンパスを丸ごと買い取り、開発をブロックしました。
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維持補修の遅れ(コスト): ペンシルベニア州立大学が今後いくつかのキャンパスを閉鎖する背景には、運営維持に年間4000万ドル、さらに施設投資に2億ドルが必要になるという、莫大な維持費の負担がありました。
■ まとめ
アメリカの「大学閉鎖」というニュースは、一見ネガティブですが、不動産市場においては「数万〜数十万平方フィートの一等地や住宅インフラが市場に出てくるチャンス」でもあります。
しかし、記事にある通り、南部や西部の人口増加エリアか、あるいは北東部などの人口減少エリアかという「立地(ロケーション)」、そして「自治体の規制や維持コスト」を見誤ると、10年以上も放置される不良債権になりかねません。
