19時02分
ホテルのラウンジには大勢の人間がいた。
たしかに、その中でたった一人で座っている男を見つけることは、それほど困難なことではなかったかもしれない。
しかし、それでも約束の時間ちょうどに声を掛けてきた女の子(おそらく小学4年生ぐらい)には、全く躊躇というものを感じさせなかった。
むしろカオル自身の方が、声を掛けられてドギマギしていたぐらいであった。
「座ってもいい?」
その女の子は、そんなカオルにお構いなしで、返事も待たずカオルの向かい側の椅子にちょこんと座りだした。
そして、近くを通った若いウエイターを呼び止め、クリームソーダを注文した。
見覚えのない女の子が来たことで、一体何から話し出せばいいのか迷っている時、それを見透かしたかのように少女は話し出した。
「カオルくん、びっくりしてるでしょ?まさかこんな子供がこんな場所に一人で来るなんて。」
自分のことを“くん”付けで呼ばれたことにも驚いたが、確かにその通りだったので、無言でうなずいた。
「うふふ。そういう素直なところが良かったのかもしれない。お姉ちゃんは。」
お姉ちゃん?まさか、例の女性の妹なのか?それとも誰か知り合いの・・・?
想像を駆け巡らせているカオルの眉間を見つめながら、その少女は続けた。
「えっと、今のお姉ちゃんっていうのは、ほんとの姉妹って意味じゃないよ。あたしと仲のいいお姉ちゃんって意味だから。」
まるで、読心術でもされているかのようで、冷房の効いた店内にも関わらず、一人汗が吹き出てきていた。
「それと、探してる女の人がいるんでしょ?その人とあたしは関係ないから。あたしは・・・」
と言いかけた時に、カオルの胸ポケットから携帯電話が鳴り出した。
あまりにもタイミングが悪い為、そのコールを無視しようと思ったが、少女の眼差しが、携帯に出なくちゃ駄目だと言っているように見え、渋々2つ折り携帯を開き、待ち受け画面を確認した。
登録をしていない、知らない電話番号であった。