まっしろい昼の中、裸足で防波堤の上に仁王立ちになったあたしは、腰に両手を当てて止め処なく泣いている。
そうやって泣きながら、何だか笑い出したいような、少しだけ誇らしい気分にもなっていた。
しばらくそうやっていたけれど、足の裏のコンクリ-トの熱さに我慢がならなくなったあたしは、思い切って2メ-トルほど下の砂浜に飛び降りてみた。
「うわっちゃ!」
あたしはのけぞって、サングラスを振り落としてしまった。
考えてみればわかりそうなものだったけれど、砂浜の砂は、そりゃあもう熱かったのだ。
「あう、あう、あう!」
奇妙な掛け声を出しながら、あたしは砂浜の上を不恰好に走った。
なんだか、砂漠にこんな生き物が居たっけ。砂の熱さに、両足を交互に上げるヤツ。
どこに進むとか何も考えてなくて、あたしはただただ砂の熱さに下ろした足を上げて、バランスを崩して下ろして、また上げて、なんてのを繰り返しながら、夏の砂浜で一人きり、不思議な踊りを踊ってしまった。
どうにかこうにか防波堤の際に出来た僅かな影に逃げ込んだ私はまだパニックになっていたらしく、バッグの中からUVカット化粧水なんてのを取り出して、自分の足の裏にせっせとかけていた。
「ひ、酷い目にあったわ」
人心地がついて改めて海に目をやると、さっきより近くなったぶん思いっきりキラキラとしてキレイだった。
真っ白い砂が太陽を跳ね返して、海よりも遥かにまぶしい。
少し離れたところに、あたしが落としたサングラスがある。
男物で少し大きなサングラス。
アイツに殴られて腫れた目を隠すのに都合が良かった。泣いて腫れたときにも。
ちいさな溜息をついて空を見上げると、「うっわ!」とあたしはまた心底びっくりしてしまった。
見たことの無い女の子の顔の上半分が、防波堤の上から、あたしを見下ろしていたのだ。
ドキドキしながら目もそらせずに、あたしはその顔とみつめあった。
しばらくそうやったあと、すっとその頭が引っ込んで、彼女は軽やかに防波堤の下に飛び降りてきた。
健康的に焼けた肌、タンクトップにホットパンツという出で立ちのその女の子は、生意気そうな目であたしを見据えた。
あたしがどう声をかけたものか悩んでいると、彼女は腰に手を当ててあたしに言った。
「ねえアンタ、さっきのって、都会の踊りなの?」
こ、これもまた答えにくい問いだこと。にあたしがどぎまぎしていると、また先にその子が言う。
「アンタ、都会から来たんでしょ。そんなオシャレしてる人、この辺には居ないもの」
あたしは、かろうじてうなづいた。
「で、なにしにきたの」
・・・・・。
思わず、うつむいてしまった。
あたし、何しに来たんだっけ。
はじめはもちろん、あたしの恋路を邪魔したおじいちゃんのお墓を探し出して、とっとと供養してあげて、成仏してもらおうと思っていた。
でも、その件(あたしの恋路、という件)に関しては、さきほど、一応の解決をしてしまったのだ。
・・・でも、それでも、やっぱり、あの不思議なおじいちゃんのお墓には行きたい。
行って、とりあえず、お花やロウソクの一本でも。もう、他人じゃないしね。
「あ、あの、あたし人を探してるの」
「ふうん、なんてひと」
「ええと、確か、富士川五郎佐衛門さん」
「ああ」
女の子は、ふっと横を向いて、髪をかきあげた。
「もう死んでる人よ。その上、あたしの祖父」
「あ、じゃあ貴女が紗江子さん?」
あたしは、思わず声を上ずらせて言った。
病院のベッドの上で、聞きたくも無かったおじいちゃんの昔話につき合わされた。
その時、生まれたばかりだった孫の紗江子さんの事がとにかく気になっていたらしい。
おじいちゃん側に居るよね、あたしの守護霊だもの。
よかったね、あなたの孫はこんなに元気で生意気に、自分の生を生きてます。
「よかった、あたし、おじいちゃん、いえ、五郎佐衛門さんにお世話になった事があって、」
「どうでもいいじゃん、死んだ人の事なんか。それよか、あんた都会から来たんでしょ。聞かせてよ、街の事」
あたしは面食らってしまった。
ああ、若いって事は残酷よね。おじいちゃん、気を落とさないといいけれど。
「あ、でも、あたしお墓参りがしたくって」
「じゃ、いっしょにいったげる。その後、話を聞かせてよね」
生来のオドオド気質のあたしは、すっかりこの子のペ-スに巻き込まれてしまった。
おずおずとうなづくと、その子はするりと防波堤の上によじ登っていった。
無論、あたしにそんな真似は出来ない。
あたしが途方にくれていると、どこからか木のはしごを探し出して下ろしてくれた。
あたしは礼を言って、ぎしぎしとはしごを昇った。
途中まで登った時に、紗江子さんが砂浜の方を指差した。
「ね、あのサングラスアンタのでしょ。拾わなくていいの?」
あたしは振り向いて、所在無げにころがっているサングラスを見た。
脇に、やどかりがのんびりと歩いている。
もう、あのサングラスの役目は終わった。やどかりの日よけにでもなってくれればいい。
「ううん、もういいの」あたしはそう言った。
紗江子さんは、さも呆れたようにあたしを見下ろした。
「・・・そうやって、街の連中は砂浜にゴミを捨てていくのね」
「あ、あ、ごめんなさい!」
そりゃあそうだ、あたしが悪い。
昇ったはしごを降りようと下を見た。
三匹のフナムシがあたしのスカ-トの上を這っていた。
あたしはおじいちゃんの所為ですっかりフナムシ恐怖症だったので、悲鳴をあげてはしごから飛び降りて、再び熱い砂の上でかなり激しい不思議な踊りを踊った。
「・・・ね、さっきも見たけどそれ流行ってんの?」
返す言葉もなく、あたしは踊りつづける。