22時02分
屋上のへりから目を凝らして下をずっと見ていたが、真っ黒な空間に吸い込まれてしまった彼女を探し出すことは出来なかった。
もう既に間に合わないとは分かっていたが、急いでその場をあとにして非常階段を駆け降りた。
だが激しく動揺していたせいか、自分の今置かれている状況を忘れてしまっていた。
もうすぐ出口が見えてきたと思った瞬間、横からもの凄い勢いで飛び出してきた人間がいた。
ビルの警備員に取り押えられたカオルは、彼女の死体を見つけることはおろか、警察を呼ばれ不法侵入の罪でそのままパトカーで連行されてしまったのだった。
22時44分
ドラマや映画でよく見かけるような取調室に座らされたカオルは緊張していた。
酔って暴れたり、反抗的な態度を取らないカオルを見て、警察官はタバコを吸っていいと言うと同時に灰皿を差し出した。
ポケットから出したマルボロに火を着け、深く、ゆっくりと吸い込んだ。
警察官の質問に対して、出来る限り簡潔明瞭に応えていたのだが、あまり納得はしていないようだった。
ビルに侵入した動機として、友人に呼び出されたということはともかく、その友人が飛び降りたという件である。
警察官いわく、ビルの周辺でそういった怪我人や、ましてや死体など発見していないというのだ。
たしかに、どの辺りに落ちたのか、どういう状態に彼女がその後なっていたか見えていない。
だが、全くの無事で居られるわけはない。
警察官もそのまま調書をあげるわけにはいかず、友人は先に帰ってしまったとし、実際、不法侵入はあっても、何も損害や盗難の被害が出ていないということでカタを付けようとした。
そして、身元引受人として誰か迎えに来させれば、帰してくれるということになった。
23時52分
カオルはまだ警察署にいた。
身元引受人として呼べる人間がいなかった。
思えばカオルは一人きりだった。
両親は既に他界しており、元妻の居場所を捜そうとしているぐらいである。
思いつくのは、やはり元取引先の友人ぐらいだった。
しかし、電話はコールし続けるだけで、留守電にも切り替わらなかった。
あきらめたカオルは、登録してある電話帳を次々に見ていった時、ふと気付いたことがあった。