十五夜クライシス 第2話











A-15地区 廃ビル地帯


海の方角から2機の飛行ビーグルが近づいてくる。


ブルーファルコン、ホワイトキャット


その2機は到着すると、ゆっくり着陸させた。


エンジンを切り、ハヤトがブルーファルコンからタバコを咥えながらゆっくりと降りてきた。


ハヤト「ふぅ〜。」


スパ〜


隣に停めたホワイトキャットからトモも降りてきた。


ポイッ


ハヤトはタバコを地面に捨てた。


トモ「行こうか。」


2人は目の前の廃ビル地帯へ向かう。


かつては栄えていたのであろう高層ビルが並んだ廃墟。


その高層ビル一つ一つが錆びて朽ち果てており、コンクリートに草が生い茂っている状態で放置されている。


長年の間、人の手が加えられていない。


なぜならもう地上にはゼノン軍のスタッフのような一部を除いて、普通の人間はいないのだ。






100年前にミュータントが現れ、その後ゼノン軍が設立された。


そして人類は地下に巨大なシェルターを作った。


そこはゼノン軍のコアに適合しなかった人間、すなわち戦う術を持たない人間の居住区だ。


戦えない人間は危険な地上を離れ、地下シェルターで暮らすこととなった。


地下で産まれた赤子でコアへの適合能力を持つ者はヴェインへ送られ、ゼノン軍として育てられる。


人類は地下で生き延び、その間にゼノン軍がミュータントから地上を奪還する計画。


この計画を『ゼノン計画』と呼んだ。






ハヤト「相変わらず廃れてんなあ。」


廃ビルを見渡す。


トモ「うん。静けさが逆に不気味だね。」


廃ビルに当たる風の音以外は何も聞こえない。


辺りに警戒しながら行方不明者を探す。


トモ「ビーコン反応がこの辺で途絶えてるってフランが言ってたけど、私たち以外に捜索してる人が見当たらないね。」


ハヤト「妙だな。」


ゆっくりと歩く2人の周囲のビル。


崩れて文字が読めない看板。


それらの横を進んでいく。


しばらく歩いたのち、トモの足が止まる。


トモ「ハヤト。」


トモに呼ばれた理由をハヤトは理解していた。


ハヤト「ふん。囲まれてるな。」


2人を囲むように建つ廃ビルの窓。


そこには多数の赤い光があった。


いや、赤く光る目がこちらを見ていた。


その目を持つ者たちがビルから飛び降りてきた。


ミュータントだ。


ジャキッ!


トモは槍のような武器を構えた。


ハヤト「来やがったか....。」


ミュ『ガアアア!!』


ミュータント達は奇声を上げ、一斉に2人に飛びかかった。


ハヤトは担いでいた武器を構えた。


禍々しい見た目の大剣だ。


ハヤト「数だけの雑兵どもが。」


ハヤトは武器を軽く薙ぎ払った。


ミュ『ギョオオオオウ!』


ミュータントは悲鳴をあげながら倒れる。


トモ「ハア!!」


トモは真正面からミュータントに突進し、槍でその体を貫いた。


他のミュータント達がトモを囲うように襲いかかる。


ザッ!


トモは槍を地面に刺し、槍を軸に遠心力を利用して身体を回転させる。


そしてミュータント達に強烈な蹴りを負わせた。


ミュ『ギャウ!』


怯んだミュータントは再びトモに襲いかかる。


ハヤト「させねえよ。」


ハヤトは頭上へ飛び上がり、力任せに大剣を振り下ろした。


ガガガガッ!!


その刃を残りのミュータントに次々とくらわせ、身体を削り切った。


ミュ『ギイイイイア!!』


ミュータントの断末魔が辺りに響く。


ミュータント達は力無く倒れ、動かなくなった。


ハヤト「終わりか。」


ハヤトは血液が大量に付着した武器を見ながら、タバコに火をつけた。


トモ「かなりの数が廃ビルに潜んでいたみたいだね。行方不明の件と何か関係あるのかな。」


ハヤト「さあな。」


スパー


ハヤトは味わうようにタバコを吸う。


レジスタンスキャンプにいるゼノン隊員達はどこを捜索しているのだろう。


だが、とりあえずはこの廃ビル地帯を くまなく探すしかなさそうだ。




その時だった。


ハヤトの頭上


廃ビルの屋上からハヤトに向かって1体のミュータントが飛び降りて来ていた。


タバコを満喫しているハヤトは気づいていない。


トモ「ハヤトッ!」


ハヤト「ん?」


ハヤトが頭上のミュータントを至近距離で認識したとき。




ドガーン!!


