第4話













サカキ「おや、このアタッシュケースは...」


サカキは研究室の前におかれたアタッシュケースを怪訝な顔で見ていた。


サカキ「これは、昨日犬飼に取られたコアじゃないか!なぜこんなところに?」


そこへイルダが通りかかった。


サカキ「あ、イルダ君。昨日犬飼に取られたコアが返ってきてるんだけど、何か知らないかい?」


それを見たイルダも怪訝な顔をした。


イルダ「いえ、何も。」


サカキ「そうか。しかし一体誰がここに置いたんだろうねえ。」


サカキはしばらく首をかしげた。




一方ラウンジでは各自朝食を食べていた。


スズ「さて、今日も一日頑張らないとね!」


ロミオ「うう〜眠いぜ...」


ナナ「ロミオ先輩顔洗いなよ〜。」


ギル「ったく、シャキッとしろ。」


シエル「睡眠不足は身体に毒ですよ。」


ブラッドはいつも通りのやり取りをしながら食事をしていた。


そこへエミールがやってきた。


エミール「御機嫌ようブラッド諸君。今日は実に清々しい朝だね。」


スズ「あ、おはよエミール。」


エミール「そんな清々しい朝にふさわしい特上のダージリンティーが届いたんだが、ブラッドの諸君どうかな?」


シエル「そういえば今朝はサバタさんまだ見かけないですね。」


スズ「そうだね、まあそのうちくるでしょ。」


そう話していたらサバタがラウンジにやってきた。


スズ「あ、おはよう。今日も任務よろしくね。」


サバタ「...ああ。」


相変わらずの反応だ。


ロミオ「ちぇっ朝からツンツンしてんの。」


サバタは離れた席に座り、無言でパンを雑にかじる。


ナナ「ねえ、何かあったみたいだよ!」


ナナはテレビの方を指差す。


テレビにはニュース番組が写っていた。


『速報です。
フェンリル本部所属の科学者、犬飼氏が極東地方で行方不明となっていることが分かりました。』


ギル「ん?昨日のあいつじゃねぇか。」


『今朝捜索隊を極東へ向かわせたところ、犬飼氏と思われる男性の体の一部が見つかっており、犬飼氏はアラガミに襲われ、捕食されたものと思われます。繰り返します...」


ロミオ「うわ、マジかよ。てかじゃあ俺らから奪い取ったコアはどうなったんだ?」


ナナ「それも食べられちゃったのかなあ...」


そこへサカキがやってきた。


サカキ「そのことなんだけどね、なぜか今朝研究室の前にコアが入ったアタッシュケースが置かれていたんだよ。中を調べたら間違いなく昨日我々が奪われた物だったよ。」


スズ「え、一体なぜ?」


サカキ「う〜ん、なんともいえないね。誰が届けたのか全く見当付かないよ。」


サバタ「...。」


サバタはやり取りを遠くから静観する。


ナナ「へぇ〜不思議なこともあるもんだねぇ。でも返ってきたならいいじゃない!」


ロミオ「ま、そうだな!さて、そろそろ任務の時間だぜ!」


スズ「う、うん。よし、みんな15分後にヘリポート前に集合ね!」


サカキ「ふふっやはりブラッドは頼もしいね。」


朝食を終え、ブラッドは任務へ向かった。


ヘリの中でもいつも通りのやり取りが続き、現地へ到着した。


ヘリから降り、スズはサバタの方へ顔を向ける。


するとサバタの顔色が少し悪いことに気づいた。


スズ「サバタ、顔色が悪いみたいだけど大丈夫?」


サバタ「...気のせいだ。問題ねえ。」


スズ「ならいいけど。何かあったらすぐ言ってね?」


サバタ「ふん。さっさと終わらせて帰るぞ。」


フラン『複数の敵が近くにいます。ご武運を。』


すると敵の群れが前後から出てきた。


ヴァジュラとサリエルを始め、複数の中型アラガミもいるようだ。


ロミオ「お、おい囲まれてねえか?」


サバタ「ふん雑魚が何匹いようと同じだ。」


そう言うとサバタは真っ先にヴァジュラの群れに突っ込んだ。


ギル「また一人で行きやがって!」


スズ「みんなは後方のアラガミ達をお願い!私はサバタを援護するから!」


「「了解!!」」


サバタはヴァジュラの顔めがけて鋭い刀身を突き立てる。


ヴァジュラ『ギャゥ!』


ヴァジュラは一瞬怯むが、すぐに立て直し、サバタに電撃攻撃を放つ。


サバタはそれを飛び上がってかわした。


するとすぐ後ろからサリエルがオラクルの毒攻撃を浴びせる。


サバタ「ふん、うっとうしい!」


サバタはヴァジュラの方を向いたままサリエルを斬りつける。


サリエル『グゥゥ!』


フラン『サリエル、結合崩壊!』


すると後ろから複数の中型種がサバタに攻撃を仕掛ける。


スズ「てや!」


そこへスズが加勢しに入る。


スズの攻撃で中型種たちは怯む。


サバタ「...ちっ。お前か。」


スズ「何度も言うけど一人で突っ走らないで。」


サバタ「俺はお前らと共闘する気はない。好きにさせてもらう。」


サバタはそう言うと再びヴァジュラの方へ攻撃を仕掛ける。


スズ「ったくもう!」


スズは中型種の群れを引きつける。


コンゴウとシユウが突進を仕掛け、ウンコバサラが電撃を放つ。


スズ「甘い!」


スズは突進を交わしつつ、ウコンバサラの懐に入り、神機を思い切り叩きつける。


『ガウウウ!!』


ウコンバサラはたまらずうめき声を上げる。


スズ「とどめだよ!」


ズドン!


