第5話














「おい、しっかりしろ!」


『わ、悪いな...。どうやら俺は、ここまでみたいだ。』


「ふざけるな!!お前だけは...絶対死なせねえぞ!!」


『サ、サバタ...みんなを守れるのは、お前だけなんだ...』


「く...!」


『だから、頼む...!』


『みんなのこと...任せたぞ。』



 


サバタ「くそ!」


自室で大量の汗をかくサバタ。


薄暗い部屋の中、時計に目をやる。


時刻は深夜3時を過ぎていた。


サバタ「...夢か。」


サバタは服で汗をぬぐう。


サバタ「いやな夢だぜ。」


そう呟き、再び横になった。




ー5時間後ー


アナグラでは、いつも通りの朝を迎えていた。


エントランスで任務のブリーフィングを終えたブラッドは出撃の準備を整えていた。


そこへ、一人の女性が近づく。


「やあ、おはよう。」


スズが振り返る


スズ「あ、リッカさん。おはようございます。」


神機整備士の楠リッカだ。


まだ10代だが整備士としては既にプロ級の腕前だ。


リッカ「任務前にごめんね。少し話があるんだけど、いいかな?」


スズ「はい、大丈夫ですよ。」


スズとリッカは神機保管庫へ場所を移した。


リッカ「ブラッドのみんなから話は聞いたよ。昨日の任務では随分と無茶をしたって。」


リッカは苦笑いで言う。


スズ「ああするしか思いつかなくて。」


サバタのオラクル細胞の暴走を食い止めた時のことを思い出す。


リッカ「それで昨日のメディカルチェックなんだけど、やっぱり二人ともバイタルがあまり安定してないんだ。まあ、あんな無茶をしたから当然のことなんだけど。」


スズ「たしかに体は少し重いです。」


リッカ「うん、だからくれぐれも無理はしないように。こっちも全力でバックアップするから。」


スズ「はい、ありがとうございます。」


スズは会話を終え、ブラッドと合流した。


シエル「隊長とサバタさんは今日は無理をなさらぬよう。後方支援をお願いします。」


スズ「うん、ありがとう。」


サバタ「...。」


ブラッドはヘリに乗り込み、作戦エリアへ向かった。




ー2時間後ー




ナナ「ふぅ〜。これで全部片付いたね。」


討伐対象のアラガミを倒し、ブラッドは一息ついていた。


スズ「みんなのおかげでだいぶ負担が少なく戦えたよ。ありがとう。」


ロミオ「おう!お安い御用だぜ!」


そのとき、フランから通信が入る。


フラン『作戦エリア周辺にて、強力なオラクル反応を確認!...これは!?』


シエル「どうしました!?」


緊張が走る。


フラン『過去にデータのないオラクル反応です!おそらく極東では初めて観測されるアラガミです!危険度が高いため、全員一度撤退して下さい!』


フランは強い口調で呼びかける。


スズ「みんな、早くヘリに乗ろう!」


ブラッドが撤退しようとしたそのとき


『グオゥゥゥ!』


少し離れた場所からアラガミのうなり声がかすかに聞こえた。


サバタ「この鳴き声は...!」


サバタが反応する。


サバタ「こっちか...!」


うなり声のした方向へサバタは駆け出した。


ロミオ「お、おいどこへ行くんだよ!」


スズ「私が連れ戻してくる!みんなはヘリを守ってて!」


そう言うとスズはサバタを追いかけた。


サバタ「どこにいやがる。」


サバタは走るのをやめ、周りを見渡した。


しかし、敵らしきものは見当たらない。


