心のはたらき(防衛メカニズム)その1 赤ん坊の時 | アート&ウッドチップス研究会

アート&ウッドチップス研究会

      Arts & WoodChips Study Group
アート&ウッドチップス研究会(AWC研)では、アート作品
とりわけウッドチップス造形を通して、アートセラピー
について体験と考察を深めていくことを目指しています!

前回まで,アートセラピーは,心のケアに関わる,
ひとつの心理療法だということをお伝えしてきました。

人の心に関わるということは,心のはたらきの特性を知っておく必要があります。

人はストレスにされされたとき,自分の心を守るために,いろいろな方法を使います。

その中で,心の特性として有名なものが,精神分析の用語で,

心の「防衛メカニズム」です。

(「防衛機制」とよく言われます)

例えば,イソップ物語の中で,キツネが高い場所のブドウを取れずに悔(くや)しがる場面で,
「どうせあんな高い所のブドウは,酸っぱいに決まってるサ」とブドウにケチをつけて,諦(あきら)めます。
これは,実は防衛メカニズムのひとつで,「合理化」と言われるものです。
つまり,ここでキツネは,満たされなかった欲求に対して,諦めるのに理屈をつけて,心の中から欲求を解消させようとしています。

甘いおいしいブドウだったら,場所が高くて届かず食べられないのは,とても悔しいですね。

でも,それが酸っぱいブドウだったら,食べられなくても,それほどには悔しくないですよね。
こうして,理屈をつけて,悔しさの程度を低くするわけです。すると,心は少し楽になります。

ですから,防衛メカニズムは,心の葛藤を多少なりとも,楽にします。

こうした心の防衛メカニズムは,赤ん坊のときから動き始め,生涯を通じて,はたらいています。これは,誰でも使っているものです。

しかし,赤ん坊の頃のものと,それ以降の大きくなってからのものとでは,種類が異なってきます。

赤ん坊のときの心の防衛メカニズムで有名なものに,分裂,というものがあります。

分裂,というと,なんだか,赤ん坊がそんなことをするのか,と思ってしまいますが,ようは,2つに分けることです。

どのように2つにわけるのかと言うと,良いものと,悪いもの,この2つに分けます。

赤ん坊にとって,まだ周りの世界は,未知のものばかりです。

赤ん坊は,自分を守るために,自分の周りにあるものを,自分にとって,良いものと,悪いものの2つに,分けます。

良いものは,近づけて自分のものにしますが,悪いものは,遠ざけて身近な他の人(多くの場合,母親)に担ってもらいます。

こうして赤ん坊は,自分の栄養を取り入れて,その一方で,外敵から守ることができるわけです。

赤ん坊の頃には,細かい分け方は難しいですから,単純に,2つに分けてしまうわけです。

さらに半年過ぎて,良いものの中にも悪い部分があるし,悪いものの中にも良い部分があるし,というふうに,
ひとつの対象の両側面を見ることができるようになりますが,赤ん坊の最初から,それは難しいのです。

しかし,この分裂のはたらきが,のちに物事を識別して理解していく基礎になります。

大人になってからでも,危険な状況にでくわしたり,心の調子がくずれたり,傷ついたりすると,
心にとって,緊急に危険を回避する必要性が高くなり,この分裂の防衛メカニズムが,またはたらきはじめます。

あまりにショックが大きいと,対象を分割しないで,自分の心を分割してしまうことさえ起きます。

つまり,赤ん坊の頃のこうした心の防衛メカニズムを知っておくことが,大人の心を知る上でも,とても重要になってきます。



アートセラピーでのコラージュ作品

参考文献
関則雄(2016).臨床アートセラピー 理論と実践.日本評論社.
松木邦裕(1996).対象関係論を学ぶ―クライン派精神分析入門.岩崎学術出版社.
中島義明他(編集)(1999).心理学辞典.有斐閣.
メラニー・クライン(小此木啓吾・岩崎徹也・責任編訳)(1985).メラニー・クライン著作集4.妄想的・分裂的世界.誠信書房.