スズの一撃でウコンバサラは完全に息絶えた。


一方サバタもヴァジュラとサリエルを圧倒していた。


サバタ「さっさと消えやがれ。」


素早い動きで間合いを詰め、刀身を放つ。


『ギャゥゥ!』


フラン『アラガミ、沈黙しました。』


作戦エリアにはアラガミの死体が残った。


ナナ「こっちも終わったよー!」


スズの元へ他の隊員たちが駆け寄る。


ロミオ「さっさとコア回収して戻ろうぜ。」


スズ「うん、また今夜の任務のためにしっかり体休めといてね!」


スズはサバタの方へ目をやった。


やはり顔色が悪いことが気になるようだ。


サバタもスズの視線に気づく。


サバタ「少し眠いだけだ。気にするな。」


そう言うと足早にヘリへ乗り込む。


スズは心配しながらもこれ以上は何も聞かなかった。


ヘリが極東に着き、各自ラウンジへ向かった。


しかしサバタはラウンジへは行かず、自分の部屋に向かった。


すると廊下でイルダと出くわした。


イルダ「あらお疲れ様。」


サバタ「あぁ。」


イルダはサバタの異変に気づく。


イルダ「サバタ...大量に汗をかいてるわよ。調子が悪いの?」


サバタ「心配ねぇ。いつものアレだ。」


イルダ「でも今日は今まで以上に調子悪そうよ?」


サバタ「薬投与すりゃすぐに落ち着く。俺は部屋に戻るぞ。」



そう言うとサバタは部屋に戻った。


イルダは心配そうな表情を浮かべる。


部屋に入り、サバタはタバコに火をつけた。


サバタ「...ふぅ。」


サバタはベッドに腰掛け、ぼんやりとタバコの火を見つめる。


サバタ「...確かに今まで以上に調子悪いな。」


そう呟いたそのとき、突如息苦しさがサバタを襲う。


サバタ「ぐっ!」


サバタは胸を抑える。


サバタ「ハァ...ハァ..!」


サバタはなるべく平常心を保とうとする。


30分ほどその状態が続き、ようやく息苦しさは止まった。


サバタ「ここまで激しいのは久々だぜ。」


とりあえずベッドに横になろうとしたそのとき


『久しぶりだね、サバタ。』


後ろから声が聞こえた。


サバタはとっさに振り返る。


そこには色の白い独特な雰囲気を漂わせる謎の少女の姿があった。


サバタ「お前は...確か...。」


少女はサバタに語りかける。


少女「そう、私は君の神機、〈呪刀〉に宿る意識体。」


サバタ「...何しに出てきやがった?」


少女に問いかける。


少女「違う、私の意思で出てきたわけじゃない。」


サバタ「どういうことだ?」


少女「分かっていると思うけど君の体、そして呪刀に宿る偏食因子が今暴走しかけている。」


サバタ「だろうな。初めてのことじゃねえしよ。」


少女「でも今回はいつもよりも暴走が激しい。神機が自我を失っている。中で暴れる偏食因子に意識体である私は追い出されてしまったの。」


サバタ「ふっそういうことか。」


少女「いつもなら中で私が抑えてるから大丈夫だけど、今はそれができない。だから任務へは行かない方が...」


サバタ「余計なお世話だ。俺の好きにさせてもらう。」


サバタはそう言うと、布団を被り、仮眠に入った。


その様子を少女は悲しそうな顔で見つめていた。






任務へ行くため、ブラッドは準備をしていた。


