SHOUIGEKI
1.1
「ヒロトか?。悪いな。こんな時間に。」
相変わらず淡々とした声でヒロトは言った。
「・・・で?なんなの?わざわざ仕事用の電話にかけてくるとは。」
「実は、今スタークエッジ社の株価をみてるんだよ。」
「はぁー。あそこの社長はとんだワンマンだよな。」
「確かに。」
「で、そのスタークエッジがどうしたって?」
「おまえがこの会社のセキュリティシステムの設計を担当したよな?」
「そうだが?」
「今、プログラミングをみてるとどうも、株価を操作したやつがいるようなんだよ。
ファイヤーウォールを突破してシステムに侵入して上書きしてるようなんだ。
そこで」
「俺に確認してほしいってのか?」ヒロトは面倒そうに言った。
「ああ。頼む。」
「了解。おまえのパソコンに遠隔操作で入るからシステムのパスワードを言ってくれ。
「q23WI4753だ。」
パソコンの画面が変わってプラグラムの侵入経路チェックに変わった。
「たぶん、こいつはスタークエッジの社員だ。内部のプロトコルを使って
侵入してる。」
「内部者か?株価は操作してるのか?」
「確実にそうとは言い切れないが、してる可能性はあるな。」
「了解。ありがとう。今度飯おごるよ。」
そういってエイジが電話を切ろうとした時だ。
「ちょっと待て!おまえの奥さんってユウコさんだよな?」
「ああ。それがどうした?」
「ユウコさんって仕事なにやってんだ?」
「何って、普通にスーパーでパートで働いてるよ。」
「それが、データベースで、ファイアーウォールから侵入した社員から
多額の金が送金されてるんだ。」
「それが?」
「送金先はおまえの奥さんの口座だぞ」
エイジは事態が呑み込めなかったがヒロトの話を聞いた。
「ゆうこの口座!?どういうことだ?」
「どうもこうも。スタークエッジの社員がおそらく株価を操作して
そこで得た利益をおまえの奥さんに送金してるってことだよ。」
信じ難かった。何かの間違いであると思いたかった。
「そんなはずがない。何かの手違いだ。」
電話を切ると、ユウコに電話をした。
ケータイがプルルと鳴り響く。
気になってはいたが、どうもおかしい。
ケータイの応答はなかったが、玄関が開く音がした。
「えいじー!帰ってるの?」
1階の玄関からユウコが言った。
エイジはいつもと変わらない素振りで言った。
「おーう。帰ったよ。ってかおまえ待ってるっていったのにどこいってだんだよ」
「ごめんごめん。ちょっと夜風に当たりたくてね。いっつもエイジすぐ帰るって
いっても遅くなるから大丈夫かなと思って。」
「そっか。」
エイジは口座の件を口に出そうか迷った。
知っているならむこうから話してくるはずだ。
「ほらこっちきて。」
ダイニングにいくとバースデーケーキとごちそうが用意されていた。
にくい演出で引出しに隠していてくれたのだ。
「29歳おめでとう。エイジ。」
エイジにそういってユウコは笑いかけた。
自分が29歳になる日だっていうことすら忘れていたのに
こんな風に待っていてくれてるとは思いもよらなかった。
去年は、残業で家に帰れなくてユウコが拗ねてしまったのだ。
「まじありがとう。ほんとうれしいよ。」
手放しでは喜べなかったが、何かの手違いに決まっていると
たかをくくった。
「ほら。食べて食べて。冷めちゃうよ!」
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午前2時
「例の件ですが、完了しました。」
精悍な顔立ちで、知的さを漂わせるシャープなメガネを掛けた
男が、貫禄を漂わせる50代後半の男に言った。
「嗅ぎ回られてないだろうな?」
「大丈夫です。セキュリティの担当にも話はまわしておきました。」
「なるほど。よくやった。赤ワインを飲みたい気分だな。」
そういって50代後半の男は椅子へどっかと座った。
笑みをうかべ、自信の塊のような眼差しで言った。
「吉田君。今回の件は、わが社にとっても大きなプロジェクトだ。
君が有能なのはわかっている。しかし、用心に用心を重ねるに
こしたことはない。」
ワインを飲みながら男は言った。髪の毛はきれいな白髪でオールバック
である。少し後退した生え際が逆に大物さを感じさせる。
男はパソコンを机に放り投げて言った。
「これはなんだ?」
それは、エイジがシステムに侵入した形跡をチェックしたログだった。
「吉田君。あんな若造に株価操作がばれているようじゃ今回の仕事は
つとまらんぞ。」
そう言って、笑顔だった男はワイングラスを置いて言った。
「今すぐ、わが社が関与した形跡を消し、鷹宮 瑛児の口を封じてこい。」
「・・・大変失礼しました。私のミスで発覚してしまって。しかし、
あいにく鷹宮を始末すれば、必ず検察庁は我々を疑います。」
男はさっきの余裕を感じさせる笑みをうっすら浮かべながら言った。
「そんなことは重々承知だ。しかし、やらなければならん仕事だ。
どんな手を使ってでもいいから鷹宮を消せ。」
「分かりました。」
続く