サバタ「気のせい...か?」


スズ「あ、あそこにいた。」


スズはサバタを見つけ、連れ戻しに向かう。


だがその時、サバタの頭上で何か影が見えることにきづいた。


スズは目をこらした。


そこには建物の2階からサバタに狙いを定めるヴァジュラの姿があった。


サバタは他のことを考えていて気づいていないようだ。


そして、ヴァジュラがサバタの頭に向かって牙を突き立てて飛びかかる。


スズ「サバタ危ない!!」


サバタ「!」


スズが銃形態へ切り替えようとしたそのとき


物陰から一人の少女が現れた。


少女はヴァジュラに切りかかり、サバタを助ける。


スズ「あ、あの子は!?」


ヴァジュラは急所を突かれ、よろめく。


そこへスズがダッシュで詰め寄る。


スズ「おりゃあ!」


スズはヴァジュラの頭部に神機を叩きつけ、トドメを刺した。


ヴァジュラが死んだのを確認し、スズはサバタの方を見る。


スズ「サバタ!勝手に突っ走らないで!」


サバタ「...ちっ。」


スズは少女の方に向き直す。


スズ「君は...神機使い?」


まだ10歳くらいであろう幼い少女が神機を持って突然現れて、スズは驚いている


サバタ「ふん、やはり見えるんだな。」


少女「うん、そうみたいだね。」


スズ「?」


スズは二人のやりとりに首をかしげる。


サバタ「こいつは人間じゃないぞ。」


スズに向かってサバタは言う。


スズ「え、どういうこと?」


少女はスズを見て、静かに口を開く。


少女「私の名前はリル。サバタの神機、<呪刀>に宿る精神体。最近サバタの神機が暴走を始めたことによって神機から出てきたの。」


スズ「え..その、言ってる意味が..」


スズは動揺する。


リル「驚くのも無理ないよ。でもこれは全て事実なの。そして私の姿はサバタとあなたにしか見えない。」


スズ「な、なんで私にも見えるの?」


リル「昨日呪刀の暴走をサバタと一緒に食い止めたでしょ?そのとき呪刀のオラクル細胞があなたの体にも入った。それであなたにも私が見えるようになったの。」


スズは唖然としている。


だが何かを思い出したかのようにハッとした。


スズ「そういえば前にリンドウさんに聞いたことがある。...神機には精神体がいるって話。」


スズは呟く。


そのとき、遠くからナナの声が聞こえた


ナナ「あ、いたいた!おーい、早く戻ろうよー!」


スズ「あ、うん!すぐ行く!」


スズはナナの様子を見る。


スズ「...本当にこの子が見えていないみたいだ。」


リル「うん。他の人には見えないよ。」


スズはヘリの方へ歩き始める。


スズ「サバタ、戻るよ。」


サバタは辺りを見渡している。


サバタ「さっきの鳴き声は...間違いねえ。」


そう呟き、スズの後ろを歩き始めた。


ブラッドとサバタはヘリに乗り、アナグラへ戻った。


エントランスではフランとサカキが出迎えた。


サカキ「やあ、おかえり。」


ナナ「サカキ博士、一体何があったんですか?」


サカキは説明する。


サカキ「うむ。通信で説明はしたんだけど、改めて説明しよう。
君たちがいたエリアの付近で極めて強力なオラクル反応が検知された。これは間違いなく極東では初めて観測されたものだ。
是非ともそのコアは欲しいところだけど、相手は未知のアラガミだ。
もっと相手のことを調べてからじゃないと討伐は厳しいものになる。それで撤退してもらったのさ。」