ミュ『ピギャッ!』


鈍い音と共にミュータントは廃ビルの壁に叩きつけられた。


何が起こったんだ。


ハヤトのそばに気配を感じる。 


そこには、ハヤト、トモの他にもう1人の男が立っていた。


あろうことか、その男は素手でミュータントを殴り飛ばした。


「タバコに気を取られるようじゃ、まだまだ青いのう。ハヤトよ。」


その男はハヤトに言い放った。


背中には年季が入った大剣を担いでいる。


数多の戦闘経験を積んでいるであろう、その初老の男はニヤリと笑う。




ハヤト「オッちゃん!」


その男の名はユキオ。


幼少の頃からハヤトを知っており、多くのゼノン隊員に慕われている歴戦の戦士だ。


当然トモやリョウとも面識がある。


トモ「お久しぶりです、ユキオさん。」


ここ数ヶ月間、ユキオはレジスタンスキャンプに滞在していた。


やけんハヤト達とは久々の再会だ。


ユキオ「うむ。精が出るのう。」


そう言うとユキオは自分が殴り飛ばしたミュータントの方に歩き出した。


そしてミュータントの首をワシ掴みにして持ち上げた。


ミュ『ギャウ!』


ミュータントは必死に抵抗するが、抜け出せない。


ユキオ「最近はミュータントの連中も知恵をつけてきたと聞く。仲間と連携したり奇襲を仕掛けて来たりするようじゃ。」


ギギギ...!


ユキオは掴む力をさらに強くする。


ユキオ「じゃが、貴様ひとり程度武器を使うまでもない。ワシの握力で充分じゃ!!」


ビキビキ...!


ブチャッ!!


ユキオはミュータントの首を握り潰した。


頭と胴体が分かれたミュータントは倒れて痙攣(けいれん)していたが、しばらくすると止まった。


ハヤト「ふっ。相変わらずゴリ押しだな。」


ハヤトとトモは半笑いだ。


ユキオ「ワシの真骨頂じゃ。」


3人の周りにはミュータントの死体が大量に転がっている。


それらを見ながらユキオは話を切り替える。


ユキオ「お主らも行方不明者を探しておるのじゃろ?ここを探しても見つからんぞ。」


ハヤト「どういうことだ?」


トモとハヤトは顔を合わせる。


ユキオ「行方不明が発覚してからすぐにここの捜索は行われた。じゃが、1人も見つからんかった。」


どうやら今は捜索範囲を広げているようだ。


ユキオ「お主たちがここの捜索に向かったとフランに無線で聞いての。ワシは迎えに来たのじゃ。」


ハヤト「そうか。これからどうするんだ?」


ユキオ「レジスタンスキャンプへ行くぞ。ひとまず、そこを拠点として捜索活動を行う。」


キャンプに居るモブキャラたちも捜索をしている。


ひとまず合流だ。


すると、無線が入った。


フラン『レジスタンスキャンプの位置情報を飛行ビーグルに送ります。』


トモ「ありがとう。それじゃ行こうか。」


レジスタンスキャンプへ向かうべく、3人は飛行ビーグルの元へ歩く。


ハヤトはタバコに火をつけるため、立ち止まる。


シュボッ


そして前を行くユキオとトモに追いつこうと再び歩き出したとき、ふと違和感を感じた。


ハヤトの視界の足元。


ハヤト「なんだ...これ?」


足元にある空間が何やら不自然だ。


サイズにすると数センチか、わずかだが空間に亀裂が入っているように見える。


ハヤトはそれを凝視する。


すると


ハヤト「うぐっ....!」


突然頭の中に記憶のような映像が流れこんできた。





夕焼け空...そこに浮かぶ正体不明の存在。


その存在は神々しく輝いている。


パニックに陥る人々。


それを嘲笑うかのようにその存在は邪悪な笑みを浮かべた。


...そこで映像は途切れた。





トモ「ハヤト?」


ハヤト「はっ...!」


気がつくと、トモが不思議そうにこちらを見ていた。


ハヤト(なんだ今のは...。妙な景色が頭の中にいきなり流れてきやがった....。)


トモ「どうしたの?なんか顔色良くないけど。」


口にくわえていたはずのタバコも地面に落ちている。


ハヤト「なんでもねえ。さっさと行くぞ。」


急な出来事に頭の整理が追いつかない。


疲れてるのかもしれない。そう思うことにした。


ユキオ「体調でも悪いのか?」


ハヤト「いや、問題ない。」


そこで会話は途切れ、静かな雰囲気の中3人は歩いていく。


その頭上....廃ビルの屋上から3人を見つめる視線があった。


いや、正確に言えばその視線はハヤトに向けられていた。


その視線の持ち主...それはまだ10歳にも満たないであろう少女が屋上に立っていた。


髪は金髪で服装は小綺麗な格好をした小柄な少女は、何やら不思議な雰囲気を漂わせている。


その少女は静かにハヤトを見つめている。


少女「高い感応能力....これで2人目。彼も私が求めている存在の1人だということ...。」


謎の少女はそう呟き、どこかへ姿を消したのだった。






十五夜クライシス 第2話 完