イルダ「隊長さん、少しいいかしら?」


スズがイルダに呼ばれる。


スズ「あ、はい。どうしました?」


スズはイルダの元へ向かう。


イルダ「実はね、サバタのことなんだけど。」


イルダ「あの子は昔から神機使いとしての力が強すぎてときどき偏食因子が暴走を起こすことがあるの。」


スズは驚いた表情を浮かべる。


イルダ「強すぎる力の代償ね。そして今偏食因子が暴走しかけていて、神機の制御が効きにくい状態にあるの。」


イルダは続ける。


イルダ「どうせあの子、あなたたちには言ってないだろうと思って。だからこの後の任務、サバタに気をつけてあげてね。」


スズは驚きつつも、気を引き締め直す。


スズ「分かりました!」


イルダはスズに微笑む。


そしてブラッドを乗せたヘリは出発した。


そして作戦エリア上空に到着し、ヘリから飛びおりる。


フラン『周囲に大型アラガミの反応!警戒を!』


辺りを見渡すと、多数のアラガミの影がある。


スズ「まずは小型アラガミを掃討するよ!」


「「了解!!」」


スズの指示でブラッドは小型アラガミに集中攻撃をしかける。


サバタ「俺はさっさとあいつを片付ける。」


サバタはそう言うと岩の上から見下ろすディアウスピターへ攻撃を仕掛けた。


『グォォォォ!』


ピター はサバタの攻撃を受け止め、刀翼を振りかざす。


サバタ「ぐっ!」


サバタを攻撃がかすめる。


スズ「サバタ!」


サバタ「(くそ、体が重いぜ。)」


スズは小型と中型種を他の隊員に任せ、サバタの援護に入る。


スズ「くらえ!」


ピターにバスターをくらわせる。


ピターは少し怯むが、体制を立て直す。


サバタ「何しに来やがった!こいつは俺一人で充分だ!」


スズ「何言ってるの!本調子じゃないことは分かってるんだよ!」


サバタ「ちっ!」


サバタは傷をぬぐい、神機を構える。


だがそのとき


『グルォォオオオ!!!』


スズ「!?」


サバタ「なんだ?」


フラン『さ、作戦エリアにて異常な偏食場を確認!
これは...マルドゥーク!!』


辺りを見回すと、夜の闇にたたずむマルドゥークの姿があった。


ロミオ「くっくそ!これじゃ他のアラガミもくるぞ!」


恐らく作戦エリア外からもアラガミが集まり初めている。


サバタ「だったらあいつを即殺すしかねえな」


そう言うとサバタは神機を構え、マルドゥークへ走り始めた。


スズ「サバタ!」


スズは一人走り出したサバタに一瞬気をとられる。


ナナ「隊長、後ろ!」


ナナの叫びにハッとするスズ。


すると後ろからピターが強力な大刀翼をスズに叩き付けようとしていた。


スズ「させない!!」


スズはとっさにカウンター攻撃に入る。


スズ「ハアー!!」





ラストリベンジャー



スズ「でやーー!」


スズの神機が眩い光を放ち、ピターは沈黙した。


ピターが死んだのを確認し、スズはサバタの方へ向き直った。


マルドゥークの火炎攻撃がサバタを襲う。


サバタ「邪魔だ!」


サバタは攻撃を剣で打ち返し、マルドゥークとの間合いを一気に詰める。


そして、神機を構えた。


サバタ「死にな。」






轟破ノ太刀・金



『グッグルォォオオオ!!』