一同に緊張が走る。


シエル「あまり、野放しにはできませんね。」


サカキ「うむ。こちらも解析に全力を尽くすよ。」


そのとき、サバタが静かに口を開く。


サバタ「...オロチだ。」


一同はサバタの方を見る。


サバタ「あの鳴き声は間違いねえ。奴の声だった。」


サカキ「オロチだと...!話には聞いたことがある。
旧ヨーロッパ地方で過去に何度か観測されたと。」


サカキの表情が険しくなる。


サカキ「だが立ち向かった討伐部隊はいずれも壊滅し、神機使い達は全員死亡したと。」


ロミオ「マ、マジかよ。」


サカキ「もしさっきのオラクル反応がオロチだとしたら...。うかうかしていられないな。」


スズ「あの、私たちはどうすれば..?」


サカキ「ふむ。もっとデータが集まり次第、討伐任務を発行するよ。それまでは通常の任務をいつも通りこなしてくれ。それと..」


サカキは続ける。


サカキ「奴と遭遇してもくれぐれも無茶な戦闘は避けるように。まずは身を守ることに専念してくれ。」


スズ「分かりました。」


一同はそれぞれの部屋に戻った。


スズは部屋に戻ってすぐにターミナルを立ち上げた。


そして神機の精神体について検索をかけた。


すると、支部の極秘ページが出てきた。


スズはパスワードを打ち、ページを開いた。


スズは出てきたページを食い入るように見つめた。


スズ「...レン?」


そこに書かれていた文章を読んだ。


『 レン
 第一部隊隊長雨宮リンドウ少尉(当時)の証言に登場する、神機に搭載された「アーティフィシャルCNS」に形成したと類推される擬似人格が具現化した存在の名前。
どのような経緯で、また何が要因となってこのような事象が発現したのか、一切不明である。
また、他の神機に本件で観測された「神機の意思」が存在するか否かについては確証がなく、研究が開始されたばかり、という段階である。
※本情報は極東支部外秘とする。』


スズ「なんだか小難しいな。」


スズは難解な表情を浮かべる。


スズ「今後リンドウさんに詳しく聞いてみようかな。...あ、でもあの人大雑把だしなぁ。」


一人で小言を言っていると、部屋がノックされた。


コンコン


スズはハッと我に帰る


スズ「あ、はい!」


ノックの主はリルだった。


リル「あの、リルだけど。今いいかな?」


スズ「あ、どうぞ入って!」


ドアがゆっくり開かれる。


リル「あの、いきなり来てごめんね。」


スズ「ううん、気にしないで。まあ、座って。」


スズはリルをソファに座らせる。


リルは座ったまま何も話さない。


スズ「あ、良かったら飲まない?」


スズは甘い紅茶をカップに入れてリルに勧める。☕️


リル「あ、ありがと...。」


リルの表情が何かぎこちない。


さっきは落ち着いた雰囲気で喋っていたのとは対照的だ。


サバタ以外の人間と二人きりになるのは初めてだから気まづいのだろう。


リル「ん...。美味しい。」


リルの頬が少し緩む。


そんなリルを見て、スズも微笑む。


こうして見ればごく普通の少女だ。


スズ「ところで、ここに来たのは何か話したいことがあったから来たの?」


リル「うん、サバタのことなんだけど。」


リルはカップをテーブルに置き、続ける。


リル「サバタのことだから多分、自分のこととか全然話してないんじゃないかなと思って...」


スズ「そういえばサバタの過去とかは知らないなあ。聞ける雰囲気でもないし。」


リルは再び紅茶を口にふくむ。


リル「サバタが所属するカタストロフィはね、元々神機使いとしてアラガミと戦いながら、身寄りのない子供たちを保護する活動もしていたの。サバタも幼いころからそこで育った。
適性のある子供には神機使いに、そうじゃない子供には整備士や科学者として生きる術を教えていってたの。」


スズは黙って耳を傾ける。


リル「そこではイルダの両親が科学者として色んな研究をしていたの。他の子供たちにとっても親みたいな存在だった。裕福な生活じゃなかったけど、みんなで力を合わせて生きていたの。」


スズ「フェンリルは何もしてくれなかったの?」


リルの表情が曇る。


リル「イルダの両親は明るい未来を作るためにずっと一生懸命研究していた。
けどその想いが強すぎるせいであまり周りに理解されなかったの。フェンリルからも危険人物みたいに言われていた。
それでカタストロフィにはどこの組織も関わりを避けたの。」


