昨年、父が亡くなった時に
葬儀の打ち合わせに弟と一緒に同席した。
私は東京での生活が長く、弟の方が親と
過ごした時間が長いものの二人兄弟で
母が年老いておぼつかないので、私達が
葬儀の内容を決めることになった。
突然ではなかったが、家族全員が
何の心の準備もなく父は旅立ってしまった。
なので、葬儀も身内でやろうと言っていたのだが
田舎で親戚が近くにいて、参列の希望が多かったので
割ときちんとした葬儀内容に必然的になっていった。
その中で、お父様の好きな曲をピアノの演奏者が
弾くというサービスがありますと言われた。
音源を流す方法でも良いですよと言われたのだが
弟と何にしようと考えた挙句
ナット・キング・コールの「Smile」に決まった。
当然ながら、セミプロの演奏者なので
Smileは問題なく演奏が出来るとの事だった。
ジャズ好きでだったし、暗い曲よりは明るい方が
父の人柄にもあっているということで
鼻歌でよく歌っていたナット・キング・コールの
楽曲で家族全員一致の決定だった。
ところが、お葬式の直前になり
弟がピアニストに
ノラ・ジョーンズの「What Am I to You?」は
演奏出来ますかと言い出した。
「え?」と家族は思ったし
葬儀社の方も戸惑っていたのだが
ピアニストからは弾けませんと
けんもほろろに断られてしまった。
そりゃそうだよね、直前までSmileを
練習して、楽譜だって用意してきていて
急に曲を替えろって無理だろうと。
弟に事情を聴くと
晩年の父のお気に入りはノラ・ジョーンズで
What Am I to You?を車の助手席でも良く聴いて
声も歌もとても好きだと言っていたことを
急に思い出したらしい。
What Am I to You?
Songwriters Jones, Norah
Lyrics © EMI Music Publishing
What am I to you?
Tell me, darling true
To me you are the sea
Vast as you can be and deep the shade of blue
・・・・・
When I look in your eyes
I can feel the butterflies
Could you find a love in me?
Would you carve me in a tree?
Don't fill my heart with lies
I will you love when you're blue
Tell me darlin' true
What am I to you?
この歌詞を葬儀で聴いたら
私達は間違いなく号泣しただろう
「あなたにとって 私って?」
と聞き返すこの歌は
父からの愛の言葉だと思っただろうし
~あなたが落ち込んでいても 私はあなたが好きよ
正直に教えてよ
あなたにとって私って何?~
と最後に言われたらと思うと
やはり、この曲でなくて
Smileで良かったのかも。
Smile, though your heart is aching
Smile, even though it's breaking
When there are clouds in the sky
You'll get by
私はあなた達にとってどんな存在?と
すぐに答えられない問いかけよりも
「笑って、どんなにつらくても笑って
そうすれば乗り越えられる」と
励ましてもらう方が、その時の私達に
とっては慰めになったと思う。
でも、弟の言葉で
父が「What Am I to You?」を愛聴していたと
知り、私達はより彼の存在を
濃く深く感じるのだった。
父は私達にとってどんな存在だったのか
すごく強くて優しくて頼れるそして
身内を大事にする人だった。
仕事ばかりして、人の世話をするのが好きだった。
音楽が好きで歌が上手だった。
葬儀には知らない人が沢山いらして
世話になったのでと深々と丁寧に
ご焼香をして下さった。
車椅子でわざわざ出向いて下さる方もいた。
私達家族の知る父はきわめて個人的な人で
自分の話はほとんどせず
早朝から散歩をして時間になるとラジオ体操をし
庭の手入れをしたり玄関周りを掃除して
決まった時間に仕事に出かけ
感情的に起こったりもせず
いつもニコニコしており、寡黙な人だった。
笑顔だけでなく、もしかすると
心に溜めていた思いがたくさんあったのかも
しれない。
一度も怒られたこともなければ
手を上げられたこともない私は
父の悲しみや辛さや悩みをどのくらい
理解していただろう。
勿論、Smileを葬儀の中で流した時
多くの人が父を偲んで涙して下さったが
「What Am I to You?」と
問いかける父もいたのかもしれないと思うと
この曲は忘れられない大切な歌となった。
ノラ・ジョーンズがこの秋来日する
武道館と大阪城ホール。
行かねば、ね。
泣いてしまうかもしれないけれど。
やっぱり音楽が好きということで。