激しい光と共にマルドゥークを激しく切り裂いた。



シエル「す、すごい。」


ギル「あんな大技、そうそう出せるもんじゃねえぞ...。」


ブラッド各員がサバタの方を見ると、サバタは地面にうずくまって腕を抑えていた。


ロミオ「お、おいどうしたんだ!?」


スズ「ま、まさか!」


サバタに駆け寄る。


サバタ「ハァ..ハア..」


そのとき、サバタのオラクル細胞が激しく動き出した。


サバタ「ぐっぐああああああ!!」


スズ「!!」


シエル「これは!?」


ナナ「何が起こっているの!?」


スズ「く...オラクル細胞が暴走し始めた!このままじゃ!」


シエル「そ、そんな!」


焦り出すブラッド各員


するとスズがサバタに近づいていく。


ガシッ


サバタ「お、お前..なにしてやがる!」


スズはサバタの暴走する腕に自分の腕を上から重ねた。


スズ「これで暴走の半分を私の体へ流す。」


サバタ「!?なに考えてる!」


スズは苦痛に耐えながら話す。


スズ「一人では抑えきれないオラクルの暴走も、2人でやれば抑え込めるはず!」


サバタ「!?」


スズ「だから今は協力して!」


サバタ「ちっ。好きにしやがれ!」


すると二人は細胞を抑え込みに入る。


スズ「ハアー!!!」


サバタ「ウオオオ!!」


暴走しようとする細胞とそれを抑え込ようとする二人の意思が戦う。


スズ「ハアーーー!!!!」


サバタ「ウオオオオオ!!!」


二人は死力を尽くし、自身の感応能力を限界まで上げる。


すると、暴走していた腕がおさまり始めた。


スズ「ぐっ...これで..なんとか..」


サバタ「..なりそうだ。」


死力を尽くしたおかげで腕はなんとかおさまったようだ。


バタッ


二人は地面に倒れこむ。


ナナ「大丈夫!?」


全員が心配そうに駆け寄る


スズ「はあ..なんとか..ね。」


サバタ「ふう...」


ロミオ「お前、スズに感謝しろよ!命救われたんだからな!?」


サバタ「....ふん」


シエル「二人とも、アナグラへ戻ったらすぐにサカキ博士のメディカルチェックを受けて下さい。
あんな無茶をしたんです。何が起こってもおかしくない状況です。」


スズ「うん、そうするよ。」


シエル「立てますか?」


スズに手を差し出す。


スズ「ありがとう。」


シエルはサバタにも手を差し出そうとする。


サバタ「大丈夫だ。」


サバタはゆっくり立ち上がる。


ロミオ「とりあえず早く戻ろうぜ。ヘリも来ていると思うぞ。」


シエル「ええ、そうしましょう。」


ブラッド隊はヘリへ歩き始めた。


サバタも少し遅れて歩き出そうとする。


少女「サバタ。」


すると後ろから呪刀の意識体の少女が声をかける。


サバタ「あ?」


少女はゆっくり語りかける。


少女「あの隊長さん、さっきのでサバタのオラクル細胞が自分の体に入ってしまった。」


サバタ「それがどうした。」


少女「多分私のこと見えるようになってるよ。」


サバタ「...!」


少女「私は構わないけど。サバタはどう思う?」


サバタはイラつきながら頭をかく。


サバタ「くそ...。面倒だぜ。」


そう言ってゆっくりタバコに火をつけた。





第4話 完