スズはイルダの両親の気持ちを考え、悲しそうな顔をする。


リル「カタストロフィには神機使いとしての適切がすごく高い神機使いが二人いてね、その二人はみんなにすごく頼られていたの。
それがサバタとサバタの親友。」


スズ「親友がいたんだ。」


スズは意外そうな顔をする。


リル「うん。二人は兄弟みたいに仲良しでね、充実した毎日を送っていたの。
あの日が来るまでは...。」


そう言うと、リルはサバタの詳しい過去を静かに語り始めた。









ー9年前  2071年 旧イングランド地方ー



サバタ「うおりゃあ!!」


子供時代のサバタがアラガミに神機を突き立てていた。


『グゥゥ!』


悲鳴を上げ、動かなくなるアラガミ。


サバタ「よし、これで全部だぜ!」


サバタが意気揚々としていると別の場所からもう一人少年が現れた。


「おう、サバタ!今日は俺の方が倒したぜ!」


サバタ「ああ?何言ってんだよ!俺様の方が活躍したに決まってんだろ!」


「いやいや、お前がこのガラム様に勝とうなんて100万年早いぜ!」


サバタ「お、言ったなガラム!だったら拠点まで走って競争だぜ!」


そう言うとサバタは勢いよく走り出した。


ガラム「ちょ、待て!ずるいぞサバタ!」


ガラムもサバタを追いかける。


サバタ「言っとくが勝った方が晩飯のおかず一つもらうからなー!」


ガラム「いや、いかん!!」


二人は拠点へ楽しそうに走り続けた。


サバタ「ただいまー!」


サバタが拠点へ戻ると、サバタより年下の子供たちが出迎える。


「サバタお兄ちゃんおかえり!今日の任務はどうだった?」


サバタ「おう、今日も大活躍だぜ!あとでまた聞かせてやるから楽しみにしておけよ!」


「わーい!」


子供たちは嬉しそうに奥の部屋へ戻った。


ガラムもやり取りを後ろで見ていた。


ガラム「ふう。あの笑顔のためにも、俺たちは死ねないな。」


サバタ「ああ、そうだな。」


ガラム「他のみんなもそろそろ任務から戻ってくる。先にシャワー浴びちまおうぜ!」


サバタ「おう!」


二人は仲良く部屋に戻り、シャワーを浴びた。


その夜も、みんなで楽しく晩飯を食べていた、


サバタ「...んでよお、アラガミの攻撃をサッと避けて後ろからズバッ!!...決まったぜ。」


サバタは今日の任務の出来事を子供たちに話していた。


「わあ、サバタお兄ちゃんカッコいい!!」


サバタは自信満々な表情を浮かべる。


ガラム「おいお前ら、俺の活躍話も聞かせてやるよ!」


横からガラムが入る。


「んー、サバタお兄ちゃんの話聞けたからもういいや!」


ガラム「ズコーッ!」


サバタ「ハッハッハ!」


「あはははは!!」


そんな楽しいやり取りをしながら晩飯を食べ終えた。


晩飯を食べ終えるとサバタはイルダの両親に呼ばれた。


「はい、食後の薬だよ。」


サバタはカプセルの薬を渡された。


サバタ「ん、サンキュー。」


サバタは薬をその場で飲んだ。


「何か体調に異変があったらすぐに言ってね。」


サバタ「おう。それじゃあおやすみー。」


サバタは部屋へ戻った。


部屋にはガラムもいた。


ガラム「おう、薬飲んできたのか?」


サバタ「そうだよ。」


サバタは椅子に腰掛ける。


ガラム「確か、オラクル細胞の暴走を抑えるための薬だっけ?」


サバタ「おう。何か知らないけど俺のオラクル細胞ってすげえ激しいらしいんだ。だから時々薬を飲む必要があるんだってさ。」


ガラムが興味深々に聞く。


ガラム「けどよ、それって何か秘められた力が隠されてそうじゃね?こう、新たな力に覚醒する!みたいな?」


サバタもそれに反応する。


サバタ「お、それカッコいいな!隠された力か....。男のロマンだな!」


ガラム「いいなー。俺も何かカッコいい力とか欲しいなー。」


サバタ「お前にはまだまだ早いぜ!」


ガラム「なんだとー!?」


二人はいつも通り楽しい夜を過ごした。


サバタ「ふう。今日も遅いし、そろそろ寝るか。」


時計は0時を回ろうとしていた。


ガラム「ああ、疲れたぜ。」


サバタは子供たちの笑顔を思い浮かべながら布団に入った。


サバタ「あのガキ共のためにも、明日も頑張らないとな。」


ガラム「ああ、だな。」


ガラムも布団に入る。


サバタ「んじゃ、明日もよろしく頼むぜ。お休み!」


ガラム「ああ、お休み!」


二人は眠りに入った。


その表情はとても充実した寝顔だった。


この時は、のちにあのような悲劇が襲うとはまだ誰も想像すらしていなかった...




第5話  完